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私の人生②


『離婚した。』

『今日会いに行く!』

夜中野駅の街並みを1人で歩く。

作業着を来た翼が立ってる。

『来てくれてありがとう。』

『大丈夫だよ。大丈夫?』

『うん。』

『行きたいお店ないの?』

『行きたいお店…ある!!』

『あはは。じゃあそこ行こうか!』

『やった〜!』

『ここめっちゃ美味しい!!あー美味しい〜😆💗』

翼は微笑む。
『良かった。元気そうで。』

『ありがとう。翼が居てくれて良かった。』

それから少しずつ2人で会うようになった。

会うようになってから私達は一生分以上
話したんじゃないかな。

今までの心の闇をお互いに話した。

翼は1人でずっと悩んできた事が沢山あったと言う。

何が1番辛かったの?と聞くと、
静かに話し始めた。


俺、人と少し違うんだよ。
価値観や常識や思いやりも全てに囚われたくない。
あと、分かれないんだ。
100か0なんだよ。
前に俺は隅から隅まで調べたんだ自分の事を。
ADHDって分かる?俺はそれなんだ。
あと、躁鬱。アスペルガーもあると思う。

毎日情緒が違うし、仕事も続かないんだ。
人とどう接したらいいかも分からない。

だから、楓に迷惑かけてしまうかもしれない。
俺は人と居てはいけない人間なのかもしれない。

先が真っ暗なんだ。この先どう生きたらいいのか。
あとごめん。俺離婚したすぐに詐欺を一度だけした。
もしかしたら捕まるかもしれない。

こんな俺と居たいなんて思う奴居ないだろ。

俺は若い頃からお父さんが兄に怒鳴りつけてるところをずっと見て来た。兄はずっと何も言わず、努力する日々。一方俺は見てることしかできなかった。お父さんを許せないと思ってしまった。

それから俺はお父さんに言われても、
無視し続けて話を聞かないで生きて来た。

お母さんは俺の話を聞いてまず理解をしてくれた。

それからは元嫁と14歳の頃からずっと居て
俺は俺と言う人生を生きるのをやめてしまった。

今まではずっと俺の道、俺が気に食わなかったら
ぶっ飛ばして来た。理不尽にも。

恋愛をした。すごく傷付いた。
それから俺は全てに諦めて生きて来たんだ。

だから楓みたいに真っ直ぐ生きていけるのか怖い。

『あのね…私もこれまでの人生1人でもがいて生きて来たでしょ?沢山裏切られて裏切って今まで諦めずにここまで生きて来たよ?でも、私もやっぱり弱い部分沢山あるんだよ。』

私は続けて話した。

人は皆、何かに囚われて生きている。
それはこの世の中が作った決まりに沿って生きてるの。

みんな働かなければ生きていけない。
出世しなきゃ地位を守れない。
周りに合わせて楽しそうに明るく笑顔で
居ないといけない。

私は沢山見て来たよ。
出会った人数2000人ほど居ると思う。
私を心から嫌いだって言って去る人も沢山居たよ。

でも、決まって私は聞くの。

ごめんね。なんで私のことが嫌いなの?
分からないからそれだけでも教えてほしい。

そうすると教えてくれる人も沢山居たんだ。
すごく勉強になり次の糧となったんだ。

だからね?嫌われるのも大切。
嫌われる事に恐れていたら、
気持ちよく自分の人生生きていない気がするの。

私は私と出会った人々を心から救いたいの。
出会った以上私はみんな仲間だと思うの。
また次会ってくれる友達や仕事場の人や通りすがりのお婆ちゃんさえも。

皆、手を差し伸ばして『大丈夫?』って言葉さえあれば人は少し救われた気がすると思ってる。

これは、私のエゴかもしれない。
大きなお世話かもしれない。
人間どう受け取るのかも分からないよ。

私だってデブだし、こんな性格してるから
沢山馬鹿にされて今まで生きて来たんだ。

でも人を許すって最大の見返し方だと思うの。

翼が今まで殻に閉じこもってしまったのは、
自分を守るため。守れるのは自分自身しか居ないから。それで良かったんだよ。

でももう私が翼の横に居る以上私は翼を全力で守り続けて、翼の夢を追いかけて行ける。

私は、男の人が嫌いだった。
きっと父親と重ねてしまう。
そして、父親に甘えられなかったから。
甘え方なんて分からないし、可愛く居れなかった。

でも私、初めて男性に救われたの。
翼と言う1人の男の人に。

翼『楓もう無理しなくていいよ。楓今日疲れてるよね。楓素直じゃないよ本当はこう思ってるよね。自分を犠牲にするのはなんで?』

って。誰かにそう言われたのは初めてで。
少し肩の荷が降りた気がした。
少し安心していいんだと思える場所ができた。
少し弱くなってもいいんだって思えた。
初めて男性から心配の声と包み込まれるような気持ちにさせてくれたのは翼だけだったんだよ。

それだけ人をよく見てるよ。
翼の一つ一つの行動を今までずっと見て来たよ。
優しいし気が効くしちゃんと真っ直ぐじゃん。

だから自分を認めてあげて?

