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「会いたい」の魔法

たくさんの出会い、会いたい気持ちが、あちらにもこちらにも。

ほら、あそこの角の郵便局の前の女の子。ポニーテールに赤いリボンを結んだ子。あの子はお友達との待ち合わせ。

「お待たせ!」と走り寄る、青いワンピースのすそをゆらして、元気いっぱい走り寄る女の子。笑顔で「おはよう!」と返す、赤いリボンの子。2人は仲良く並んで、緑いっぱいの公園へと歩いていく。毎日会っているのに、2人は会うたびに、お別れする度に、「今日が一番楽しかったね」っていうんだ。

今度は、あっち。カフェでひとり紅茶を飲みながら、本を読んでる女の人。なんだかきんちょうした、たよりなさげな顔。本をちゃんと読めているのかすらわからない。彼女はね、これからメッセージでのやりとりをしていた男の人と初めて会うんだ。文字のやりとりから、優しくて、面白くて、とても素敵な人だと信じている。初めて声をきけること、写真じゃない、本物の彼を見るの今かいまかと待ちわびて。

「こんにちは」と少しはにかんだ顔で彼女の席に近寄る男の人。彼女は、低くて優しい声にゆっくり顔をあげる。ぎこちない笑顔で、「こんにちは」といって、開いていた本を閉じる。想像どおり、素敵な彼に「何読んでたの?」と聞かれて、しかたなく「きんちょうしすぎて全然読めなかったの」と答えることになるなんて夢にも思ってない。

彼の方も、それはそれは楽しみにしていた。うっかり牛乳を6杯も飲んじゃうほどにね。でも、自分以上にきんちょうしてる彼女をみて、ほっとしてる。2人とも心の中で、「この人が運命の人かも」ってわくわくどきどきしているんだ。

あ、あそこ、みて。あのちいさな男の子、2人組。あの子はね、あの白いセーターをきた子の方。あの子はママが大好きなんだ。パパももちろん大好きだ。昨日の晩にパパから「君にも必ず、パパにとってのママのような人が現れる。ずっとそばでその笑顔を見ていたい人、笑顔を守りたいと思うような人に出会えるよ」ってね。

だから、ああして、探している。彼の「笑顔の人」を。まだ、だれかもわかっちゃいないけれど、きっと見つかるって。パパが言っていたんだから絶対だって心をどきどきさせて、あっちを見たりこっちを見たり、大忙しだ。

男の子は一人の女の子に目を止める。黄色いワンピースを着て、ふわふわした足取りで歩く一人の女の子を。走り出したい気持ちをぐっとおさえて、彼女を怖がらせないように、にっこり笑って彼女に近づく。それでも、彼女は十分びっくりするけどね。だって彼女は、彼を知らない。運命の人だなんて知らないから。

それに、あのおじいさんも。あの人はもうずいぶん前から朝10時になるとああしてお店を開けて、あの窓辺に座るんだ。お客さんの相手はもちろんする。でも、待っているのはたった一人さ。

彼の待っている人はね、何十年も前に、たったの1回だけ出会った美しい女の人。もちろんその人も彼と同じだけ年を取っているだろう。でも、彼は必ずわかると信じている。一目見たら彼女だとわかるとね。

そこに、カランっとドアベルが音を立てる。入って来たのはきれいなグレイの髪をなびかせた上品な感じのおばあさん。奥様ってかんじだ。おじいさんとおばあさんは、目を合わせた瞬間、息をのむ。「奇跡が起きた」って。

世界中にあふれてる、たくさんの会いたい人、奇跡の出会い。みんな気が付いてないけど、とってもすごいことなんだ。「会いたい」気持ちは、魔法の呪文と同じ。どんな人でも、誰でも使える魔法の呪文。

最後までお読みいただきありがとうございます♡読後にちょっと心がぽかぽかするような、弾むような、そんな文章を書けるようこれからも続けていきます。ピンとくるものがありましたら、サポートお願いいたします。作品というかたちにして、お返ししていきます。