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この社会では、役に立つ事業をやっていたら経営破綻するらしい

テレビを観ていたら大阪ガスが宅食サービスを始めるというニュースがやっていた。

献立を考えるのがめんどくさい人や、そもそも料理や買い物がめんどくさい人のためにサービスを始めたらしい。そのサービスでは食べたいメニューを選ぶという手間すらも肩代わりし、いくつかのアンケートに答えるだけで自動で好みにあった料理が届くとのこと。そんなことを大阪ガスのお偉いさんと思わしき人物が会見で話していた。

サービス過剰が人間を木偶の坊扱いすることや、料理する時間すらないほどに人々の暮らしが労働に埋め尽くされていることなど、ここから読み取れる問題はたくさんあるが、今回の主題はそこではない。

僕がその会見で気になったのは、宅食サービスをスタートした動機だ。

そのお偉いさん曰く‥

「ガス事業だけでは経営が成り立たない。新しい収益の柱としてこのサービスを始めた」

とのこと。ニュース番組のコメンテーターたちは、ワイプの中で「うんうん」と頷いていたが、僕は全く頷く気分になれなかった。とある疑問が頭から離れなかったからだ。

なぜ、ガス事業だけでは経営が成り立たないのか?

大阪ガスは誰がなんと言おうと社会に必要なインフラ企業だ。大阪ガスがガス事業に専念してくれることは、社会にとって間違いなく有益であるはずである。それなのに、ガス事業だけをやっていると、大阪ガスは経営破綻する可能性があるらしい。

これは、システムとしてあまりにも不条理ではないだろうか?

もちろんわかっている。少子高齢化で国内の需要が縮小しているため、これまで通りの利益を確保できなくなる未来がやってくることはわかっている。しかしそれでも人類が絶滅するわけでもあるまいし、これから先もガスは必ず必要とされる。

もちろんわかっている。エコキュートを使ったりオール電化にしたりする家庭が増える可能性があることはわかっている。それでも、都市ガスの普及率は5割を越えているし、ガスの役割はまだまだ大きい。

もちろんわかっている。ガス自由化が始まって、競争により価格が下がっていることはわかっている。それでも、大阪ガスは曲がりなりにも業界最大手なのだ。

僕が言いたいのは、社会に必要な仕事をやっているだけでは経営が成り立たない経済システムは、システムとして狂っているということだ。

そして宅食サービスなどといった、たいして必要とは思えない事業をやり始めるのである。それでも、このサービスが必要とされるのは、労働が、買い物に行ったり、献立を決めたり、料理をしたりする時間を僕たちから奪っているからだ。

となると、次のような疑問に到達することは避けられない。

そもそも宅食サービスを開発するような労働がなくなれば、宅食サービスは必要ないのではないか?

大阪ガスに限った話ではない。今の世の中に次々登場する「人々の暮らしを豊かにするイノベーション」のようなものは、時間さえあれば自分でやっていたようなことを肩代わりするようなものばかりである。引っ越し会社が家具を買ってきてくれるサービスなんて、まさしくそのようなものだ。

大阪ガスの社員たちの生活が保証されているのであれば、わざわざ新規ビジネスを開発したり、ややこしいガスのプランを練り上げて消費者を困らせたりせずに済む。そうすれば、大阪ガス全体の労働時間は半分以下で済むだろう。もちろん、新しいビジネスをやりたいと思うならそうすればいい。しかし、生活が保証された上でやるのと、「経営を成り立たせなければならない」という焦燥感のもとでやるのとでは大きな違いである。前者であるなら、それは本当に革新的だったり、社員たちが挑戦したいと思えるようなものになるはずだ。そうでないなら、そもそも事業をやろうとなんて思わないのだから。他の企業も同様である。必要な機能に集中して取り組み、戯れに面白いサービスを開発する。そんな仕組みなら労働時間は半分以下で済むのだ。

それに、どうせ新規サービスの開発なんて胡散臭いコンサルやマーケティング会社のような所に丸投げして、たっぷり中抜きされているのだろう(大手企業の役員なんて、コンサルの傀儡なのだし。知らんけど)。商品のデザインとかキャッチコピーとかそういうもの開発においても、デザイン経営がどうのこうのとか言ってくる胡散臭い広告代理店が一枚も二枚も噛んでいて、分前をふんだくっているに違いない(知らんけど)。

もちろんコンサル会社も広告代理店も、食い扶持のためにやっているわけだから、責め立てるつもりはない。しかし、彼らがいなくても経済が成り立つことは、コンサル費や広告費が経済を占める割合が大きくなるにつれて、経済成長が止まっていることからも明らかだろう。ならば、すべてのコンサル会社や広告代理店は、何もしない方が社会にとっては有益なのだ。そうすれば大阪ガスが余計な金を稼ぐ必要性も多少減る。

となると、解決策は一つである。ベーシック・インカムを渡し、コンサル会社や広告代理店には廃業して貰えばいい。そして、大阪ガスは自分たちが必要だと思うビジネスだけに専念すればいい。宅食サービスなんて始める必要もなくなるし、そもそも利用したいと思う人もいなくなるはずだ。

僕たちの社会に必要なのは、労働以外の時間であり、取ってつけたようなイノベーションではない。労働は生活のために行われているのだから、生活の糧の確保…つまりはベーシック・インカムがあれば、労働以外の時間を増やすことができる。

資本はフロンティアを求めて彷徨っている。海外にもフロンティアがなくなった今、ブランドがどうのとか、イノベーションがどうのとか言って、なんとかフロンティアを捏造し、物を売りつけようとしているのが現状である。この営みそのものが非効率であり、見るに耐えない。

そして、そんな非効率に携わるのが労働だ。そんな労働ならやりたくないと思うのは当然だろう。

労働なき世界よ。早く来てくれたまえ。でなきゃ、僕たちはずっと非効率なままじゃないか。

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