見出し画像

部長に、国宝展が如何にビジネスに貢献するかを説いた

 私は一営業所のヒラの社員である。最近、全国展開している本社の部長が、営業所に派遣され、机も所長と並んで配置された。目的は新規開拓する業種のことを勉強するためである。そこで私は早速、自己紹介を兼ねて朝礼の後、私が部長を相手に茶道について10分ほどレクチャーした。
 さっそく私の持論である、いつもの一節から。
「風流、雅を解さない男は、一人前の男とは言えない」
 から、はじめた。
「会社でそれなりのポジションにありながら、風流や雅を語れないようでは、如何なものかと思います。たとえば、お茶の何たるかや茶掛のなんたるかを語れないようでは、肩書きが泣きます」
「風流、雅を語れる様になるとは、それはまず、女を好きになれ、と言うことですね」
 本社の部長といっても、この程度か。思慮が浅薄すぎる。短絡的すぎるし、風流や雅を勘違いしている。そこで、その必要性を分かりやすく説明した。
「たとえ女を口説くにしても、身のこなしが洗練されていて話の内容も知的で、それでいて興味を引くような話題を話せない様では、それなりの女性も相手にしてくれません」
 部長は黙ってしまった。年令は50歳台前半だろう。
「部長。今、ちょうど東京国立博物館で国宝展が開催されています。まずは、そこから始めましょうか」
「私は、興味がない」
「そう言う事を言っているようでは、国内の一流企業に挨拶に行っても、なんと薄っぺらな奴と評価を下されて、次回のチャンスは与えてもらえませんよ」
 すると部長は、反旗を翻した。
「私は、仏像には詳しい」
 と意気込んだが、私は、
「仏像ですか……」
 と、意図的にスルーした。と言うのも、自分の土俵を堅持する事で優位に立ち続けるためである。
「興味がないのでしたら何か一つ、興味の持てそうな国宝を見つけて、それにまつわるストーリーを調べる事です。それが一つあれば、営業や接待の時に仕事以外の話で間合いを取りたい時、国宝の話をすると、部長は周囲からリスペクトされること請け負います。懐の深い部長さんだと。私は何度もそう言う事を経験しています」
 部長からは次の発言はなかった。
 うーん、「逆パワハラ」かな?

創作活動が円滑になるように、取材費をサポートしていただければ、幸いです。