見出し画像

vol.108 ゲーテ「若きウェルテルの悩み」を読んで(高橋義孝訳)

読み終わり、本を置き、目を閉じる。心にしっくりしない疑問が浮かぶ。

なぜウェルテルは、自殺を決意したのだろうか。
人を愛することと死がどうして結びつくのだろうか。

【あらすじ】舞踏会で知り合った裁判官の娘ロッテに恋をしたウェルテル。彼女には婚約者がいることを知りながら、その美しさや豊かな感性に惹かれる。人妻となったロッテも、ウェルテルの優れた面を認める。会うごとに夢中にるウェルテル。かなわない恋に煩悶を繰り返す。最終的にロッテへの愛を美しいままにとどめようと、自殺によって身を引くことを決意する。作品は、主人公ウェルテルが、友人に宛てた手紙で構成されている。(あらすじおわり)

今から約250年前に書かれたこの小説、ゲーテ自身の失恋と友人の自殺を結びあわせて、自伝的に反映したものらしい。

この結末はグッと読み手を引き込む。だけど、「なぜ、ウェルテルはこの世を去ろうと決意したのか」やはりそこが気になった。極限まで自己を追い込んでいくことに、僕は不自然さを感じた。

僕の視点で少し考えてみた。

画像3

好きになった人が、たまたま誰かの奥さんだったということはあるだろう。好きになってしまったのだから、一緒になりたい気持ちも当然だ。また相手が人妻なら、置かれている立場に思い悩んだりもするだろう。

そもそも「誰かを好きになる」は、悪いこととして捉えないので、悩みの奥に気づかない「心地よさ」があるかもしれない。ましてやこの場合、ロッテはウェルテルを尊敬しているのだから、ロッテとの関係を永遠にしたくて死を選ぶという判断は、自己肯定感の強い僕にはできない。

ウェルテルの暗い人生観、ゼロか百かの極端な思考、追い込まれていく感情は、社会的な背景の違いなのだろうかとも考えてみた。

一般的に死を選ぶ背景には、社会不安との相関がある。この作品が書かれた1773年は産業革命前で、ドイツではまだ農奴制ころだ。価値感も違うし生き方も違う。作品のウェルテルは上流階級ではないけれど、生活は裕福で教養があり道徳規範も高く描かれている。

画像2

この物語を少し遠目に見ると、死がとても身近に描かれている。生きている世界は狭く、人間関係が濃厚で、言葉に人生を変えるほどの強い影響力を持たせている。その中で、恋は特別な性質を帯びるものだったと、想像してみた。

もういいか、この物語、十分に楽しめた。

だけど、これが出版された当時、多くの若い読者が、ウェルテルを真似て自殺したとあった。確かに、わからないでもない本物のようなリアリテイのある表現は、ウェルテルに同化しそうになる。

少し調べてみた。

厚生労働省統計の令和2年中の男女問題で自殺した人は799人だった。

僕はこんな資料を漠然とみられない。一人ひとりにある様々な事情を想像することが大切だと思う。

「人を好きになると人生が豊かになる」と思える社会であってほしい。

おわり

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?