書きたいネタ5 魔女の代償と対価の解離

お題は『魔女契約とその代償』

 少年は魔女に頼み込む。金に物を言わせて姉を無理やり嫁がせようとする悪代官と継父をこらしめて欲しいと。破滅させて欲しいと。魔女はそれを了承した。

「魔女と契約するには、対価、代償を支払ってもらう必要があるわ。それでも良いのね?」

 少年はそれを食いぎみに了承する。姉を苦しめる存在を凝らしめることが出来るなら、自分が持ちうるものを何でも差し出すつもりだった。

 ここでひとつ、記しておかなければならない事がある。少年はまだあくまで『子供』だった。まだまだ知識の浅い、幼い、無知な子供なのだ。だから求められる対価の内容だって、今まで大人たちとの交渉で使ったお金や、集めていた綺麗な石や鳥の羽の『宝物』なんかの発想しかない。魔女がよく求める対価のなかに生き物の命や人生が含まれていることの方が一般的だと言うことだって、知りやしないのだ。
 逆に魔女は、これくらいの年頃の子供がそれを想像できないと言うことを知らかった。彼女は幼少から、『魔女』としての修行を始める前から、対価はそういったものであるのが当たり前だった。自らに魔女の技のなんたるかを教えてくれた魔女が行う取引を、ずっとそばで見ていたから。まだ魔女としては若輩である彼女は、その考えが人間から見れば一般的ではないことなんて、知るよしもないのだった。


 ともあれ幸いと言えよう、少年の望みが姉のためだと知った彼女は、対価を軽くした。材料集めを手伝ってくれるのなら、対価はコケモモの実が三つでいいよ、と。

「あれ、『鈍ったナイフでゆっくり切り裂いた痛み』が在庫切れだ。少年、このナイフで肌を切って」

 こんな感じでちょっと横暴。でも『呪った相手を不幸にさせる』呪術に必要な薬を無事完成させて、少年は喜びながら対価のコケモモの実を三つおいて立ち去る。

「対価、代償を受け取りその対価として『薬』は明け渡され、契約は完了した。新たな契約を望まぬ限り、この扉は二度とあなたの前に現れることはないでしょう」

 表の幕が閉じて。


 少年は知らない。対価と代償が全くの別物だと言うことを。魔女は知らない。少年が自分が払った代償を知らないと言うことを。

『対価』は魔女に支払われるものだ。薬をわざわざ作り、渡してあげたことに対する対価として。これは魔女の好みや気分で、コロコロと変わるもの。対等である必要はないし、交渉次第ではゼロにすることだってできる。

しかし『代償』は違う。その薬を作り出し、他の人間に与えたことへの等価交換で生まれてしまう、どうしようもないもの。その薬を作る力を魔女へ与える悪魔が納得できるような対価を渡さなければならない、どうしようもないもの。例えば人間二人分の不幸を与えるなら、同じだけの不幸が代償として与えられる。人を呪わば穴二つ、よく聞く言葉だろう。しかし少年が呪ったのは二人。つまり、少年一人では賄うことができない。そしたらその不幸が流れる先は、唯一の肉親である姉なのだ。
 少年はそれを知るよしもない。

「代償が何かを聞いてこない人間がいるなんて、珍しいなぁ」

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