アニメのビジネスモデルの整理(6)
前回は、アニメ制作会社にとって必要なビジネスモデルは、「収入のルートが複数あり依存的でなく、各収入のルートが持続的に安定なモデル」だと述べました。
一方、でも…今まで誰もなんか対策考えなかったんすか?という疑問も出てきたので、今回は現在までに試されている様々なアニメのビジネスモデルについて調べてみます。(計5つです)
※そういえば、今回の表紙画像は私がSHIROBAKOで一番好きな矢野さんですね。興津さんも好きですが。
その1、クラウドファンディング
まずは、クラウドファンディングを取り入れたビジネスモデルについてです。
クラウドファンディングとは、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語で、クリエイターや起業家が製品・サービスの開発、もしくはアイデアの実現などの「ある目的」のために、インターネットを通じて不特定多数の人から資金の出資や協力を募ることをいいます。
つまり、先にこんなアニメを作りたいのでお金を出資してくださいと出資者を集めて、十分資金が集まったらアニメ製作をスタートさせる形式です。
出資者のリターンとしては、製作されるアニメ作品自体や出資者のみの特典商品、アニメの売り上げから出る配当金などがあります。
メリットとしては、
・著作権がアニメ制作会社に残る
・資金力のない会社でも提案内容次第でお金を集めることができる
・アニメ作品を制作する前に顧客の反応がわかる(テストマーケティング効果)
デメリットとしては、
・作品の二次利用の販路をアニメ制作会社自身が用意しないといけない
(グッズ制作等についてアニメ制作会社は門外漢な場合が多いので大変)
・継続的なビジネスモデルとして確立できていない
この形式の事例としては、「Under the Dog」などがあります。
『Under the Dog』、Kickstarterアニメーション部門で世界一の記録達成! (歴代1位の支援金額)
その2、スマホアプリゲーム×YouTube
2つ目は、株式会社ミクシィがアプリゲーム「モンスターストライク」で試みているビジネスモデルです。
このモデルは、従来の広告収入方式でのアニメ製作と構造としては似たモデルとなります。
アニメ制作会社は、ミクシィから制作費を受け取り放映権と著作権を渡します。
そして、ミクシィは制作されたアニメをYouTube上で全世界同時に無料で配信します。
この時ミクシィは、アニメをあくまでアプリゲーム「モンスト」の広告として扱い、制作費の主な回収はアプリゲーム内の課金から行います。
(現時点ではアニメのBlu-rayなどの販売予定は無いらしい)
従来の広告収入方式との大きな違いは、アニメ配信をYouTubeに限定し、テレビ放送を行わない点です。
広告収入方式では通常、スポンサーからでた制作費は広告代理店と放送局を経由するので少なくないマージンが抜かれます。
その点、YouTubeでは基本的に配信に経費がかからないので、ミクシィから出資された制作費はそのままアニメ制作会社に届くわけです。
メリット
・制作費の中抜きが無い
・意見調整が手軽(権利関係や作品内容について)
デメリット
・著作権はミクシィにあるので、作品の二次利用ができない
・二次展開ビジネスをアニメ業界新規参入企業のミクシィが回し切れるのか不安が残る
・アプリゲームの1タイトルに収益が依存するので継続的に安定なビジネスモデルとは言えない(流行ってる時の利益率は高いが…)
その3、脱TV!UCウィンドウ戦略
3つ目は、機動戦士ガンダムUCで実施されたウィンドウ戦略についてです。
これは、制作したアニメをテレビ放送するのではなく、
Blu‐RayとDVDの発売、PlayStationStore(PSS)での配信、さらに映画館での先行上映を同日時に組み合わることで世に公開する方式です。
通常は、テレビ放送を観る→二次利用としてBlu‐RayやDVD等が販売
なので作品鑑賞と顧客が作品に対してお金を払うタイミングがズレていました。
しかし、機動戦士ガンダムUC(全7章)では、
Blu‐RayとDVD発売、PlayStationStore(PSS)での配信、さらに映画館での先行上映を同時に行うことでお金を払ってから作品をみるというビジネスモデルを構築しました。
機動戦士ガンダムUCは、全7章であったのでテレビシリーズとして放映することも可能であったはずですが、顧客に一度見た作品のBlu‐Rayを買ってもらうというビジネスモデルから脱却しようとした試みと言えます。
(テレビシリーズだと劇場版クオリティとはいかなかったとは思いますが…)
メリット
・お金を払って作品を観るという基本的なビジネスモデルなので、後から顧客に一度見た作品のBlu‐Rayを買ってもらうビジネスモデルより安定的
・劇場でシリーズアニメを観るという体験にお金を払っている傾向にあるので、顧客の感じるアニメ鑑賞に対する価値が大きい
・テレビを介さないので中抜きされない
デメリット
・資金力が必要
・出資金回収の手段が作品の1次利用か2次利用の違いはあるが、アニメ制作会社にとっての構造はあまり変わらない
補足1、新たな広告収入方式の形(TIGER & BUNNY)
これは、構造としては従来の広告収入方式でのアニメと同じですが、広告スポンサーの集め方に工夫のあるアニメです。
(画像はアニメ「TIGER &BUNNY」より)
上図のように、広告収入方式ではアニメの制作費はスポンサーとなる会社から出資されます。
スポンサーは、出資したアニメが人気になり、その前中後に流れるCMの視聴率が上がることを期待してスポンサーになります。
しかし、TIGER&BUNNYではアニメの作品内にもスポンサーのPRの場を盛り込みました。(作品内に登場するヒーローのスーツのロゴなど)
通常、アニメ内で企業のPRを行うことは視聴者に嫌われるために御法度なのですが、TIGER&BUNNYでは企業のPRが上手く世界観に溶け込んでおり視聴者にも受け入れられました。
(牛角さんの愛称でお馴染みロックバイソン↓)
これにより、TIGER &BUNNYは多くのスポンサーを獲得し、劇場版まで制作されています。
補足2、イベントで稼ぐラブライブ!
補足の2はラブライブについてです。
こちらも基本的な構造は、従来の製作委員会方式でBlu-ray(あとCD)から売り上げを作るビジネスモデルです。
(実際のラブライブの収益経路はかなり多様)
しかし特徴的なのは、Blu-rayやCDに特典としてイベントのチケットがついていることです。
イベント内容は多岐に渡りますが、特にキャラクターを演じる声優によるライブが人気であると言えます。
つまり、顧客は見かけ上はBlu-rayやCDにお金を払いますが、実際はそれ以上にライブに参加することに対してお金を支払っているわけです。
(ファンにとってこのライブの持つ請求力はすごい)
この記事のまとめ
この記事では、
3つの新しいビジネスモデルと、
補足として2つの従来のビジネスモデルの改良型について説明しました。
しかし、まだまだ有力な新しいビジネスモデルは確立されていないようですね…
ということで、次回につづく!
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