誰かが、なんか言ってくるやつが居たら
私が許さない。


翼は微笑む。
『楓は凄いよ。』
翼は静かに、涙を流していた。

そして私も涙が出て来た。
今まで1人で生きて来た分だけ涙が出て来たかのように。

『俺、本当の愛に気付けてこなかった。でももう違う。俺は楓を愛してるよ。』

『楓も翼の事すごくすごく愛してる。』

2人は沢山愛し合って。沢山心の穴を埋め尽くした。



初めて一緒に住んだ家。

一緒に住むようになって、毎日が幸せで仕方なかった。

毎日一緒に居れる幸せは計り知れなくて、果てしなく大きくなればなるほど怖くなってしまった。

今まで彼氏が出来ても旦那が居ても、遊び尽くして
なんとか埋めていたものが無いから。

私の弱さ。付き合って1ヶ月が経った時。

私は出会い系サイトに入って男の人と絡んだ。
すぐに見つかり、喧嘩が絶えなくなっていった。

次第に、翼は情緒が不安になるのは聞いていたが
どんどんエスカレートして行く。

私は見てはいけないと分かりながらも、
翼の携帯を手にする。

心臓が張り裂けそうな程ドキドキしながら
携帯を開く。

『…』

そこに映るのは、翼が出会い系サイトで
他の人に可愛いねって送ってたものでした。

ドキッ。頭が真っ白になる。

『ねぇ、これ何?』
『知らない』
『知らないじゃ無いでしょ?』
『お前もやってたんだからいいだろ』
『…私は不安だったの。でももうやらないよ。翼もやめて欲しい。』
『はぁ…重いんだよ。』

言葉を境にまた頭が真っ白になる。

それから翼は私の友達とも会わなくなり、
私を遊びにも行かせなくした。

私はそれでも良かった。それでも翼と居たかった。

一緒に住んでから、8ヶ月目。
また出会い系サイトで女と絡んでいた。

私はもう翼の情緒不安定と翼が他の女の人を見たいって分かってからはずっと不安と心が埋まらない毎日だった。

『もう別れよ。』

好きだった。なのに居れない。

俺、忘年会あるから行ってくるわ。

『ねぇ…なんで答えてくれないの?』

私は辛すぎて友達とカラオケに行った。

ピンポーン
LINEがなった。

"今から友達と来たら?"

すぐに返信する。

"行く!何処なの?"

しばらく返信がなくなった。

電話をするけど出ない。
出ないなんて今まで無かった。
嫌な予感が頭によぎる。

鬼電した。

『…はい。』
翼が電話に出た。

『なんで電話出ないの?』

『飲み過ぎてトイレで吐いてる』

『トイレで吐くまでいつも飲まないじゃん』

辺りはシーンとしてて、明らかにBARではない。

『気持ち悪いから切るね。』

『ねぇ!どこに居るの?』

『BAR。気持ち悪いから切るね』

『今行くから切らないでよ』

プチッ

それ以降連絡は付かなくなった。

私は絶望感に襲われて涙する。
もう終わったんだ。今までの時間は嘘だったのかな。

私は同棲している家に帰った。

やっぱり帰って来てない…

寝れない…

朝になっても帰って来ない。

私は少し寝た。

ガチャガチャ

『…わっビックリしたー。』

翼が帰って来た。

『何処行ってたの?電話にも出ないで』

『車で寝てた。』

『絶対嘘じゃん。』

『もう別れてるんだからいいでしょ』

『…え?何も言わず出て行ったのに別れたって思ってそんな行動したの?』

『あー、デリヘル!デリヘル行った』

『もう出て行くね。』

私は荷物を持って実家に帰った。

翼からは連絡が来る。

『もう連絡して来ないで…』

他の女の話をし始める。

『…そっか』

『じゃあ幸せに』

それからしばらく連絡は取らなかった。

ブゥーブゥーブゥーブゥー…"
携帯が鳴る。

翼ー

『はぁ…何?』

『俺、捕まるかもしれない。』

『…え?なんで?』

『前に詐欺やったじゃん?それしか考えられない。』

『はぁ、だから何してるの?大丈夫なの?』

『助けて欲しい』

『連絡取れなくなったら捕まったって事でしょ?』

しばらくして翼と連絡が取れなくなった。

捕まったんだ。連絡取れないから家見に行く。
閉まってる…家には居ないし車もある。

翼のお母さんに連絡をする。

『もしもし。翼捕まったと思います。連絡来たら教えてもらえますか?』

『分かった〜。翼がごめんね。』

『大丈夫です。また連絡して下さい。』

ピンポーン"
LINEが鳴る。

ハガキが来た。東松戸警察署に居るって。
面会出来るみたいだけど、行く?

『はい、私も行きます。』

服、下着、タオル、靴下、ノート、本。
買い揃えて向かう。

お母さんと新八柱で待ち合わせしてバスで行く前に
カフェに入った。

食べたナポリタンの味が分からない。
緊張して体が震える。怖いって気持ちもあった。

警察署に着く。
警察署の中は薄暗くて雰囲気が重い。

面会の受付に行く。
身分証を見せて。続柄を書く欄があった。
友人と書いた。

こちらへどうぞ。

中に入ると、クリアな板に丸く穴が空いていて
パイプ椅子が二つ並んでいる。

心臓が張り裂けそう。
体が震える…

ガチャ

髪の毛も髭も伸び切った翼が居た。


続く。

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