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「何聴いてるの?」 - 2022年12月

あまりにも遅過ぎた音楽日記。12月はクリスマスがあったり、東京に帰ったりと盛り沢山の日々だった。色々な場所に行って、色々な人に会って、色々なことを考えて、そんなことが「聴く」という行動に色をつけていることが分かった月。年が明けてすっかり1月、それでもクリスマスソングが大好きだからもう既に聴いている。

Spotifyの視聴経歴が分かるアプリ、Spotistatsからその月の再生ランキングの30位内の10曲を選んでいる。12月リリースの作品には(新譜)(新曲)を付けている。

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1. Pharmacist / Alvvays

カナダのインディー・ポップバンド、Alvvaysの5年ぶりの新譜。10月にあれだけTwitterで話題になっていたのに、12月になるまで全く聴いていなかった。聴いて分かったけど、青すぎて涙が出てしまいそう。どうしてこんなにもドリームポップ、シューゲイザー(違いは何なんだ?)は過去の思い出に刺さるんだろう。「帰って来たんだね。薬局で君の妹を見かけたんだ」から始まるこの曲は「結局、今までで一度も君の心には触れられなかったんだ」と終わることも全てが甘酸っぱい。10代の思い出はどれだけ悲しい出来事も苦さには変わらない、そんなことを肯定してくれているかのようなアルバムだった。というかAlvvaysはそんなバンドなんだろう。エヴァーなグリーン、それでは今日も一日、シューをゲイズ。

2. Mirage Op.4 - Collective ver. (feat. 長澤まさみ) / Mirage Collective(新譜)

STUTS率いる音楽集団、Mirage Collectiveのドラマ主題歌から。ちなみにドラマは全く分からない。「好きな女とうまいもん食いたい」という台詞だけ話題になっていたのだけは知っている。わかる。歌う農家ことYONCEに長澤まさみと話題性抜群。まさみは歌も上手いんか。昨年の後半に「回復力」や「しなやかさ」を意味するレジリエンス(resilience)という言葉を知ったが、まさにそんな曲だと思う。初めて聴いて「傷ついた分 輝いたら 何もかもが新しい」という歌詞に自分の憧れる理想像があった。結局何かに傷つき落ち込んでいるうちは、良いことが起きようと何にも気づけない。何もかも跳ね返すような鋼のメンタルはいらないが、消えかけるたびに勢いの増す炎のように自分を持っていたい。

3. スーパー、スーパーサッド / ドレスコーズ

「歌にはふたつあって それは ぼくも知らない歌と ただただきみとの日々を 思い出すためだけの歌」。バイきんぐの小峠英二も失恋ソングにこの曲を挙げていた。失恋した12月の初め。ボロボロ泣いた前日とは打って変わって、「やっと終わったんだね」と清々しい気持ちで出かけたのを覚えている。悲しいはずなのにどこか嬉しくて「ハローアローン!」と強がるように歌う志磨遼平に思いを馳せていた。このアルバムはドレスコーズが志磨遼平だけになって最初の作品。「バンドはもう組まない?」と聞かれ「うん、もういい。ドレスコーズ最高だから。最高じゃないのやっても意味ないし。でもきっといいですよ、たぶんね、ここからの僕」と答えた志磨遼平が本当にカッコいい。一人ぼっちの王様で、いつも観るたびに衝撃が走るぐらいカッコいいのにいつもどこか寂しげな、そんな志磨遼平が僕は大好き。華やかな幸せに選ばれなかった男の子たちに幸あれ!

4. Gorilla / Little Simz (新譜)

年末にサプライズリリースされた英フィメール・ラッパー、Little Simzの新譜から。前作『Sometimes I Might Be Introvert』の時代を切り裂くような勢いに僕は2021AOTYを彼女にした。2022AOTYはMICHELLEかなと考えていたが、新作『NO THANK YOU』を聴いたら一瞬でLittle Simzになってしまった。「Simzの新作が全てを揺るがす」なんてリリックがあるけどもまさに文字通り。前作ほどの勢いを感じなくとも、横綱相撲のような余裕感に溢れる今作。ライムにフロウ、息継ぎまでも全てが気持ちいい。気づかない間に聴き終えてしまっていた。聴き返しては何度も「スゲ〜…」という声が漏れてしまう。きっと彼女みたいな人がそうなのだろう、時代の顔になりつつある人物だと思う。

5. Winter Bargain / Homecomings

クリスマスが近づくたびに聴きたくなるバンドことHomecomings。12月は毎年恒例のHomecomingsのクリスマスライブへ。一昨年のラストナンバーでこの曲を聴いてから、すっかりHomecomingsの中でもお気に入りの曲になってしまった。これを聴くたびにクリスマスの楽しかった思い出が蘇る。その思い出は再現性のあるものでは無いけれど、それでも思い出すたびに楽しかったと思える思い出であって良かった。これからまた楽しいクリスマスの思い出は増えていくんだろうけど全て抱えて過ごしていきたい。ちなみに恒例のクリスマスソングは「I Want You back」だった。季節的には「ANOTHER NEW YEAR」もそうか。どちらも好きな曲だから嬉しかったが、次に「WINTER BARGAIN」を聴ける時には好きな人と一緒に聴けたらいいなと今からワクワクしている。

