優月

民俗学noob

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マガジン

  • 岡山の来訪神

    岡山県には小正月に「コトコト」や「ホトホト」などと呼ばれる来訪神がやってくる行事があった。この行事の詳細な事例を見て比較をする。

  • 備前の民間信仰

    岡山県備前地域でよく見られる民間信仰について軽くまとめました。

  • 備前片上駅→伊部駅を歩く

    備前片上駅から歩き始め、主に旧西國街道沿いの寺社仏閣や信仰、遺跡に立ち寄りながら伊部駅を目指す行程を紹介しています。

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備前地域の信仰まとめ1

岡山県は備前地域のおもに南側でよくみられる民間信仰についてまとめておく。 対象とする範囲 ここでの対象となるのは 備前市 和気郡 赤磐市 瀬戸内市 岡山市東区、中区、北区の一部 を主とする。※実際の備前国自体はさらに広い範囲を示す。 ①地神塔 地神塔は県のほぼ全域で見られる。特にこの地域では五角形の五神名地神塔がスタンダードである。自然石に「地神」と彫った地神碑や、自然石だけのものもみられる。  各地区の社日講がだいたい江戸末期~大正期に建立したもので、現在で

    • ミサキ信仰について

      ミサキという存在供え物とミサキ  お供え物には様々なものがあり、供える対象も多様である。神事で神社に奉納される供物や道端の地蔵に手向けられる花、死者のために仏前へ供えるご飯などがある。食べ物の場合は長く供えておくと腐ったり外にあると動物に食べられてしまう。  動物に食べられた場合、人々はその動物を神の使いのミサキであるとして喜ぶ。例えばこれ系の話題では必ず話題に挙げられる福井県のニソの森では供物が食べられると「ネがあがった」と言い、岡山市の深田神社でも供物をミサキに食べて

      • 岡山県内の地神碑分類

        地神碑について 岡山県では県下のほぼ全域で地神を祀っている様子をみることができる。それらの多くは江戸時代頃に修験者や陰陽師が伝えとされる、庄屋などの有力者が建立した石造物である。建立の時期については江戸時代の天明頃に始まり、最近の物では平成に入ってから建立されたと思われる新しいものまである。最も建立されたとされる時期は天保期で、天保の飢饉を受けてのことだと思われる。  基本的には地区にある社日講ごとに建立されている。 地神の祭  地神碑の祭は社日に行われる。社日は春分と秋

        • 岡山の来訪神⑥

          今回は岡山県外の事例を紹介する。 岡山県外の事例 岡山県でのコトコト行事のような、小正月に仮装をした来訪神がやって来て福をもたらすという行事は全国的に見ても少なくない。その中でもっとも有名なものは男鹿半島のナマハゲだろう。ナマハゲももとは小正月に行われていたようだ。ナマハゲや甑島のトシドン、能登のアマメハギなど10件がユネスコの無形文化遺産に登録されている。  ここでは岡山県の近くで同じように「コトコト」や「ホトホト」などと呼ばれる行事を紹介する。 広島県庄原市のとら平

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        備前地域の信仰まとめ1

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        • 岡山の来訪神
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        • 備前の民間信仰
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          岡山の来訪神⑤

          今回は持ち物の交換を終えた後の行動について見る。 来訪者の禁忌 来訪者には禁忌があった。それらの禁忌を犯すと厄を落とせない、病気にかかるなどと言われていた。 橋を渡ってはならない  異界との結節点たる橋を避けることで厄がつかないようにしていると考えられる。  備中町長谷の例。こちらも厄年の者は橋を渡ってはならないという禁忌であった。 姿を見られてはならない  美星町宇戸地区の例。姿を見られてはならない、声を出さないというのは神として訪問しているため誰が来たかを隠す

          岡山の来訪神⑤

          体調不良+期末レポートで来訪神が更新できないので、こちらをご覧ください。これは私がこれまでに現地で存在を確認した地神全142基です。だいたいの分布の傾向が予想できます。 ⬟:五神名地神塔 ▲:自然石地神碑 ●:自然石地水二神碑 ▲(赤):題目付き地神碑 ■:堅牢地神その他

          体調不良+期末レポートで来訪神が更新できないので、こちらをご覧ください。これは私がこれまでに現地で存在を確認した地神全142基です。だいたいの分布の傾向が予想できます。 ⬟:五神名地神塔 ▲:自然石地神碑 ●:自然石地水二神碑 ▲(赤):題目付き地神碑 ■:堅牢地神その他

          岡山の来訪神④

          今回は来訪者の持ち物とその容器について見る。 来訪者の持ち物藁馬  成羽上日名・備中平川・高梁宇治の事例である。藁馬を用意する地域はかなり広い。  藁馬を量産することはできないので藁馬を取られないように工夫することもあったようだ。  この馬はコトコト馬やゴリゴリ馬などとも呼ばれていた。  藁馬が渡されるのは小正月の時だけではない。婚礼の時の祝い込みにも作られ、渡される。  婚礼の時にこのような習慣があった地域には小正月のコトコトの行事もあるため、コトコトを祝いの行事

          岡山の来訪神④

          岡山の来訪神③

          今回は前回に続いて、来訪者の身分と厄払いについて例をみていく。 来訪者の身分 この行事で来訪神の役をし、訪問して餅などをもらう来訪者はどのような身分のどんな年齢の人が対象なのだろうか。 子供  浅口郡里庄町の例である。  また、井原市平井字西平井ではみの笠をかぶった子供が三人組で来ることが多かったという。(岡山県の正月行事) 青年 久米郡中央町(現久米郡美咲町)大垪和地区での聞き取りによる。 厄年の者   備中町田原(現高梁市備中町東油野)の例と、湯原町本庄(現

