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さようなら、未来屋書店。

昨日、3月6日、水曜日。
JR芦屋駅に直結している、本屋が閉店した。

普段よく行く未来屋書店。2月、ふいにここを訪れたとき、嫌な張り紙を見つけてしまった。

駅直結の商業施設であるモンテメールが改装するにあたり、閉店するらしい。モンテメールに入っている他の店はまた近くに移転して営業すると書いてあったので、当然未来屋書店もそうしてくれるものだと思っていたから、かなりびっくりした。よりによって一番無くなって欲しくない店舗。

芦屋にきて2日目だったか、まだこの地域のことを全く知らない私は、晩御飯の食材を買いに駅の方まで歩いてきた。駅までくればどこかにスーパーはあるだろうと考えて、うだるような暑さの中、蝉の鳴き声と共に私も泣いてしまいたいような程だくだくの汗をかいていたところに、なんとも涼しい風が吹いた。
誰かが自動ドアを抜け、外にでた瞬間に、死にそうな私を偶然にも巻き込んだ冷風。思わずその方向に顔を向けると、あったのが、未来屋書店だ。これは運命としかいえない、少し涼ませてもらおうと店内に入る。汗で濡れた身体に風がいい意味でまとわりつく。未来屋書店は芦屋にくる前に住んでいた岡山にもあって、よく行っていたから、なんだか懐かしさを感じて安心する。まさか本屋が炎天下の中見慣れない土地を彷徨う私を身も心も落ち着かせてくれるとは。ああわたし、これからここの本屋さんに通うことになるんだろうな、今はなにもかもが真新しいけれど、すっかりこの土地に慣れたわたしが我が物顔して本を吟味したりして。と1人考えていると、1冊の本が目に入った。


一番目立つところに陳列されていたのもある、私が今から知るべきだったからというのももちろんある。すうっとわたしの視界に入ってきたかと思うと、暗転した舞台でスポットライトを浴び、観客の視線を独占している主人公かのように目に飛び込んできた。これは買うしかない。そう思って、迷わずレジへ持っていった。涼みに入った本屋で芦屋の教科書を手に入れられるとは。思わぬ収穫をして、再びスーパーを探す旅にでた。旅といっても、スーパーはその目の前にあった。ちょっと笑った。

それからというもの、やはりわたしはここに通った。駅に彼を迎えに行く前だったり、迎えに行った後彼と2人でだったり。2階にはカフェもあって、何か注文すれば勉強や書店の本を読むことができるスペースを使っていいということらしかった。1階にも2階にも素敵な文房具や雑貨の販売コーナーがあって楽しい。木調の店内、オレンジ色の照明、おかげで柔らかくてあたたかい雰囲気。そりゃあ通いたくもなる。

そう。そんな未来屋書店が昨日閉店したのだ。最後にもう一度行ってみたいと思って昨日の19時50分過ぎに訪れた。20時閉店なのだろう、流れる蛍の光がより寂しさを演出する。雑貨の棚にはほとんど商品がない。わたしが心を躍らせた北欧の食器や海外のレトロな雑貨たちも、もうどこかへいってしまった。併設するカフェの店員さんらしき人は忙しそうにしているし、いつも可愛い笑顔だったレジのお姉さんも閉店作業に追われている。カフェの注文をした人が使える勉強スペースでは、帰る準備をしているお客さんが何人かいた。この人たちも、常連さんだろう。店員さんもお客さんも、誰も一言も喋ってはいないけれど、皆心に何か思いがありながら支度している感じがした。私もたった半年だったけれど随分とりこになったんだから、皆はなおさらだろう。

もうここに来ることはない。最後だ。モンテメールは改装してまた新たな一面を私に見せてくれるだろうけれど、未来屋書店とはここでさよならだ。

なにもかも、終わりってなんか寂しい。一生続いてしまえばいいのに。最後の日なんていらない。無理なことを言ってるのは十分分かっている。

ありがとう、あの夏の日、ひとりぼっちで道も分からなくて、今にも心が折れそうなわたしを招き入れてくれて。芦屋の教科書を与えてくれて、わたしに、芦屋の楽しみ方を教えてくれて。

さようなら、未来屋書店。

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