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短編小説「幸せ」


 私は幸せを探求してる。幸せとは比較により定義される。理由はどうあれ、本人視点で物事が好転したとき、幸せとは感じるものである。幸せになりたい。幸せを感じていたい。この混じりっ気のない、純真な探究心により完成した発明品により、私は明日、謝罪会見を行うのである。





 「貴方の発明したものが世に広まり、教育の現場は混乱している。恥を知れ、恥を」「人を信じることができなくなった。『この人は嘘をついているんじゃないか?』と、勘繰る癖がついてしまった。本当に迷惑している」「私は生まれながらにして虚弱体質です。しかし、貴方の発明のせいで、影で嘘つきと呼ばれております」



 

 こんな内容の手紙やメールが数多く私の元へ届く。私の発明品は幸せを願い、皆が身近に幸せを感じる為に作ったものである。それなのに製作者の意図とは別の使われ方をされている現状が、何とも歯痒い。




 私は安楽椅子から立ち上がり、書斎の窓を覆っているカーテンをゆっくりとめくる。そして、正面の電柱に取り付けられている街灯を見下ろした。闇夜を微力ながら照らすその姿に、つい数年前までの私自身の姿を重ねた。人々の生活に光を射し込みたい。もっと身近に幸せを感じることができれば、1日1日を懸命に生きようとする。その人間らしさを謳歌できる。その気持ちがなぜ糾弾されるのだ。




 血圧を上げている怒りからか、急に背筋に悪寒を感じた。明日の謝罪会見は、体調を整えて望まなければいけない。私は書斎を出て、キッチンで水を用意し薬を一錠飲んだ。そして寝室へ向かい、明日に備えゆっくりと眠ることにした。





 翌朝、私は体調の異変を感じた。体がだるく発熱している様だった。体温計で測ると39度近くあった。私は急いで謝罪会見を取り仕切っている広報へ電話連絡をした。





 「すまんが、今日の会見は取りやめにすることはできないかね?体調を崩して発熱した。体のだるさもある。……なに?私が自分で発明品の薬を飲んだんじゃないかって?馬鹿を言うな。こんな使われ方をするのが、一番嫌いなんだ」私は怒気を含んだ声で乱暴に電話を切った。




 そして、ベットに横になることにした。この発熱の後には関節痛がくる。そう設計してあるのだ。そして3日かけて徐々に快方に向かう。そして私は健康の有り難みを再確認する。健康というのは幸せだとまた噛み締めることができるだろう。


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