旨ミス→食欲と謎は比例する*日本編1

美味しい食べ物が登場する作品を、温かい飲み物と共に享受できることは何より幸福なことだ。

作家の方それぞれに出てくる料理に対する表現が違うのも、多数の作品を読んでいくなかでは、なかなかに面白い。

料理の見た目を重点的に(湯気のたつ豚の角煮の、照り照りとした表面、だとか)表したり、オノマトペを巧みにつかい、調理の場面の臨場感を演出したり。(特に揚げ物の咀嚼音ザクッ、さくさく、など堪らない。。)

人間の三大欲求の一つである食欲をかき立てる作品として、1つお薦めしたいのが

禁断のパンダ

装丁を見、可愛らしいパンダが描かれていることから、穏やかな日常ミステリの分類だろうと予想した。

こちらの作品、「このミステリーがすごい!」第6回目の大賞作品となる。

主人公として登場するのは、独立した若い男性料理人。

結婚しており、妊娠している奥さんのためにも、そして素晴らしい料理を提供するために自身のレストランで腕をふるい、日々切磋琢磨している。

ある日、彼は1人の料理評論家に出会う。

評論家は類い稀なる味覚を持ちあわせており、主人公はその評論家に自分の作った料理を食して、自身の料理を最高のものだと、認めてもらいたいと考える。

こちらの作品、読み進めるにつれてじわじわと忍び寄る暗澹とした雰囲気に、突如として急激に引き込まれる場面が登場する。

第一の穏やかな印象を良い意味で裏切る、どんでん返しがこの作品を引き立ててゆく。

人類の食は長い、とても長い歴史があるものだが、甘美なる食の追求の果てには、このようにダークな面が一欠片とも含まれていることを忘れてはいけないのかもしれない。

欲を満たす、ということがこんなにも恐ろしいものなのかと、違った視点で思い知らされる一作である。

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