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「〇〇である」が崩れた世界の心地良さ

村田沙耶香氏の「生命式」を読み終える。

氏の書く世界は奇妙にズレている感じがする。しかし、主人公達は大真面目である。真面目でまともである。しかし、ズレている。何にズレているかといえば、この「世界」で「常識」といわれていることからズレている。異質なのである。

奇妙に感じつつも何とはなしに惹かれるものがあり読んでいる。正直なところ「消滅世界」は読んでいて頭痛がした。自分にはあまりに「生(なま)」に思えて咀嚼できかねた。面白いと思うが匂いがキツい、と言うべきか。なんとも飲み下しかねる匂いが漂うのだ。

面白いけれどちょっとね…という感じだ。

かなり時間を置いてから、たまたま手に取ったのが「生命式」。

葬式で故人の肉を喰み、そこで出会った者同士の気持ちがあえば交尾するのが「生命式」だ。書いていても「はあ?」と眉を顰めたくなるような設定だが、グロくない。氏の書きぶりからは清潔なお伽話のように感じる。人肉を喰らうという生々しさは感じない。それはきっとこれが「物語」だからだろうと思う。最後の海のシーンは、青い海に半透明の白い生命体が無数に溶けるような散らばるような清冽なイメージが浮かんだ。美しい色合いの水彩画を見るような心持ちがした。

初出は2013年とある。10年経ってやっとこちらの理解が追いついたのか世界が追いついたのか、はたまた両方なのかはわからないけれど。色眼鏡で見ない世界は多分美しいに違いない。 

コロナの時を経て世界が急速に変わっているのを感じている。今はその変化の中で良くも悪くも汲々としている。いつの時でも価値観がガラリと変わる時はあったんだろう。それでも人は生きてきたのだなぁと思う。

変わっていくものも変わらないものもある。何かがほどけるたびに、何かを失い何か新しいものを信じるのだろう。

村田氏の作品はなんとも奇妙に惹きつけるものがある。それが何かわからずにいるけれど。

ちなみに「消滅世界」には「日本の未来を予言する芥川賞作家の圧倒的衝撃作」という惹句があった。半分当たってるが半分は嘘だと思ってる。崩壊の果ての新しい世界の黎明を「生命式」に感じるのは自分だけだろうか。



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