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14歳からのアンチワーク哲学

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2024年6月発売予定の新刊を無料公開しています!
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エピローグ【14歳からのアンチワーク哲学】

エピローグ【14歳からのアンチワーク哲学】

※2024年6月発売予定の新刊を1章ずつ無料公開します。

【前の章】

 それから何度か、公園に通ったけど、ニケが姿を現すことはなかった。学校は、しばらく休むことにした。どうせならニケと話をして暇を潰したかったのに。

 僕は休みの間、部屋にこもってゲームをしたり、漫画を読んだりしていた。それに飽きたら小説を書こうとした。でも、すぐに飽きてまたゲームをしたり、漫画を読んだりした。散歩をしてもすぐ

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7章 労働なき世界【14歳からのアンチワーク哲学】

7章 労働なき世界【14歳からのアンチワーク哲学】

※2024年6月発売予定の新刊を1章ずつ無料公開します。

【前の章】

「八十億人全員がニート・・・」

「そう、それが労働なき世界や。誰も強制されることなく、自分の意志で好きなことを好きなだけやる。一人でゲームする奴もおれば、一日中誰かのために貢献してる奴もおる。でも、やめたいと思ったら、すぐにやめられる」

 最初、ニケに話しかけられたときは、ニケの話はなんの根拠もない与太話だと思っていた。

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6章 労働とお金【14歳からのアンチワーク哲学】

6章 労働とお金【14歳からのアンチワーク哲学】

※2024年6月発売予定の新刊を1章ずつ無料公開します。

【前の章】 雨の音と風の音は、僕たちの会話の隙間を埋めようとしては、タイミングを見失っている。僕たちの会話に生じたわずかな隙間は、すでに疑問と思考に埋め尽くされていて、ほかのなにかが混ざる余地は残っていない。ミュートボタンを押したような世界で、僕たちの議論は進んでいく。

 労働は悪。命令や強制は悪。そんなものがなくてもなんとかなる。ニケ

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5章 人間が欲望するもの【14歳からのアンチワーク哲学】

5章 人間が欲望するもの【14歳からのアンチワーク哲学】

※2024年6月発売予定の新刊を1章ずつ無料公開します。

【前の章】 雨は加速し、風が吹き抜ける。まるで嵐だ。でも、あまり気にならない。僕たちの議論も同じ速度で進んでいるようだ。

 嫌なことをやめて、好きなことをやる。欲望のままに生きる。それはダメなことだと思い込んでいたけど、ニケは逆に欲望のまま生きるべきだと言う。本当にそうなのだろうか。一を理解すれば十の疑問が浮かんでくる。

 もし、ニケ

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4章 お金を配ろう【14歳からのアンチワーク哲学】

4章 お金を配ろう【14歳からのアンチワーク哲学】

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【前の章】 気のせいかと思うほど微かな雨粒が確信に変わる。遠くから控えめにこちらをのぞいていた雲は、いつの間にか僕たちに覆いかぶさっていた。あそこなら雨が避けられそうだと、僕の意識が導かれたのは、年季の入った屋根付きベンチ。ニケも同意見のようだ。

「あっち座ろか」

「うん」

 屋根の下には空洞を東西南北に囲うようにベンチが置かれてい

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3章 労働は本当に必要か?【14歳からのアンチワーク哲学】

3章 労働は本当に必要か?【14歳からのアンチワーク哲学】

※2024年6月発売予定の新刊を1章ずつ無料公開します。

【前の章】

 ニケがわざとらしく見つめた遠くの空には、快晴を覆い尽くそうと雲が待ち構えている。そういえば、今日は午後から雨が降るんだっけ?

 今朝、天気予報を見ていたとき、僕はいつもと同じ一日が始まることを疑いもしなかった。それがいまや、公園の芝生に座り込んで、五十歳のニートと話し込んでいる。人生とは、空模様よりも気まぐれなものらしい

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2章 労働という悪魔の正体【14歳からのアンチワーク哲学】

2章 労働という悪魔の正体【14歳からのアンチワーク哲学】

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【前の章】

 ダメだ。やっぱりわけがわからない。どうやらニケは頭の重要なネジがいくつかぶっ飛んでいるらしい。僕が困惑している様子を見て、ニケはニヤニヤ笑いをしている。真面目に話しているのか、人を困らせて楽しんでいるのか、掴みどころのない男だ。

 とはいえ、ここで引きさがれば、モヤモヤした気持ちを手土産にして家に帰ることになる。ただでさ

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1章 サボることは社会貢献【14歳からのアンチワーク哲学】

1章 サボることは社会貢献【14歳からのアンチワーク哲学】

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【前の章】 大人たちは僕に教えてくれた。人生の本番は六五歳からだと。

 遊んでばかりではいけない。少しでも偏差値の高い高校に入って、少しでも偏差値の高い大学に入るための準備をしなければならない。

 なぜか? いい企業に就職するためだ。

 いい企業に就職すればたくさん給料をもらえる。お嫁さんを見つけて、子どもができて、マイホームを買う

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プロローグ【14歳からのアンチワーク哲学】

プロローグ【14歳からのアンチワーク哲学】

※2024年6月発売予定の新刊を1章ずつ無料公開します。

「ええか、少年。労働は悪なんや。世の中から撲滅された方がええ」

「は?」

 寝転がっている僕の隣にしゃがみこんだ男は、僕と同じ空を見上げながら言った。うたた寝に片足を突っ込んでいた僕の意識は、男の言葉に手を引かれ、強引に公園の芝生へと連れ戻される。

「少年が働きたくないと思うのは、なんも間違ってない。正しいことなんや。少年は労働とい

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