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#3 倒れた次の日

突然教室に入れなくなってしまったわたしは、月曜日の夜を真っ暗闇の中で過ごしました。

とにかく寝て頭痛を治して、明日は絶対に仕事に復帰しよう、そのためにはまず涙を流さないで学校まで着けるようにしようと思いました。



次の日、誰にも会わないように少し早く行こうと思っていたのに、お腹が痛くてなかなか起き上がれませんでした。

重い身体を起こして電車に乗り、学校の最寄駅に着いたのは8時前。
あと10分歩けば着く。
誰にも会わなければ大丈夫。
胸をぎゅっと抑えて歩みを進めました。


あと少しで学校に着く、という時に、1つ下の後輩の先生に会いました。
その先生も、学年は違うけれど、わたしと同じように日々悩みながら懸命に先生をしている方で、一緒にランチしたり、土日に学校でたわいもないことを話しながら仕事したり…お互い気にかけ合う仲でした。

わたしの昨日の様子をご存知で、とても心配してくださっていたんだと思います。
おはようございますという挨拶のあと、
「大丈夫ですか?」
と、優しく声をかけてくれました。

「はい………………」


そう答えたあとに、ぽろぽろ涙が出てきました。
学校に着くまでに止めようとしたけれど、職員玄関に入ろうとした時、ちょうど昨日の支援員のベテラン先生に会ったら、さらに涙が止まらなくなってしまいました。

大丈夫じゃなかった。
だから身体が、その先生の言葉が、教えてくれたんだと思います。
声をかけてくださって、本当に感謝しています。


「よくここまできたねぇ〜〜〜〜〜えらいえらい!」
ベテラン先生はそう言いながら抱きしめてくださり、結局昨日と同じ別室で待機することになりました。


わたしはこの日も、教室に入れませんでした。




毎日来てくださっているSSS(スクールサポートスタッフという、先生たちのお手伝いさん)の方が、無表情・無感情のわたしにずっとついていてくださいました。


「はちみつ紅茶、飲む?わたしこれ好きなの〜甘くて美味しいのよ〜」

「おかし、開けちゃおうか!昔○○先生がいたころはここにドンッと箱で置いてあって、それはそれはどんどん新しいおかしを追加してくるのよ!カロリー高い甘いやつ!
でも太るからって、その先生が異動した時に箱置きはやめちゃったの。
あら〜お菓子もう食べちゃった〜。なくなるの早いわ〜。あ、まだあるから大丈夫大丈夫(そしてまた袋を開ける)」

「ミルクティー飲める?わたしね、スティック2本入れるのが好きなの。入れていい?
わぁ背徳感〜!でも、甘くておいしいのよね〜☺️」



この日校長先生と話した気がするけど、話した内容、まっっったく覚えていないんです…笑


むしろこんなふうにたわいもなく話してくれたSSSの方の話が鮮明に記憶されています。
本当にありがたかった。ありがとうございます。大好きです。



支援員のベテラン先生は昨日と同じように管理職や学年の先生方と話をつけてくださり、

「ねえ、海でも見に行かない?
車で走らせればすぐだから。
わたしの好きなカフェでランチしましょ😊」


と、家まで一度帰ってから自家用車に乗って学校まで迎えに来てくださり、無表情のわたしを乗せて、大磯の海まで連れて行ってくれました。
本当に、ありがたいを通り越して尊い存在すぎて…なんとお礼を言ったらいいのかわかりません。

そう伝えたら
「お礼なんていいの!
あなたの笑顔が大好きなんだよ。
わたしだけじゃなくてみんなね。
わたしも海ひさしぶりだから来れてよかった〜!
気持ちいいねぇ〜!」
といって、隣でにこにこ笑いかけてくださいました。


涙が出ました。



海を見て気持ちが晴れたかというと、わかりませんでした。

波の音を聞きながら、海風を受けながら、ただ、空っぽのわたしがそこにいました。

でもこの時やっと、なんとなくわかりました。
いまの自分は、遠く車を走らせて、滅多に見られない海を見ても、なんの感情も湧かないほどにおかしいんだということ。


海の景色もあの時の記憶も、鮮明に覚えています。
消えることのない、わたしの財産です。


つづく…

(いつも文が長くてすみません…😭
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます!)

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