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もう何もできなくなってしまったなら、新しい旅を始めよう


もう一度 生まれ変わるなら
もう一度 自分になりたい


こんな歌い出しから始まる曲がある。
馬場俊英さんの「オオカミの歌」という曲。

すごく久しぶりに聴いた。
そのときのことを自分が忘れないように
ここに残しておきたい。



前職場でお世話になった先輩に会う前日の夜。



私が適応障害と診断されて
1ヶ月の休職ののち仕事を辞める前、
唯一自分から約束をして会った方。
とにかくこの人には自分の口で
職場を辞めることを伝えたいと思い
ぼろぼろのまま、泣きながら話した。

満身創痍だったそのときは
辞めると伝えることで本当に精一杯だった。
色々と落ち着いた今、伝えられなかった3年間の感謝を
言葉にしたいと感じ、手紙を書いて明日渡そうと考えた。


感謝をていねいな言葉で綴っていると
3年間働いてきた中で先輩が私にかけてくれた言葉が
どんどん記憶から蘇ってきた。
その記憶から、いかに私が愛され、見守られてきたか
改めて気づかされた。

同じチームの直属の先輩として
私の助産師としての3年間を見守ってくれて、
いつもそばで成長を喜んでくれていた。
私が自分のことを信じられなかったときでさえも、
私のことを信じてくれていた。
今回仕事を休んだときも、辞めたときも
その先輩はすべてを優しく受け止めてくれていた。


先輩はずっとずっと私に
あたたかい愛を注いでくれていた。
しかし、働いていたときは
私はそれに気づくことができなかった。
できない自分をずっと愛せずにいたから、
自分に注がれている愛を受け取ることを許さなかった。

1人で立とうとしすぎて
支えられていることに気づかなかった。
いつもそばにいてくれる人に、本当に気づかなかった。
手を払い、目を閉じてしゃがみ込んでしまって
気づいたときにはもう立てなくなっていた。


その先輩が注いでくれた愛を、優しさを
手紙を書いたことで、やっと受け取れた気がした。
嬉しくて、本当に嬉しくて、
手紙を書きながらずっと泣いていた。


もっと早く自分を支えてくれた存在に気づいていれば
辞めずに済んだのか、とかはもう思わない。
無理だった。気づけなかったことは、本当に仕方ない。どうしようもなかった。
心がおかしくなってしまっていたから、
仕方のないことだった、としか思わない。
どれだけ支えられてもらっても、
私があの場にいることは、もう無理だった。

勇気を出して離れて、
きちんと自分のためになることをしたから
いま、気づくことができた。
誰かがくれた愛に気付き、
私は愛されている人間なんだとわかったとき、
私の今回の心の風邪は
もう本当に大丈夫になったんだな、と思った。



トンネルを一つ掘り終えて、
外に出たような清々しい気持ちになった。
たくさん泣いたから心が優しくほぐれて、
風通しが良くなった。



頬には冷たい風が吹き付けている
でも胸に暖かい風が吹いている

風通しが良くなった、と感じた時に
オオカミの歌の、この節が頭の中を巡った。
頬を伝う涙と風通しが良くなった心が、
歌詞とリンクして思い出した。




大好きだった歌。
馬場さんの曲で一番好きな曲は、と言われたら
これを選んでいた。
人生で一番大切な曲は、と聴かれた時も
この曲を選んだこともある。


それなのに、長い間聴いていなかった。
聴けなかった。
頑張っていた頃の自分が好きだった歌は、
頑張れていない自分を責められるように感じてしまいそうだった。



それでも今日は自然に聴きたいと思い、再生した。

さっき思い出した節が聴こえてきた。

頬には冷たい風が吹き付けている
でも胸に暖かい風が吹いている
傷ついて 苦しんで
優しさと 淋しさを知る

ああ。そうなのか。
私は、本当の優しさと寂しさを知ったんだ。
それを知ったときに流れる涙と
暖かい風を、感じることができたんだ。


羊たちの群れが 眠りに就いた頃
胸の中のオオカミが 目を覚ます
月を見上げて 本当の自分に戻る

道に迷い 地図はちぎれて
でもまだ 旅は終わらない
隠すことや 誤摩化すことに疲れたなら
少し休もうじゃないか

何もかもに疲れ果てて
誰もみな どこかに消えてしまって
もう何もできなくなってしまったなら
新しい旅を始めよう

響いて、響きすぎて、心がぎゅうぎゅう痛い。
「誰もみな どこかに消えてしまって」


私が長期で仕事を休んでいたあのとき、
職場の人たちは本当にたくさん心配して
メッセージを送ってくれた。
しかし、そのどれもが響かないくらいに、疲れていた。
たくさん手を差し伸べてくれている人はいたけど
誰の姿も見えなくなっていた。
本当に、消えてしまっていた。
私が消していた。

...過去の私はなにを受け取って、どう理解して
この曲を好きと言っていたんだろう。
それでも過去の私が聴き込んでいなければ
こうやって今思い出し、聴くことはなかった。

ああ、音楽との出会いは本当に不思議だ。


私は6月から新しい道に進む。
離れて見つめたことで、
自分が以前選んだ助産師という仕事が
本当に好きなんだと気づくことができた。
もう一度、挑戦したいと思った。
そう思って進めたことが、すごくすごく嬉しい。




月影のオオカミに そっと耳を澄ましてごらん
小さな 小さな声で ほら 何か歌っているだろう

さあ胸に 手を当ててみて
ほら君のオオカミの歌が聴こえるだろう
荒野に鳴り響く 新しい夜明けの歌なのさ

道に迷い地図はちぎれて
でもまだ 旅は終わらない
隠すことや誤魔化すことに疲れたなら
新しい旅を始めよう

これからの旅がどうなるか、は一旦置いておいて。

自分の気持ちと、周りの人が注いでくれている愛
どちらにも気づくことができた、今の自分が
本当に好きだと思う。


目に見える成果はない3ヶ月間だったけれど
本当に必要な時間だった。
それは、自分の気持ちを大切にして
勇気を出した私が得たものであることを
忘れずにいたい。
そして、
それを許してくれる人たちが近くにいてくれたから
叶えられたということは
もっと忘れずにいたい。


もう一度生まれ変わるなら、もう一度自分になりたい。


長い長いトンネルを抜けた今、
心の底からそう思えていると言える。



※文中、タイトルに馬場俊英さんの「オオカミの歌」の歌詞を引用させていただいています。









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