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初めてFC越後妻有に出会う人へ

2021年に書いた文章で、日の目に当たらなかったものを発掘しました。当時の自分がわかりやすく、FC越後妻有と大地の芸術祭と自分自身について書いていたので、興味がありましたらご一読ください。

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年齢などは2021年当時のものです。

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あらかじめご了承ください。

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空って広いんだな、朝陽ってまぶしいんなんだな。晴れた日の朝、四季の些細な変化も捉える山々を眺めながら、深く息を吸う。25歳、この街に来て3年目。同じ場所から毎日見ている景色に、飽きもせず感動している。
 十日町市と津南町からなる、越後妻有と呼ばれる地域。ここで私は、サッカー選手をしながら大地の芸術祭の運営スタッフとして生活している。どちらかの肩書きだけを名乗るのには違和感があって、2つが並んではじめて成立する感覚というのは、きっと同じチームのメンバーも持っていることだろう。それくらい、両方に誇りをもって「仕事」として取り組んでいるのが、FC越後妻有の魅力だと思う。恥ずかし気もなく、自分で言ってしまうけど…。
 
 大地の芸術祭は2000年から続く国際的なアートトリエンナーレで、2018年の第7回展では44の国と地域から363組のアーティストが参加・来場者は54万人という非常に規模の大きいイベントである。1994年に新潟県知事が提唱した広地域活性化政策に則り、アートによって地域の魅力を引き出すことで交流人口の拡大等を図る10カ年計画「越後妻有アートネックレス整備構想」を機に2000年に始まった大地の芸術祭。
 人間は自然に内包される―――その理念のもとに、アートを通して地域に関わる里山で、農業は欠かすことのできない要素のひとつだ。農業実業団チームFC越後妻有は2015年に立ち上げられ、選手はただサッカーをするのではなく、「移住」をして、後継者不足による耕作放棄が進む棚田で「農業」をする。農業実業団チームと称しながら活動する私たちは、大地の芸術祭を運営するNPO法人に所属する形で、「仕事」として、サッカーと農業と大地の芸術祭に向き合っている。
 
 私が入団したのは2019年の夏。当時まだ選手2人と監督のみだったチームに、3人目の選手としてやってきた。田んぼには、足を踏み入れたことすらなかった。そもそも、高校年代でサッカーに区切りをつけた自分がもう一度プレーするなんて思っていなかったし、大学を卒業して軽トラを運転することも、コンバインで稲を刈ることも想像していなかった。けれど、就職を考える中で訪れたこの越後妻有の地の魅力が、私を「まさか」の連続に導いた。人のあたたかさに、豊かな自然…それらはもちろんのこと、それ以上に言葉にはできない不思議な引力があったような、そんな気がしている。
 
 農業部門で過ごした1~2年目は、午前中を練習に充て、午後は主に棚田での米作り励んだ。私が来た夏は草刈りシーズンの真っ只中で、刈っても刈っても生えてくる雑草の生命力に、思わず白旗を振りたくなることもあった。安全のために着用する長袖・長ズボンに長靴。水でも浴びたのかという量の汗をかきながら、生い茂る草むらに機械を入れると、ブワァァァー、と虫たちが飛び上がる。草を刈ったあとには、害獣よけの電気柵を設置する田んぼもある。自然の中に入れてもらっているのは私達のほうなのに、そこに生きる物の住み家を奪うような毎日には、体力だけでなく気力も使う。棚田の景観維持や保全管理も担う私たちの米作りに欠かせない草刈りが落ち着く頃には、黄金色の実りをつけた稲穂が田んぼの中で揺れている。
そうして育てたお米を食べたときに、生を繋ぐために他の生をいただくことで自分が自然の中にいるひとつの命であることを初めて知った。生きたいと思った。
ふとした時に、自分たちでつくったお米をエネルギーに変えてスポーツをするアスリートが他にはいないんじゃないかと想像すると、思わず笑みがこぼれてしまう。
 
越後妻有での3回目の季節を過ごす今。私がいるのは、越後妻有里山現代美術館MonET。現代美術の名だたるアーティストによる作品に囲まれながら、大地の芸術祭に関連したグッズやアート作品の販売を行っている。チームメイトが汗かき、(べそかき)、泥まみれになりながら生産したお米をオンラインショップで売ることもあれば、自分が背伸びしても届かないような額の絵を店頭で案内することも。美術館に勤めるなんて、やはり「まさか」思ってもみなかったけれど、知らないことに取り組むことも、良いものを良いと思ってくれる人に届けることも楽しい。旅の思い出に買って帰るのだろうポストカードを渡すときは、この写真を栞にしていつまでも思い出してほしいと思うし、気に入った作家の作品を一期一会だといって購入する方が見せてくれる、緊張と高揚と満足感が混じったような表情を前にすると、感動を与える物をそれを感受する人にちゃんと届けたいと思う。
この美術館にある作品を含め、越後妻有の地に点在する作品は、それぞれの作家が感じたこの土地への畏敬の念がインスタレーションアートとして可視化されている。そして、不思議なくらい暮らしに馴染んでいる。アートの見方も感じ方も、まだまだ勉強不足の私でも、作品がひとつの命あるものとしてこの街に在るのだと実感する。
 
農業、サッカー、アート。それぞれのどの入口からでも良い。入口をたくさん持つFC越後妻有という存在を通して、とにかく越後妻有という地域に触れてほしい。そうしたら、きっと、いや、必ず伝わる想いが魅力があると確信している。そうして、居ても立っても居られなくなって電車に飛び乗りこの地を訪れてくれる人が一人でもいたら、私がこの街にいる意味があるのかもしれない。

●私について
髙橋 咲希/Saki Takahashi
1996.5.15 埼玉県出身
FC越後妻有の22番
本と映画とラジオが好きです。
書くこと、話すことを沢山したい2023年の今です。

●FC越後妻有

●大地の芸術祭


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