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私は満月の夜に生者として誰に会いに行くのか。

会いたいという強い気持ちは、自然の理まで越えさせていくのか。


「ツナグ/辻村深月」

一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという「使者(ツナグ)」。突然死したアイドルが心の支えだったOL、年老いた母に癌告知出来なかった頑固な息子、親友に抱いた嫉妬心に苛まれる女子高生、失踪した婚約者を待ち続ける会社員……ツナグの仲介のもと再会した生者と死者。それぞれの想いをかかえた一夜の邂逅は、何をもたらすのだろうか。

松坂桃李さん主演で2012年に映画化もしたこちらの作品。


亡くなった人に会いたくても、誰もがみんな仲介人である「使者」に会えるわけではない。

本当に必要な人のところには、きちんと使者との縁がやってくるようになってる。(本文より)


この作品、凄いところは死者との再会という、
いかにも泣かせにきそうな設定にも関わらず、再会が全て笑顔では終わらないところ。

死者との思い出を胸に、
明日からの人生を決意する人がいる反面
一生忘れられない後悔を背負う人。

読みながら、それはそうなのだ。と、
ストンと胸に落ちた。
死んだことを全ての人が受け入れられるわけなんてないのだ。とまるで死を美化しようとしていた自分に気づく。

誰かの幸せを願う気持ちも、嫉妬も、憎しみも全てまとめて人間なのだ。その人の生きた証なのだ。


私が一番印象に残った章は、
「待ち人の心得」。

七年間、婚約者のことをずっと待っていた男性の物語です。

最後の最後に明かされる、大きな嘘と小さな秘密に涙が止まらなくなった。

私はこの気持ちを知っている、と感じる。

大好きな人と行った映画のチケットをずっと大事にしまっておいたこと。

好きだから起こした行動。

好きだから言えなかった本当のこと。


切なくて苦しくてやるせなくて。
大切な人が生きているって、本当は凄く凄く奇跡なんだと思い知らされる、優しくて愛おしい物語でした。

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さて、私なら誰に会いに行くのだろう。

とこの本を読んだ人は必ず考えるでしょう。

生きているうちに、死んだあとに会えるのはそれぞれ一回だけ。
しかも死んでしまったら誰かが会いにくるのを受ける側だから、自分で相手を選ぶことは出来ない。


考えて気づいたのは、

私が大事に思う人はまだ皆生きていたということ。


いつ死んでも良いように後悔のないように生きる
なんてよく聞くけど、私には無理だと思う。

だって、生きているときは素敵な明日を、幸せな未来を考えているのだから。


だけど、伝えることはいつだって出来るのだ。
ありがとうも、大好きも、言えなくなるその瞬間まで伝えることは出来るのだ。


先週の満月の日は、とても月明かりが綺麗で空を見ながら会社から帰ってきました。

あの満月の間に、作中にあるような品川のホテルで、誰かが誰かに死者を通して会っているのかもしれない。

どうか素敵な時間になりますように。と。


そんなことをきっとこれから、満月の度に思い返すであろう、とても素敵な作品でした。


ぜひ、読んでみてください。

映画も観てみたいと思います!


最後まで読んでいただき、ありがとうございました。




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