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【12月21日発売予定新刊】バルバラ・カッサン著(馬場智一訳)『ノスタルジー 我が家にいるとはどういうことか?』

久々に哲学書を刊行します!

バルバラ・カッサン著、馬場智一
ノスタルジー:我が家にいるとはどういうことか? オデュッセウス、アエネアス、アーレント』

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パリ出身の著名な哲学者である著者は、夫の死後、コルシカ島(ナポレオンで有名なイタリア半島北西にある島で、フランス領です)を「我が家」と感じるようになる。人はいつ我が家にいるのか――? 著者は、『オデュッセイア』『アエネーイス』、そしてハンナ・アーレントの著作やインタビューから、ノスタルジーとは何か、自らの生まれ故郷を去り、自分の言葉を忘れざるを得なかった人々が「故郷」を持つことは可能かを思索していきます。

著者のバルバラ・カッサンは、本翻訳版刊行準備中の2018年にアカデミー・フランセーズに選出され、昨年任命式がありました。

アカデミー・フランセーズとは、

フランス学士院の五つのアカデミーのうち最古のもの。1635年に時の宰相リシュリューの尽力で創立。定員40名で,終身制。会員は〈不滅の40人〉と呼ばれ、入会することはフランス国民の最高の栄誉とされる。フランス語の統一と純化を課題として、辞典を編集し、また毎年120にのぼる賞を授与している。(百科事典マイペディア

ということで、過去にはモンテスキュー、ヴィクトル・ユーゴー、ジャン・コクトー、ポール・ヴァレリーなど早々たる面々が会員となっています。女性が選出されるのは36年ぶりだったそう。

カッサン先生は以前に日本でも講演をされているものの、単著の翻訳版刊行は初となります。


内容については、訳者解説の一部が参考になると思います。

 今日では、故郷を追われた難民の心身の健康被害についての医学的な調査も行われている。(シモーヌ・)ヴェイユは、根こぎにされることで魂は病的な状態に陥ると訴えていたが、このことは、戦中のフランスだけでなく、現代でも世界各地にその実例を見出せる。そもそも病名だったことを思えば、「ノスタルジー」を過ぎ去りし日々への甘美な感情にすぎないものと捉えるのは、事柄の本質を捉え損ねることになる。
 慣れ親しんだ世界から追い出されるという事態は、この解説を執筆中の二〇二〇年、世界的に流行している新型コロナウイルスの感染対策により、まさに自宅にいながらにして世界のあらゆる人が経験した。日本では外出「自粛」により、カッサンの住むフランスでは外出禁止令により、多くの人が我が家」にいながらにして、日常の世界を奪われている。慣れ親しんだ世界や居場所というものは単に物理的な場所だけを意味するわけではなく、また、場所と人とは複雑に絡み合っていることがあらわになった。同時に、離れても特に差し支えのない場所(オフィスなど)が存在することもわかってきた。
 元の世界に戻れない私たち人類にとって、本書が描くオデュッセウス、アエネアス、アーレントの経験した追放状態は、示唆に富んでいる。オデュッセウスは、故郷イタケーに戻れず、戻ってきても自分であることを妻は認めず、妻が認めたと思えばすぐ次の旅へ、海を見たこともない人々が住む遠い場所へと旅立つ。他方、アエネアスは、故郷トロイアが陥落したことにより、故郷を背負って流浪する。新たな故郷を作ろうとするがうまくいかず、最終的にたどり着いたラティウムの地は、実のところ先祖の出身地だった。故郷を追われ故郷に辿り着いた彼は、あらためて故郷を再建することになる。ナチスにより故郷ドイツを追われたアーレントはアメリカに辿り着く。アーレントは、異郷にありながら祖国としてのドイツ語にこだわり、英語を使いつつもドイツ語で思考することを放棄しなかった。寄留地の言葉に同化しないことが、常套句にまかせて思考停止に陥らず、真に思考することの証でもあったのだ。
 私たちが住む「世界」は、つねに技術革新によって否応なく変化させられ、私たちは絶えざる追放の中にいる。魂を病むことなく我が家を確保するためには、次々と現れては消える新たな言葉に惑わされず、自分自身の言葉を探しながら考え語りあうことで、互いにゆるやかに根を張り合う必要があるのではなかろうか。『ノスタルジー』はそのような思考を読む者に促すように思われる。(本書170―171ページより)

私的領域と古典文献・哲学分析を行き来する、エッセイのような著者の文章に加え、彼女の(必ずしも順風満帆ではなかった)キャリア・思想形成の過程を明らかにする、訳者の馬場智一先生による32ページにもおよぶ解説、さらにバルバラ・カッサンの著作リストが収録されています。

編集をしながら(地方出身者の)私も、自分の生き方を肯定され希望をもらえるような温かい感触を覚えました。決して易しい哲学書ではありませんが、一見縁遠い『オデュッセイア』『アエネーイス』などの登場人物、そしてハンナ・アーレントの言葉を通じて、私たち一人ひとりの生き方、故郷の抱き方について大きなヒントをくれる一冊です。

本書で1章を割いて解説されているアーレントのインタビューについては、以下の動画で英語字幕付きでご覧になれます。

ぜひ多くの方に手に取っていただきたいです。ご感想などを楽しみにしております。

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