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【心に残るドラマ】 サ道 (2019年 テレビ東京)

人生を変えてくれた作品といっても過言ではない。


いや、そんなありきたりな言葉では物足りない。このドラマを観てサウナと出会ったことにより、ぼくは西武ライオンズと並ぶ「生きる幸せ」を手に入れたのだった。感謝してもしきれない。


主役は原田泰造演じる「ナカちゃん」さん。会社員という風情ではない。「イラスト関係の仕事」をしていて、いつもカジュアルな服装。身軽にふらっとサウナに立ち寄り、堪能している。そんな彼のホームサウナである上野の「サウナ北欧」で、いつの間にか意気投合するのが、同じく常連の「偶然、偶然」が口癖の「偶然」さん(三宅弘城)。そしてクールで物知りなイケメン「蒸し男」くん(磯村勇斗)。


この3人がサウナ室や休憩所でまったりと交わすトークが中心に展開される。見どころは、その中でナカちゃんが回想する、各地のサウナを楽しむシーンだ。毎回実在の有名サウナで至福の時を過ごす様子がドキュメンタリー風に映し出されている。過剰な演技も演出もないのだけど、その様子があまりにも幸せそうで、心底羨ましくなる。


でも、良いのはサウナシーンだけではない。彼ら3人の力が抜けたトーク、人生の機微を感じさせてくれるちょっとしたストーリー、実在のサウナーが語る純粋なサウナ愛。光や温度感が心地よい映像と、リラックスできる音楽。このドラマを観ていると、それこそサウナを楽しんでいるように、ボーっと、難しいことなんて考えずに過ごし、気づけば心がじんわりと温まっている。


これまで、ぼくにとってサウナは異世界だった。興味本位で足を踏み入れてはみるけれど、数分も耐えられない。水風呂だって子どもとの我慢比べで入ったことぐらいしかない。完全に「なくてもいい」存在だった。それが、このドラマを観ているうちに「どうしても行きたい」そんな気分にさせられた。これはすごいことだ。未知の場所に行ってみたいと思うのとはわけが違う。これまでの人生において、何度も間近に見て、実際に足を踏み入れながらも、関心がもてなかった人間に「どうしても行ってみたい」とまで思わせる、そんな絶大な力がこの作品には備わっている。ゆる~く、まったりと流れていく20数分間に、スタッフや役者による極上の技術とセンスが詰まっているのだろう。まったく恐れ入るしかない。


今や、家でくつろいでいても、仕事をしていても、まさに文章を書いているこの瞬間も、サウナのことが頭から離れない。サウナの後に水風呂につかる快感、そのあとの休憩に訪れる恍惚の時間が恋しくてたまらない。そう、これはもはや恋だ。自分がその場所に行きさえすれば、必ず成就する恋。ああ素晴らしい。


これからの人生、サウナとともに歩んでいく。運命の出会いをくれたこの作品。やはりこれからの人生において何度も観て至福に浸ることになるだろう。

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