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狂氣に共感する

先に書いておきます。


今回書くにあたって、


フランシス・ベーコン(画家の方)の超有名作品を貼ることになります。


かなりショッキングです。単にこわいと感じるより、おぞましい、と感じたりする方が出てくるとも限りません。


一応ここから先を読む方は、


彼の作品が登場することを念頭において、できるだけ明るいところで、


優しいメロディの音楽を流すとかしたり、美味しいお茶でも飲みつつ、美味しいスイーツをつついたりしながら、


心穏やかに読んでください。


というわけで、本題。


あるとき、私は嘘をつかれました。本人からしたらほんのジョーク程度のものだったのかもしれません。


でも私はそのとき、とても傷つきました。


「あれ、誰にでも言っているから」とフォローをしてくれた人もいましたが、


そもそもなぜ「私が」嘘をつかれなくてはならなかったのか、と悲しくなりました。


なぜすぐに「ウッソでーす!」とか、「冗談でーす!」と否定してくれなかったのか。


そのとき私の中で、


先に書いたフランシス・ベーコンのあの絵が浮かんだのです。


エドヴァルド・ムンクの「叫び」の比じゃなかったのです、私にとっては。

エドヴァルド・ムンク「叫び」

ムンクの「叫び」も、「自然が貫く果てしない叫び」に耳を塞いだというシチュエーションを描いたもので、


その自然が発したという叫びは、彼にだけ聞こえ、それが耳を塞がずにはいられないほどの狂ったような声だったに違いありません。


でも、今回は、ときにユーモラスに扱われたり、パロディ化されるような、親しみある「叫び」では済まされなかったのです。


狂いそうな、ひどく心を潰されるような、そんな苦しみが湧いたのです。壊れる、そんな感覚。


はいではご覧になっていただきましょう。フランシス・ベーコンの、おそらく1番有名な作品なんじゃないかしら。

フランシス・ベーコン「ベラスケスによるインノケンティウス10世の肖像画後の習作」


かつてフランシス・ベーコンの作品に触れたとき、私は「こわっっっ」とだけ思ったのです。フランシス・ベーコン、この人ヤバいわ、程度なものです。


この作品の元絵は、タイトルにあるようにディエゴ・ベラスケスによるものです。

ディエゴ・ベラスケス「インノケンティウス10世の肖像」


何がどうしてこれが、ああなる?


と、思わずにはいられない、インノケンティウス10世の変貌ぶり。


一氣にメンタル崩壊したかのようなスピーディーさを感じます。


どおおおぉぉぉおおおんっっっ!!!と何かが、恐怖感とか、衝撃とか、貫かれたかのよう。


ベーコンはこのインノケンティウス10世をモチーフにいくつか描いています。


せっかくなので(?)ちょっと並べます。

3枚目だけ、ちょっと燃え尽きた感がなくもないですが、それでもやっぱりメンタルどうにかなったかのよう。


もうホントにこわい。


夜中にこれ観たらギョッとするどころの騒ぎじゃないでしょう。絶対夢見が悪くなりそう(泣)


で、こう観ると、インノケンティウス10世が狂った姿をイメージして描いた、と思われそうですが、


実際はベーコンは「狂氣そのものを描いた」と述べているとか。


インノケンティウス10世は晩年、怒りっぽさがひどくなり、人望もなくなり、


亡くなったときはしばらく遺体が放置されて、すぐお葬式とはならなかったそうです。教皇なのに。


カトリックのトップって、今だって大変敬われるような存在なのに、


ほったらかしにされたとか、どんだけ……


とは言え、狂人になった、とまではなかったみたいなんですよね。


ですが、義理の姉オリンピア・マイダルキーニに振り回され、かと言って彼女なしには何もできず、


イマイチ過ぎる教皇だったと言わざるを得ません。

こちらがオリンピアさん。エラく強欲な方だったとか。


ああ、インノケンティウス10世の話へどんどん逸れちゃいましたが、


彼の中に「狂氣」を感じたのでしょうか、ベーコンは。


嘘つかれたとき、一氣に氣がおかしくなったかのような、メンタル崩壊したかのような、インノケンティウス10世が頭に浮かんで、


私は初めて、フランシス・ベーコンに共感を覚えました。初めて作品を観たときは、「もう全然受け入れられないよー」と思っていたのに。


人間の狂氣を、ちゃんと捉えて表現できた彼を、スゴい、と思い直したのです。


絶対好きになれないと思っていたのに、彼が表現した狂氣を、私はそのほんのちょっとでも理解できたのではなかろうか、と感じました。


嘘つかれたショックで。


そして、私はそのとき氣づいたのです、その人を失うこととか、その人と物理的に離れることになったら、平静ではいられなくなるのだろう、ということに。

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