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#1 心が止まるまでの日々


私は今年度、中学1年生を受け持っていました。

3月に初めての卒業生を送り出して4月。

また新しい子供たちに出会うことはうれしいけれど、同時に大きな不安を抱いていました。
わたしとしては、中1を受け持つのは今回が初めてで、クラス担任も持ちつつ、授業も1から手作りしないといけなかったからです。

加えて学年職員のメンバーも変わりました。
後輩が増えたことで、わたしは(そんな経験もないのに)下っ端から、急に中堅ポジションのような立ち位置になってしまいました。
その戸惑いや焦りもあったのだと思います。
しっかりしなきゃ、期待に応えなきゃと、ただでさえありすぎる責任感と緊張感を何倍も抱えて、新1年生を迎えました。


出会ったみんなはちっちゃくてかわいくて、「せんせー!」となんでも質問したり報告したりしにきてくれました。
やりたいことがたくさんあるみんな。未来をきらきらの目で描いて、わたしにたくさん話してくれました。
「初めてなのに、ちゃんと中1を受け持てるかな…」という不安は、かわいくて頼もしいみんなに出会ったことで少しずつ減って、授業も軌道になんとか乗ってきて、楽しいと思えることも少しずつ増えていきました。
なにより、子供たちからの
「せんせいの授業たのしー!あー、はやく授業こないかなぁ」
という言葉が、本当にうれしくて。
ここで言っても伝わらないと思うけれど、みんな本当にありがとう。みんなが大好きです。

その言葉があったから、わたしに伝えてくれていたから、どんなにつらいことがあってもわたしはなんとか、せんせいをがんばれていたような気がします。ありがとうね。




けれど、どうしてもよくいわれるのですが…「中1はかわいいけど手がかかる」のです。
そりゃそうだろうなぁと思ってはいましたが、想像の500倍大変でした。

ついさっきまで小学生だったみんな。
なにもかも初めてづくしの1年生です。
学校生活の流れやらやり方やらルールやら、わたしが1から教えなくてはなりません。そこまではいいのですが…

「中1の段階でしっかり躾けましょう」という方針が、私の学年にはありました。
いや、公立中学校の性質上、どこの学校もそうなのかもしれません。
毎週の会議であれやこれや、ルールや確認事項がどんどん増えていきました。

「今きちんと躾けないとくずれるんだ、わたしがしっかりしなきゃ」と頭で自分に言い聞かせて、言いたくないことを言ったこともあります。でも正直どのくらい指導すべきなのか、その程度も初めてだからよくわからないまま、余裕もないから言われるがままやってしまっていました。

それに心では「躾けるなんていやだな…わたしはみんなの居場所を作りにここにきたのに、なんのためにせんせいになったのか、わからなくなってきちゃった…」と思うようになっていきました。
自分を見失って、せんせいという仕事自体が楽しいと思えなくなっていきました。





生活指導ももちろん日常茶飯事です。

わたしのクラスから不登校になる子も出ました。
みんな、家族や自分自身、人間関係の作り方などに重たい重りを抱えて生きている子達でした。

まるで中学生の時の自分を見ているようで…

どうしても、救ってあげたかった。

家庭訪問したり、電話してみたり、お手紙を書いてみたり、面談してみたり。
あれこれ手を尽くしました。

わたしにやれることはやったけれど、すぐに状況が改善されるわけではありません。
自分の存在意義やできることを、ずっとずっと問い続けていました。

そんなこんなで、昨年度にも増して、毎日自転車操業・うまくできない自分を責め続ける日々です。
休みなどほとんどありません。

毎日6時半、7時前に学校に行き、教室点検とそうじをし、絵日記を書いて朝8時に子どもを教室で迎え入れ、日中は4〜5コマ授業をし、部活をし、子供が帰った夜7時ごろからやっと自分の仕事を始め…
そんなこんなで終電で帰ることもざらになりました。

夜9時で帰れた日に「あれ、今日早いなぁ」と思うくらいには、脳が完全にバグを起こしていました。


2学期がはじまり最初の1週間。
金曜日に来ていた学習支援員の先生たちに「やめたい、やめたい」と、しきりにこぼしていました。
笑いながら。


土曜日。
ついこの前生活指導をした家庭の保護者から、怒りの電話が来ました。
正直わたしも自分の信念がわからぬまま、学校の方針で生活指導をするのはもう嫌で、保護者寄りの意見でした。
本来ならば教員として、学校の立場を理解してもらうべきところだったと思うのだけれど、もうそんな気力はなくて…
保護者の立場になって気持ちを受け止めて、精一杯の謝罪をして電話を終えました。


日曜日、いつものように21時ごろまで仕事をして、そろそろご飯を食べて帰ろうと思ったころ、頭が割れそうなくらいの激しい頭痛と吐き気に襲われました。
いつもの仕事のやり過ぎだろうと思い、ご飯は食べずに吐かないように上を向きながら家まで帰り、かろうじてシャワーだけ浴び、薬を飲んでそのまま寝ました。



次の日、月曜日。頭痛は治りません。
でもまだ、その日の授業の準備が終わっていません。
朝7時前に、身体を引きずって学校に行きました。


今日もまた、普通の月曜日が来ると思っていました。

でも普通の月曜日が来ることは、ありませんでした。
心がぽっきり折れたのです。

つづく…

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