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駆け出しマネジャーの成長論


〇イントロダクション

 この本は、係長の仕事についての本の感想をFBに書いたところ、とある方より、「これも参考になるよ」と紹介してもらった本です。
 この本でいうところの、「マネジャー」というのが、役所でいうところのどの辺の職階なのかはよくわからないのですが、「実務担当者から新任マネジャーになられた方、すなわち、駆け出しマネジャー」と定義されています…役所でいう係長は、完全なる実務担当者の次のポストではありますが、最近は自分でも仕事を持つプレイングマネジャーになるので、ここでいうマネジャー=役所での課長に相当するのかと考えました。とすると、自分にとっては少し先取りっぽくはなりましたが、現在の係長というポストでも、係員を数人かかえて仕事をしなければならないので、その辺はとても参考になりました。
 なお、もともと2013年に書かれた少し古めの本ですが、今年、増補版が出ていました。古いとはいえ、まだまだ使える知識がたくさんありました。

〇マネジャーとは

 マネジャーとは、「他社を通じて物事を成し遂げる人」であると定義されています。
つ まり、「自分のタスクを追ってきた人」「自分が動いてきた人」が、マネジャー候補になって「自ら動かないこと」を求められています。
「仕事のスター」から、「管理の初心者」に生まれ変わらなければならないので、「学び」と「移行期間」がどうしても必要となってくるので、そのための課題や、解決法が、以下に書かれています。
 …確かに、仕事のスターであった自分の時の記憶が新しく、なかなか、それを捨てて、管理では初心者であること、ほかの人に動いてもらうこと、はできないなと実感するところではあります。

〇移行にあたり乗り越えなければならない課題

 確かに、人は、マネジャーになった瞬間というのは、多くの人々にとって圧倒的にポジティブな経験で、これで、「納得のいくように仕事を進められる」「自分で決められる」とは思うのですが、同時に、ネガティブな感情も発生してきます。それが、以下の7つの課題です。
①部下育成、②目標咀嚼、③政治交渉、④多様な人材活用、⑤意思決定、⑥マインド維持、⑦プレマネバランス

① 部下育成
ついつい、自分がやった方が早いし、と思いがちですが、それでは部下が育たず、時がたつと年の取ったプレイングマネジャーと、成長していない部下が残ってしまいます。なので、ちょっと危なっかしい部下にあえて難しめの仕事を振り、マネジャーとして進捗を管理することが必要になってきます。その際は、部下にあれこれ指示を出すのではなく、部下自分で考えさせるやり方が効果的とのことです。
②目標咀嚼
会社が作った目標を自分の部下たちにかみ砕いて説明し、部下たちの納得を得ること、会社の戦略を部門の仕事に落とし込み、部下たちに仕事を割り振っていくことです。
確かに、経営層が言ったから、とそのままスルーして振ってくる上司、いましたが…納得して仕事はできなかった記憶があります。
③政治交渉
組織内にネットワークを作り出し、それを通じて自部門に資源を集めつつ、かつ、他部門ともうまく協調していくことです。
これは、組織内も、組織外も言えることだと思います。
④多様な人材活用
最近は、多様な雇用形態、多様な文化的背景、多様な年齢の方と働くことになります。
とりわけ、シニア層は難しく、年功序列が強固だったわが社でも、だんだん崩れつつありますし、非常勤、派遣の方も多くなってきています。
⑤意思決定
白黒はっきりできる案件は、部下でやっちゃうので、上に上がってくるのはグレー案件ばかり…確かにそうで、一緒に悩んでしまい、決定は難しいです。でもそれは当たり前のことだそうです。
⑥マインド維持
いかにその仕事が「矛盾」や「混沌」に満ちていようとも、心を平静に保たなくてはならない。
とのことです。「折れないように自分を維持すること」、なんと突き刺さってくるフレーズなのか。不真面目力とスルー力で孤独にならないようにすることがポイントとのことです。
⑦プレマネバランス
このようにプレイヤーとしての自分と、マネジャーとしての自分の心理的・時間的バランスをとることを意識することになります。
その際、重要なのは、「マネジャーがなしうることは、物事が一つでも前に進むための「やりくり」をすること」とのことです。