6. Suite: Jonny / Faye Webster

昨年10月リリースだったEP『Car TherapySessions』から既存曲の再構築版。Faye Websterの声ってとても独特な柔らかさがあるが、フルオーケストラとの相性がこんなにも良いなんて思いもしなかった。ロンドンは11月から街中すっかりクリスマスの雰囲気で溢れているように、日本よりもクリスマスというイベントの期待感が凄い。昨年12月に冬限定の遊園地、Winter Wonderlandへ向かうバスでたまたまシャッフル再生で「Suite: Jonny」が流れてきた。「ゆっくりと悲しい思い出は過ぎ去っていく」と歌う彼女の歌声が、クリスマスへの期待にキラキラ輝く街の風景とマッチしていて、思わず泣いてしまった。どれだけ悲しさの中に身を置いていても、これからくる喜びへの期待は辞められない。改めて彼女を調べていたら、彼女が僕と同い年だと知ってびっくりしてしまった。何となく嬉しい。

7. 夜汽車 / くるり

クリスマスソングといえば真っ先に挙げたくなるのがくるりの「夜汽車」。どんなに悲しい出来事があった日の帰り道でも、これを聴けば「明日は何があるだろう」と自然と笑顔になれていた。「夢の街」を目指す恋人たちの歌なのだろうか。クリスマスという描写はあまりにも少ないけど、クリスマスの浮かれてしまう気持ちや、暖かな雰囲気が存分に詰まっている。僕にとっての夢の街はずっとロンドンだったが、いつの間にかそこにたどり着き、気づけば日常に変わっていた。けれど「夜汽車」を聴くたびに、ロンドンにやって来た日が蘇る。曲中で「夢の街」という終着点に近づいて歌われる「ほら 朝陽が見えるだろう キスをしよう」という歌詞の純粋さが本当に大好き。いつでも透明な人になりたいなと願っているけど、憧れているのはこういう純粋さなんだろうなと思う。

8. アスター / シノカ

メロコアが世界で一番優れている音楽だと思い込んでいた17才。その頃に知り合った友人たちが今はバンドをやっている。遠くから聴いているだけの日々が続いていたが、帰国に丁度タイミングが合って観に行った。一緒に同じバンドを観て笑っていた友人が今はステージの上に立っている。ステージライトに照らされている彼らは本当にカッコ良かった。そりゃそうだよな、同じ音楽が好きだったんだもの。そんな彼らが作り出す音楽が好きじゃないわけがない。あの頃に眺めていたヒーローのようなバンドマンと同じ姿。もし17才の自分がここにいるなら、彼らのことをきっと大好きになっていたんだろうな。そう思うとくすぐったくて笑ってしまった。早くまた観たい! 遠くにいても心の底から応援しています。

9. TOKYO LUV / FNCY

2022年ライブ納めは渋谷での「Erection」。そこで観たアーティストでハマったのがFNCYだった。新しい音楽にハマる時は「パフォーマンスが圧倒的」か「自分の身体・精神状況」の2択だと思う。今回のFNCYは後者。久しぶりに東京に帰って来て、生まれ育った街を新鮮に思ったり、そういえばこういう街だったなと思い出すことが多々あった。新しく知ったのは「東京はもう2度と会えない人にふらりと会えそうなのに、結局は広すぎて会えないこと」。ロンドンは東京よりもコンパクトな街だから、遊びに出かけると知人と会うことがよくある。だからいつでも誰かに会えてしまう気がする。けれど東京にはその雰囲気が無いってことがとても新鮮だった。思い出だけが沢山ある街だから尚更なのか。ともかくFNCYはオールナイトにとても映えるグループだった。G.RINA綺麗過ぎました。

10. The Place Where He Inserted the Blade / Black Country, New Road

愛してやまないBlack Country, New Roadの2ndから。2ndは各種メディアで2022AOTYに選ばれた傑作。けれどもこの曲が演奏されることはもう無いのだろうと思う。アイザックがBC,NRを離れて、彼らは既存曲を全て封印し新曲のみでライブを続けて来た。まだ少なからずアイザックの不在を感じた7月のライブから約半年後の12月に、ロンドンで観たBC,NRは一皮も二皮も剥けた素晴らしいバンドになっていた。だからこそこの曲は未だに戻れない過去の甘い思い出のように輝いている。戻れないからこそ思い出は美しい。何度も何度も繰り返し聴いて泣いていたこの曲を、12月に聴いたのは年末に前の恋人に会った日だった。たったの10ヶ月で変わってしまった人間関係について考えながら、目の前には喉から手が出るほど会いたかった彼女がいた。しかしその時にはまともに目も合わなかった。彼女が改札の向こう側に見えなくなって、ずっと耐えてた嗚咽が止まらなくなる。帰り道にたまたま流れたのが「The Place Where He Inserted the Blade」。きっとその時のことを一生忘れられない。聴くたびに何度でも生まれ変わろうって思える音楽。アイザックの絞り出すような「Good morning」に涙がポロポロと溢れて、「ここには悲しみと寂しさしかないのか」と全て終わらせようとしたことや、どれだけ悲しい結末でも自分がこれからも続いていくことを思い出していた。毎日新しく迎える朝に誰に届くでもない「おはよう」を送り続ける。そのうち誰かが僕を見つけてくれるだろう。何故なら結局自分は最後まで素晴らしかったから。そして今も現在進行形でまた素敵になっていくから。今日も明日も、また明後日も。

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今年ものそのそと音楽を聴くぐらいの余裕を持っていようと思います

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