2017ブックリスト04

ブックリスト2017

すでに2月も後半になろうとしているのですが、2017年に読んだ本でとてもよかったものを抜き出してみました。2017年に発売された本だけでなく、僕が2017年に読んだ本です。マンガは別にリスト化しているので除いています。

読書は、軸を定めずに、なんでも読んでみたいという気持ちになるのですが、なんでも読むということは、特定の分野の専門家として認知されることは少なくなるので、会社をやめて個人を売っていかないといけない身分としてはこれでいいのかと悩むことしばしばです。

でもまあ、楽しく本を読んでいるのを放置しているのもなんなので、毎月読んだ本について書いてみようと思います。1月分のブックリストも2月中に。



『選択しないという選択: ビッグデータで変わる「自由」のかたち』
キャス・サンスティーン

専門家でもない限り、無限の選択肢を与えられれば意思決定は却って少数の選択肢に集中してしまう。だから最初から選択肢を認知能力の範囲内に合わせてカスタマイズしてしまう。または「選択しないという選択肢」を用意する。こうした「リバタリアン・パターナリズム」が人間に与える影響とその発展について書かれた本。「夕食なにがいい?」「なんでもいい」という夫婦の会話に論理的背景を与えてくれる(笑)。


『アリエリー教授の人生相談室──行動経済学で解決する100の不合理』
ダン・アリエリー

「デート相手のことを知れば知るほど恋愛感情はむしろ薄れる」なんていう実験結果を使って相談にジョークと理論で答えていく。そのスタイルにコクとキレがある。行動経済学というより、その対話術に惹かれる。


『こうしてテレビは始まった: 占領・冷戦・再軍備のはざまで』
有馬哲夫

この物語には、正力松太郎、佐藤栄作、児玉誉士夫、GHQ、マッカーサーなどが登場する。彼らがどう暗闘し、戦後の混乱期にテレビという利権を日本に導入して、根づかせていったかを描いたノンフィクション。この時代を扱った本というのはほとんどはずさない。しかも、著者はアメリカ公文書を発掘し、戦後にCIAのエージェントとして日本の右翼や政治家がどのような働きをしたかを明らかにした有馬哲夫さんだし。


『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』
エリック・バーカー

自己啓発書で言われてきた成功法則が科学的に検証できるようになってきている。「外交的な人が成功する」とかよく言われていたことが、すべて心理学の論文などによって検証されている。矢野和男さんの『データの見えざる手』のカジュアル版のような感じの本。


『悪魔の医師』
ジェームス・B・スチュワート

2001年出版の古い本。「世界で最も成功した殺人者」はエリート医師だったというノンフィクション。この本は、エピネフリン(止血・強心剤として使われる副腎髄質ホルモン)やサクシニルコリン(筋弛緩剤として使われる)を使って60人以上を殺したといわれているスワンゴが、逮捕されて終身刑を受けるきっかけにもなった。本人が全貌を告白していないのと、彼が勤務していた病院が事実を隠蔽して評判を保とうとしたため何人殺したのかいまだにわかっていないので60人という数字は推測でしかない。あとがきにある、彼がノートに抜書きしていた愛読書のお気に入りのフレーズを読んで衝撃を受けた。サイコパスの最高かつ最悪の事例だと思う。


『山口組三国志 織田絆誠という男』
溝口敦

僕がなぜ犯罪者や暴力組織の物語に惹かれるかというと、人間が法律というボーダーラインの向こう側で、欲望のままに頭脳を使い、暴力をふるったらどういう人生を送ることになるのかを垣間見せてくれているからである。しかし実際に溝口敦のような組織に深く食い込めるジャーナリストのノンフィクションを読んでみると、暴力組織でも、その構成員の秩序をどうやって維持するかという点が一番の関心事で、『スカーフェイス』のトニー・モンタナのような「壊れた殺人者」はすぐに破門や絶縁されてしまうことがわかる。暴力をキャッシュフローに変える最高の戦略家たちの最前線の動きがわかるノンフィクション。