          岡山の来訪神③

          岡山の来訪神②

           今回から「コトコト」「ホトホト」の個別の事例についてみていく。 来訪神・行事の呼び名 呼び名には「コトコト」「ホトホト」「ゴリゴリ」「トラヘイ」「カイカイ」など様々なものがあった。  この呼び名は訪問者が家の者に気づいてもらうための手段などとも関わってくることが多い。 「コトコト」と呼ぶ例  岡山民俗事典では「コトコト」の呼び名は県中央部に分布しているとある。  総社市秦の例である。  コトコトというのは戸や縁側を叩く擬音であるようである。「コトコト」と呼ばれる場合

          岡山の来訪神②

          岡山県の来訪神①

          岡山県の来訪神とは小正月に来る来訪神  岡山県には小正月に「コトコト」や「ホトホト」などと呼ばれる来訪神がやってくる行事があった。  『岡山県史 民俗Ⅱ』にはこの行事について とある。 行事のプログラム  県史での説明を整理すると次のようになる。 簑・笠をつけ仮装をして家々を廻る 縁側に盆などに乗せた藁の馬を置き、雨戸をコトコトと叩いて隠れる 家人は雨戸を開けてコトコト馬を取る 家人は盆の上に餅や蜜柑を置く 様子をうかがいながら盆を取り、次の家へ向かう  

          岡山県の来訪神①

          備前地域の信仰まとめ4

          岡山県は備前地域のおもに南側でよくみられる民間信仰についてまとめておく。 ⑲八大龍王 水の湧き出る井戸や泉、岩肌から水が染み出しているところに八大龍王を勧請していることがある。水の神として龍神を祀っている。  雨乞いの神として乞雨祭を行うこともある。たくさんの薪を焚いたり、一升ますを持ち寄って洗い、積み重ねるなどしたという。  備中の方では大山寺から勧請していることが多いが、備前ではその風は珍しい。 ⑳道通神社 道通神社は笠岡市のものが有名だが、岡山市中区沖元の沖田神社の

          備前地域の信仰まとめ4

          備前地域の信仰まとめ3

          岡山県は備前地域のおもに南側でよくみられる民間信仰についてまとめておく。 前々回 前回 ⑬祝い神 祝い神とは株内で祀っている神のことをこう呼ぶことがある。株内の本家の家にあることが多い。その神の正体は様々で、荒神であるとか、先祖であるとか様々な説明がある。守護神として勧請した場合もある。  祠は木製のものや、大きめの瓦質祠がメジャーである。  祭りとしてはうどんを作って食べる「うどん講」というものをしていたところもあった。 ⑭若宮 若宮は祝い神の別の言い方として祀られて

          備前地域の信仰まとめ3

          備前地域の信仰まとめ2

          岡山県は備前地域のおもに南側でよくみられる民間信仰についてまとめておく。 前回の続きになります。 ⑦道切り 道切りは各地で様々な形態が見られる。備前でもよく見られるが、その形態は祈祷札を竹に挟んで集落の境界に置くというものがスタンダードである。集落の境界は必ずしも大字界とは限らない。  祈祷札の内容は村内安全や五穀豊穣を祈願したものが多く、近隣の神社によるものや、講が設置した四天王による守護札も存在する。  札の交換のタイミングは地区によってさまざまだが、竹を刺す地点に制限

          備前地域の信仰まとめ2

          【備前片上駅→伊部駅を歩く】番外編

          番外編 ここでは私が片上のことを調べるうえで参照した『片上町史』の内容をもとに社寺や出来事を紹介・考察します。 社寺下の荒神  片上町史によると第一回で紹介した「荒神社1」は「大東下の荒神」のようです。下の荒神があるのでもちろん別の荒神もあります。「山の荒神」と言います。その「山の荒神」は大東のなかでも北側の山の裾にあるようです。  どちらも同じ川の近くに置かれています。 大淵荒神  同じく第一回で紹介した「荒神社2」についても説明がありました。  荒神のある山は

          【備前片上駅→伊部駅を歩く】番外編

          民間信仰と仏教

           民間信仰の中には神道の神や、九星術由来の方位神、仏教の仏などがよく登場する。今回はそのなかでも仏教、とくに仏像が民間信仰とかかわっているパターンを紹介していく。 ①願事タイプ これは薬師や観音などが、仏教での本来の役割・ご利益とは別に、民衆側からの願い事を変えるという面から信仰されているタイプである。 ②イメージタイプ これはその仏の名前や姿・伝説のストーリーからイメージされた加護と結びついて、信仰集団が生まれるパターンである。具体的には馬頭観音などがそうである。 馬

          民間信仰と仏教

          【備前片上駅→伊部駅を歩く】#4

          今回の行程全行程  普段は播磨国、但馬国ばかり歩いている私が今回は備前国を歩きました。  備前片上駅から歩き始め、主に旧西國街道沿いの寺社仏閣や信仰、遺跡に立ち寄りながら伊部駅を目指す行程です。直線距離で3.6kmほど、道の曲がり具合を考えると1里(約3.9km)は超えていそうです。  11時45分ごろに備前片上駅を出発し、伊部駅に到着したのは16時ちょうどごろでした。ほぼ4時間でそこまで長い旅路ではありませんでしたが、播磨や但馬地域とは違った信仰のかたちなどの文化の違いで

          【備前片上駅→伊部駅を歩く】#4