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「好きな季節は?」と聞かれたら、「変わり目が好き。」と答える

季節の変わり目は、複雑な色をしている


少し前のこと。

朝、いつものように窓を開けたら、冬の匂いがやってきた(これ、なんの匂いなんだろう)。

あ、来た!と思うが早いか、言葉でうまく言い表せないいろんな感情が襲ってくる。いろんな色のやつが一気に来るから、ちょっとダークで複雑な色になる。

今まで経験したすべての冬が、一気に押し寄せてくる感覚。

わたしは、この瞬間が好き。

冬といえば、吉本ばななさん


冬になると、たまに思い出すことがある。

当時のわたしは、大学卒業後東京に出てきてまだ数ヶ月。仕事でもあまりうまくいってないときに、長く付き合った恋人とお別れした。

まあ、結構ボロボロの状態だった。


そんなときに、吉本ばななさんの短編小説に出会った。


当時のわたしは、「小説って、何のために読むんだろう?」と思っていた。当時好んで読んでいたのは、「ヤノマミ」というアマゾンの奥地に住む民族の話とか、フィンランドの神話とか、野村萬斎さんのエッセイとか、内田樹さんとか。架空の話よりも、知りたいことがたくさんあった。


なぜこのとき、これまで読んだことのなかった吉本ばななさんの本を手に取ったのかは、覚えていない。でも、わたしの状況にぴたりと重なるような主人公が出てきたわけでもないこの短編集に、このときのわたしは救われた。

なぜ小説を読むのか?わたしの場合


なぜこの短編集にわたしは救われたのか。後から考えてみた。

自分では、うまく言語化できないことってあるよね。
特に、大きな悲しみに襲われたときとか、言いようのない寂しさを感じたときとか。

ほら、今だって「大きな悲しみ」とか「言いようのない寂しさ」とか書いたけど、これって本当の感情を全然表現してない。ただ、今まで聞いたことのあるような言葉たちを並べて、それっぽくふんわりと表しただけだ(ぜんぜん表せてない)。


でも吉本ばななさんの小説には、「そうそう、わたしが感じていたことって、まさにこれなんだよ」という表現が、これでもかというくらいに出てくる。そして、わたしはそのことに、涙が出るほどの感動をおぼえる。


この、「わたしが感じていたことって、これなんだ」と認識することを繰り返すことによって、わたしはそのときの悲しみを消化していった。



よく「小説の主人公に共感した」というような言葉があるけれど、そんな一言では表しきれないほど、この短編集はわたしの心の奥深いところまで、わたしを旅させてくれた。



もう何回読んだかわからないけど、また読もう。

「デッドエンドの思い出」を。

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