第23回 インフルエンサーとrisk management

インフルエンサーとは、世間に与える影響力が大きい行動をとる人のことを言います。
特に最近は、主にSNSでの情報発信によって世間や人の思考、行動に対して大きな影響を与える人のことを指します。
その語源は『Influence』であり、影響や感化、効果作用を意味する英語です。
従来は、テレビや雑誌に出演する芸能人、スポーツ選手といった「有名人」がインフルエンサーでした。
しかし近年、インターネットを活用したSNSの普及により、ネット上で世間や人の意思決定に大きな影響を与える人が多くなっています。

実は、インフルエンサーの存在は、古代の方が、はるかに影響力が強かったのです。
なぜなら、情報に触れる機会が殆ど無かったのですから、インフルエンサー自体に触れることも限られていたからです。
だから、一旦信じられると、死ぬまで信じ続けられてしまうのです。

古代のインフルエンサーは、宗教家であることが非常に多かったのです。
そして彼らは、いつの時代も、為政者に多大な影響を齎しました。
その結果、宗教家は信奉や迫害の対象となっていたのです。

日本史を学んだ中で、最初に思いつくインフルエンサーは、行基です。
行基は、今の大阪府堺市出身で、遡ると和仁氏に繋がる百済系渡来人の家系でした。
あの西遊記で有名な『玄奘三蔵』から直接教えを受けた道昭に弟子入りして、仏教を学んだと言われている僧です。

この時代は、朝廷が寺や僧の行動を規定し、民衆へ仏教を直接布教することを禁止していました。
行基は、その規定を破って行基集団を形成し、畿内を中心に民衆や豪族など階層を問わず広く人々に仏教を説くのと同時に、困窮者の救済や道路の整備などの社会事業を指導していました。
だから、最初の頃の行基の活動は、朝廷から弾圧を受けていたのです。
しかし朝廷が、行基に対する民衆からの支持を利用するという立場に転じてからは、大僧正に任じられ、東大寺の建立に一役買ったのです。

この行基に対する民衆からの支持というものが、インフルエンサーとしての証拠になる訳です。
当時の民衆には学問が無いため、多くの苦難に遭遇しても、適切に対処することが出来ませんでした。
つまり、『risk management』的には、赤子同然だったのです。
そんな相手に、行基は、仏教と言う『risk management』の一手段を教えたのです。
無知な民衆は知恵を授けられ、行基を仏のように崇めるようになったのは当然のことなのです。
それは、『risk management』を教えてくれた上に、『risk』を未然に防止し、その後の対処にも協力してくれるのですから、当然の帰結です。

勘違いされたくないので何度も書きますが、宗教とは、単なる『risk management』の一流派に過ぎません。
現代人は、宗教を特別なモノと刷り込まれていますが、それは教育と言う名の洗脳に過ぎません。

政治も、本来は『risk management』です。
ただ、国という広い範囲の『risk management』は、集落という狭い範囲の『risk management』とは必ずしも一致しません。
だからどうしても、国を預かる朝廷の施策に対して反感を持つ地域の集落が出来てしまのです。

しかし朝廷としては、集落の『risk management』が出来る行基を迫害せねばならなくなる。
朝廷に対する支持が、行基に奪われることになるからです。
特に行基自身が支持されることを利用して、民衆を扇動し、朝廷を倒そうとすれば大問題に発展してしまいます。
行基を迫害するのも、実は朝廷の『risk management』だったわけです。

が、実際の行基は、朝廷を倒そうとは考えませんでした。
朝廷の手の届かない部分に、自分が代わりに手を差し伸べるという考えで、言わば朝廷を補完する活動に留めていたのです。
だから、朝廷は、行基の力を利用する方向に転換します。
朝廷に反感を持っていた民衆も、行基が支持するなら支持すると、朝廷の政治に対して協力的になった訳です。

実は、本来のインフルエンサーとは、『risk management』が出来る人のことを意味します。
『risk management』が出来ない人は、トラブルに巻き込まれないようにするには、どうすれば良いのか分かりません。
また、自分がトラブルに巻き込まれても、具体的にどう対処したら抜け出せるのか分かりません。
だから、身近にいる『risk management』が出来る人を支持するのです。
つまり、その人が言うこと、やることが正しいと決めて、その人を真似、従うようになる。
これにより、自分の安全を確保できると考えているのです。

そして、このイメージは、今のインフルエンサーも継承しています。
流行の先端を行くインフルエンサーが支持されるのは、その人のファッションに従っていれば、時代遅れになって恥ずかしい思いをしないで済むと考えるからです。
食事のインフルエンサーが支持されるのは、その人の紹介する店に行けば、美味しいものが食べられると考えているからです。
つまり、それぞれ失敗するというトラブルを軽減する為の『risk management』を、現代人も知らず知らずのうちにやっているのです。

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