〇移行期の乗り越え方…課題への解決のヒント

 上記の7つの課題について、乗り越え方のヒントが次に書かれていました。
以下、ポイントの抜き書きになります。
①部下育成
・誰を育てるかということで、部下の分類をしてみる。
伸びしろと本人の成長意欲のマトリックスで、右腕さん/次の右腕さん/もう一歩さん/粛々さん それぞれに合わせてはどうか。
・育てるのに適切な空間も考える。一番良いのは、挑戦空間:学習者が様々な未知のものと出会い、それらに適応したり対処したりする空間。
・3つのポイント…業務内容や目指す目標について部下の腹に落とすこと、背伸びや挑戦を含む業務経験を与えること、仕事の進捗を見て、適宜、部下の振り返りを促すこと
・育成に協力的な空間を作る
指導員がひとりでOJTを抱え込むのではなく、職場内外のほかの人たちと協調、分散して新人を指導した方が効果は上がる。

②目標咀嚼
・マネジャーは上司とのパイプではなく翻訳機
・目標については、部下も参加できる対話空間が必要、自分たちの対話が反映されている、自分たちがそれを決めたのだ、という感覚を持つことが大切
・最後にどのようなポジティブな世界が広がっているかを示す。
・以上を「繰り返し」行う。

③政治交渉
(1)ボスとの政治交渉
ボスの理解、ボスとの関係構築、段取りを踏んだロジックを組み立てる3段階。
ボスのロジックは、会社や部署にメリットがあるかどうか?なので、それがあるかどうか?
(2)他部署との政治交渉
大切なのは、現状理解、関係構築。日常から関係構築行動をし、最後は、「数字」と「錦の御旗」の提示をする。

④多様な人材活用
・年上の部下へは、「年長者へのリスペクト」「役割として接すること」「職場のパワーバランスの利用」が、ポイント。
その際、自分の経験だけを意見の根拠にするのは危ない。
職場には「経験も知識もない人間は社会(職場)でものを言ってはいけない雰囲気」
はよくない。
・パート、派遣社員の取り扱い方は、「仕事の位置づけ・意味づけ」「マネジャーからの直接の目配り・気配り」がポイント
・中途採用については、「現在の職場で、できることできないことの境界を探る」「今までの経験を時としてはアンラーンさせる」「ついついお手並み拝見の雰囲気をなるべくなくし、職場に溶け込ませる」
・外国人については、グローバル化に相いれない日本の文化(価値観) 阿吽、察し、背中、を避ける。
つまり、マネジャーはフィールドワーカーとして、職場をよく観察する。


⑤意思決定
・意思決定をする際は、メリットとリスクを計算する。
・「部下からの情報は謙虚に聞くこと」は大切だが、それを「そのまま鵜呑みにしてはいけない」こともまた真実。
・「迅速な意思決定ができること」とは「いつも考えていること」と同義

⑥マインド維持
・マネジャーには、おりにふれて振り返りを促してくれる人、励ましてくれる人が必要。できれば、指摘をしてくれる緊張屋さんとみとめてくれる安心屋さんを持つとよい。
・ネットワークとは「ある」ものではなく、自ら「つくりだすもの」であり、そして「メンテナンスするもの」

⑦プレマネバランス
・自分の時間を見直すこと、その際には、
自分がやりたいこと/自分がやらなければならないこと
自分がサポートするなら、他人に任せることができるもの/自分のサポートなしでも、他人に任せることができるもの
をマトリックスで考え、自分がやらないことを決める。
・スケジュール帳で仕事を振り返る

 あまりにも同意することばかりで、ほとんどただの抜き書きになってしまいすみませんが、本当に、全部必要なことだよな、と思う次第です。定期的に読み返していきたいと思います。

〇最後に…経営層へ

 マネジャーを育てるための会社への提言で、経営層へのコメントが、秀逸でしたので紹介します。
「経営層自らが学んでください」、それは、自分自身が学ぶこと、自社の社員の学びの環境を整備していくことの両方があります。
常に学び続けることが大切だということですね。

