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掌編集「カッシアリタ」

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車いすの主人公と、彼のもとへ転がり込んできた車いすの女「カッシアリタ」、通称リタの日々を描いた掌編集。一話完結なのでどこからでも読めます。
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2021年11月の記事一覧

掌編「カッシアリタ」アケミとリタ

掌編「カッシアリタ」アケミとリタ

 やたら冷たい秋風のせいで、安ライターは何度こすっても火がつかなかった。
 あたしは煙草をくわえたまま舌打ちしつつ、ライターを持つ右手を左手で囲むようにしながら、さらにやすりを回した。それでもすき間から風が吹き抜け、どうしても火が消えてしまう。
 もう、ちくしょう。
 煙草をくわえた唇でもごもごと悪態をついていると、横からすっと手が伸びてきた。軽く指の曲げられた細い手は、あたしの両手を優しく包み込

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掌編「カッシアリタ」 逃げて

掌編「カッシアリタ」 逃げて

 本当に久しぶりだねえ。
 車いすの膝の上にお盆を乗せながら、マキははしゃいだ声を上げた。
 だな。突然悪かったね。
 ううん、来てくれて嬉しいよ。ありがとうね、わざわざお土産まで。
 マキはお盆からお茶と、おれの買ってきた栗ようかんをテーブルに置いた。安物のせいかようかんは思ったより小さく貧弱で、おれはひそかに肩をすぼめた。こじんまりとしてるけど、きれいに掃除、整理がされたバリアフリーのリビング

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