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待つわ いつまでも待つわ♪

【本エッセイを読む前の注意喚起】
本記事は今年度初っ端のエッセイにもかかわらず、誠に残念ながら非常に下らなくてナンセンスな内容となっております。
「それでも構わない!」「ぜひ読み進めたい!」「いいじゃない、そんな時があっても!」「いやはや、それもオツですな」「まあまあ、どうせ謙遜でしょ?」等々温かなお心をお持ちの方のみ画面をスクロールいただければ幸甚です。何卒宜しくお願いします。では本編!
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112ページだ。
 
唐突にページ数だけ言われても、なんのこっちゃわからんだろう。
これは、とある日に読んだ伊坂幸太郎のエッセイ集『仙台ぐらし』のページ数である。別になんてことはないのだが、「耳鼻科の待合室で読んだ分量」と聞けば多いように思えないだろうか。
 
読む速度は遅いと自覚しており、少しでもわかりにくい箇所があると3回は同じ文を読み返しながらページを繰る僕にとって、読書とは非常に労力のいる作業だ。そんな速読ならぬ“遅読”の僕に1日で112ページも読ませるのは控えめに言ってもかなり凄い。

 
悪戦苦闘しながら文章と対峙している間にも患者は入れ代わり立ち代わり出入りしているわけだが、気づけば僕は老夫婦とその娘さんと思しき三人組にサンドウィッチされ会話をされていた。
本に集中していたとはいえ、迂闊だった。
今、僕の右隣と左隣には老夫婦が座り、目の前に娘さんが立っている状態だ。
 
「あっちの席へ移るんで、こちらどうぞ」
 
そう言って席を譲ろうとしたら、娘さんらしき中年女性に「お構いなく!」と遠慮されてしまう。いや、ここから移動できた方が僕も気楽でいいのだが、そう言ってしまった手前黙って席を空けてしまうと相手側も気分が悪いだろうなと思い、しぶしぶ元の席に座り直す。
 
「いやぁ、気を遣わせて申し訳ないのう」
左隣のお父さんにそう言われ、「いえいえ」と言葉を返す。正直ここから一刻も早く離脱したかったものの、その一言に少し報われたような気もした。

よし! もうこの際、この場所で思うがままの時間を過ごしてやる!
そう意気込んで、再び伊坂幸太郎の世界に没入しようとするものの、聞いていないふりを装ってもかなりの至近距離でその親子のやり取りが繰り広げられているわけだから、如何せん読書に身が入らない。
 
気が散ると周りがひどく気になるタチで、結局横目でちらちらと見てしまっていたのだが、老夫婦は傍から見ても具合が悪そうな様子だった。
実際その声は隣にいる僕でもぎりぎり聞き取れるレベルだったのだが、その日が初診だったためか娘さんが代筆で問診票を書いており、その記入欄に現在の年齢を書く箇所があったようで、
 
「えっと、お母さん92歳だっけ?」
 
「89じゃ!!!」
 
そう僕の隣で唾を飛ばしていた(厳密にはマスクをされていたので、唾はもちろん比喩である)。
さっきまであんなにか細い声だったのに、案外元気やん……実の子といえども、女性の年齢を間違えるのはあってはならないことなんだな……。
そんなことを頭では考えている。もはや手元のエッセイには一切集中できていない。伊坂さん、こんな読者でごめんなさい。

 
それから数分後、ようやく看護師さんが僕の名前を呼んだ。
僕の通院している耳鼻科では今いる待合室のほかに、診察室の目の前に設けられている中待合室という場所があり、診察直前になると看護師さんに名前を呼ばれそこに案内されるのだが、ここで小さな事件が発生した。
 
そう、名前を4回言い間違えられてしまったのだ。
僕の苗字はかなり珍しい部類なので気持ちはわかる。言いづらいよな。うんうん。でも、いくらなんでも噛みすぎやしないかい? そこんとこどうなのよ?
言い間違え2回目の時に「これは多分、僕じゃないな」と確信し、つい一度席に座ってしまったではないか。まあなんてことはないのだけれど、それでもちょっと恥ずかしいじゃない……。
 
そんなことは当然口には出さないまま、中待合室に移動。ほどなくして診察室へ。いつもの薬を処方され、薬局で薬をもらい外に出る頃には空はもう夕焼け色に。
耳鼻科に入って実際に薬をもらうまで約2時間ほどかかった。久々にこんなに待ったよ。待ちくたびれたよ。

 そして、いつもは捗る読書もページ数こそ稼げたものの、終盤はしっかり読めた気がしない。こりゃ読み直しやな、うん。そう思いながら、とぼとぼと家に帰ったのだった。

 
……春なのに、なんて取るに足らない話をしてしまったんだ。
前々から「エッセイもだいぶ板についてきたし、今度の春にはエモーショナルで全米も涙するような文章を書くんや!」とうすぼんやり考えていたものの、現実は実に悲しい結果に終わりそうだ。

まあ、それもひっくるめていいじゃない!
……ちなみにこれは読者様の声ではなく、あろうことか自分自身で言っています。
読んでくれる人にいつかそんな風に言われるためにも、今後は読み応えのある文章を書き続けたいと思います。なので、もう少しだけ僕に時間をください。


そうだ、今までの話とはまったく関係のないことをひとつだけ。温かい読者の中に、この4月から新たな環境に身を置いている方がいらっしゃったら。
真新しい生活は不安もたくさんだけど、慣れてきたらどんどん楽しんでいけると思うので、どうか気負いなく。
僕は両隣に優しげな老夫婦に座られるだけでテンパってしまうけど、あなたは今まで通りのあなたでいてくださいね! 新生活に幸あれ!

皆さんから大事な大事なサポートをいただけた日にゃ、夜通し踊り狂ってしまいます🕺(冗談です。大切に文筆業に活かしたいと思います)