〇おまけ1…駆け出しマネジャーの座談会

 各業界の駆け出しマネジャーの座談会があったので、面白かったコメントを抜き書きしてみました。
・「人間動物園」、部下のキャラクターがバラエティに富んでいる。
・中途の人は、過去の経験にこだわるあまり、我流で仕事をしがちで、自分のやり方を崩されるのをいやがる傾向がある
・部下には、作業の仕方だけではなく、目的を明確にしてあげる
・自分の知識をシェアすると、「私はいずれ必要なくなるのかな」と思ったりする。
・マネジャーになると、やることが個人競技から団体競技に変わる
自分の役目はとにかくチームのパフォーマンスを最大にすることである
・右腕になるような部下が一人できると心強い。しかし、右腕はもれなく取られてしまう。そういう子は、部署が違っても、何かにつけて手伝ってくれる。見えない絆で結ばれている。

〇おまけ2…増補版の追加分 働き方改革と残業について

 初版は2014年でしたが、2021年への増補版に、追加で、残業についての記述がありました。確かに、その後、働き方改革とか、残業削減とか問題になってきています。これはまた、マネジャーの8つ目の克服課題となっているとのことから、残業に関する研究「希望の残業学」を行った結果を掲載しています。

(1)残業削減と働き方改革への疑問
「働き方改革」は、どうも働く人たちの本当の「幸せ」につながっていないのではないか。というのは、施策の多くが、長時間残業をもたらす原因にふれることなく、業務量やノルマの見直しもないまま、ただ残業時間だけを削減させようとしている。
「残業はせずに、締め切りとノルマは守って」というスタイルの「働き方改革」には絶望しかない。
例えば、残業時間削減が希望ではないケースは、以下の場合がある。
・長時間残業のおかげで達成していた成果を手放したくない
・個人の方でも残業代が払われないと困る、残業することで成果や能力を高めたい、と思っている場合がある
また、日本は、とある調査結果によると、仕事への熱意溢れる社員が世界の中でも驚くほど少ない一方で、日本人の希望や幸せにつながっている1位が「仕事」となっており、このギャップを埋めたい。

(2)残業が発生するメカニズムについて
・残業は「集中」する
残業は仕事のできる人に集中する。できる人に仕事が集まってしまうため、できる人ほど残業時間が増える。これは、個人の努力では解決できない。また、下にお願いできない上司にも集中している。
・残業は「感染」する
周りの人がまだ働いていると帰りにくい雰囲気になる。
・残業は「麻痺」する
人は、残業時間が長くなりすぎると、残業麻痺を起こす。ある一定程度残業時間を超えると、人は幸福度や満足度が高まっている。休まなければならないのに、自ら喜んで仕事をしてしまう。
・残業は「遺伝」する
「若いころ長時間残業をしていた経験がある上司」の部下は残業時間が長くなる傾向がみられる。興味深いのは、新卒入社した会社が「残業が当たり前の雰囲気だった」と答えた上司は、転職して会社が変わっても部下に残業を多くさせる傾向が強い。
なので、新卒入社時から時間と効率を意識する習慣を身に着けさせることがカギである。

(3)残業を適切に削減するには
・会社施策としては
「ノー残業デー」「残業時間の上限設定」などをやっているが、効果があったのは、「会社、職場が本気で取り組んでいこうとしている」と感じられる場合、「告知チャンネル」が多い場合であった。また、定着まで時間がかかる。
・職場マネジメントとしては、
残業が少ないだけではなく、パフォーマンスを高めることが大切。
「残業が多く」「パフォーマンスが低い」①現場や職場の状況よりも経営層や上層部からの指示を優先する、②部下の仕事の進捗を把握していない、③指示や判断の基準がよく変わる
「残業が少なく」「パフォーマンスの高い」①指示や判断を早く行う、②業務上の指示を明確に行う、③指示や判断の基準がぶれない
・個人の意識
残業代を前提に家計を組み立てている人がいるので、それまで支払っていた残業代を別の形で給与に反映するような賃金体系、報酬制度に変更する必要がある。

 私個人の話をすれば、自分は新入社員の時の職場は残業がとても多い職場であったので、おそらく周りに感染させたり、部下に遺伝させる可能性は高いです。しかし、幸か不幸か、結婚して子育ての段になり、「残業をせずに」乗り切らなければならない状況に強制的に追い込まれたことにより、少しはその要素が中和されたのではないかと思われます。とはいえ、もともとは、残業についてそれほど抵抗のない遺伝子を持っていることを肝に銘じて、子育て期が終わりを迎えつつある今、その枷がなくなりつつあるときに、あたらめて自覚しておく必要はあるかと考えました。

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