『演出術』
蜷川幸雄

長谷部: 素質のある人間が努力をすることによって、才能があると認められる。

蜷川: そのあいだには、たくさんの落伍者が出てくるわけです。稽古場は開放しているのに、自分が出ていない芝居は見学にも来ない。僕はそれを怠惰だと思います。つまり稽古場に来て見られるのは、特権的な立場だと思うんですよ。桐朋学園の学生にも、蜷川カンパニーの連中にも、「来いよ、来ていいんだよ」って言うけど、来るのは二割ですね。
 たとえば『夏の夜の夢』の稽古場だったら、大衆演劇から、新劇から、台湾の京劇の俳優から、アンダーグラウンドまで、さまざまな俳優さんが集まってきているわけです。稽古を見たくて、筑波大学に留学している劇作家、演出家志望のハンブルク出身のドイツ人も来ているわけですよ。そうすると稽古場は国際的な場でもあるわけで、今まで会うチャンスのなかった人間と話してみる機会だってある。そんな特権的な場に通えるのに来ないのは、もう既に才能がないと僕は思っています。藤原竜也は、必ずリハーサルを見に来ますよ。岡本健一君は、『盲導犬』の稽古に来て、自分もやりたいからと言って台本を持って帰って徹夜で覚えて、翌日の稽古であの役やらしてくれと、みんなの前でやったんですからね。それが才能だと思うんです。

蜷川さんの演劇って見たことがなかったんだが、この本をたまたま読んで、非常にドライで、論理の人で、でも若者の才能を信じていて、でも過剰な期待もしないというスタンスが気持ちよく感じた。圧倒的な実績のある人が、自分の取り巻きを作らず、つねにエッジに立って演出をしていたのを知って、彼の演出作品をいろいろ漁って見始めている。インタビュアーの長谷部さんの質問も激烈にいい。


『スクリプトドクターのプレゼンテーション術』
三宅隆太

僕は、プレゼンテーション術なんて読んでいる人を見たら、しょうもないノウハウ本読んでるなと思う。でもスクリプトドクター(脚本のお医者さん)の三宅さんが書いたらどんなものになるのか興味があって読んでみた。これはプレゼンというよりは「自己開示と対話が対人関係をどう変えるか」の本だ。それがプレゼンを「上手」にやる一番の方法ということを教えてくれる。普段話していることが面白い・興味深い人であれば、普段通りに話し、仲のいい友達のように自己開示できれば、あなたのプレゼンは面白くなる。あなたが面白くなければ大変なことなのだが。


『かくて行動経済学は生まれり』
マイケル・ルイス

『マネーボール』『ブラインドサイド』でMLBやNFLの戦術や人材獲得が科学を取り入れてどう進化について書いたマイケル・ルイスが、「行動経済学」の始まりについて書いた本。「確証バイアス」「後知恵バイアス」「プロスペクト理論」などがどうやって生まれてきたのか、研究の果実をカーネマンとトヴェルスキーが分け合うときの確執とふたりの数奇な運命についても心を動かされた。あと、イスラエルという国のイノベーションと軍の関係についても垣間見せてくれるところもよかったかな。


『今のアメリカがわかる映画100本』
町山智浩

今、これに載っている映画をつぎつぎに見ていってる。あと半分くらい残っているのでまだまだ楽しめる。この本で町山さんが取り上げている映画には、アメリカ社会を反映する何らかのアフォリズムがある。イラク戦争、アフガン戦争、サブプライム問題など、時代を反映した事件の養分が映画にも入っている。そしてその養分についてしらないと、本当に監督や脚本家が意図したことが理解できない。

「作家が本当にいいたかったこと」を理解したうえで、それに対してどう思うかが、ほんとうの意味で感想を言うことだとしたら、こういう本がないと、なかなか「作家が本当にいいたかったこと」にたどり着けない。

この本でも取り上げている『スポットライト』というカトリックの司祭の未成年信者への性的虐待事件を描いた映画がある。『スリービルボード』にはこの事件を引用してカトリックの司祭を責める場面があり、その意味がこうした映画を見ていないとわからない。僕はマンガでも音楽でも映画でも、こうしたアフォリズムが背景にある作品が好きなので、作品探しにとても参考になる。


『ブラックスワンの経営学 通説をくつがえした世界最優秀ケーススタディ』
井上達彦

統計学とかビッグデータとかで経営についての実証的研究が進んでいる。いろいろ本も読んでみたが、僕は「実証的研究」は、もともと感覚的に正しいといわれていたことの検証になっていることが多いと感じる。

その検証については意味があるのだが、僕は経営と人材については「違い」がすべてだと思っている。だから実証的研究ができないくらい数が少ない「ブラックスワン」な事例を提示してくれたほうが面白い。僕は、そのブラックスワンなケーススタディが経営のロジックをどう更新していくのかを考えたいタイプなので。



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