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『畜犬談』太宰治 「カラッと笑えるよ」と、爽やかに

このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語る設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『畜犬談ー伊馬鵜平君に与えるー』太宰治

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【太宰治の作品を語る上でのポイント】

①「太宰」と呼ぶ

②自分のことを書いていると言う

③笑いのセンスを指摘する

の3点です。

①に関して、どの分野でも通の人は名称を省略して呼びます。文学でもしかり。「太宰」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。

②に関しては、太宰治を好きな人が声を揃えて言う感想です。「俺は太宰治の生まれ変わりだ」とまで言っても良いです。

③に関しては、芸人で文筆家の又吉直樹さんが語る太宰治の像です。確かに太宰治の短編を読むとユーモアがあって素直に笑えます。


○以下会話

■太宰の面白い部分が出た小説

 「笑える小説か。そうだな、そしたら太宰治の『畜犬談』がオススメかな。『畜犬談』は、犬が嫌いな一人の男が主人公の短い物語なんだ。主人公が一生懸命犬を避ける行動をとると、その行動が裏目に出て逆に犬に好かれてしまうという話なんだよ。この小説は、太宰治の「面白いところ」が存分に出た小説で、笑って読める話なんだ。

■犬が嫌いなのに犬に好かれる男の物語

冒頭はこんな文章で始まるんだ。

私は、犬については自信がある。いつの日か、かならず喰くいつかれるであろうという自信である。私は、きっと噛かまれるにちがいない。自信があるのである。よくぞ、きょうまで喰いつかれもせず無事に過してきたものだと不思議な気さえしているのである。諸君、犬は猛獣である。

もうこの時点でちょっと笑っちゃうよね。犬に噛まれる自信ってどんな自信?「不思議な気さえしているのである」って、何をかしこまって訳わからないこと言ってるんだろうね。この「諸君、犬は猛獣である」と宣言する男が物語の主人公なんだ。

男がなぜ犬が嫌いなのかというと、男の友人が犬に噛まれてしまい、その治療が大変だったからなんだ。友人は犬に噛まれたら、狂犬病の疑いがあるから高い注射を何本も打たなくてはいけず、そのためにひもじい思いをしてるらしいんだよ。元来真面目な友人にこんな大変な思いをさせて、「青い焔ほのおが燃え上るほどの、思いつめたる憎悪」を犬に対して燃やしているんだよ。

この主人公の犬に対しての過剰な憎しみが面白いんだ。このまま、「人志松本の許せない話」に出てこの話をして、千原ジュニアに「お言葉ですけど、何をそんなビビッとんねん!」って言われて欲しい。

そんな主人公はある年の正月に、山梨の町外れに小さな部屋を借りて執筆活動をしたんだ。そして不運なことに、借りてる部屋の近所には、犬がたくさんいたんだ。「できることなら、すね当て、こて当て、かぶとを被って街を歩きた」いと思うほどだったんだ。

主人公はこの犬たちを避けるために、犬の心理を研究したんだよ。だけど言葉は通じないし、複雑に動くしっぽも捉え所がないし、どうしようもないから主人公は、

とにかく、犬に出逢うと、満面に微笑をたたえて、いささかも害心のないことを示すことにした。夜は、その微笑が見えないかもしれないから、無邪気に童謡を口ずさみ、やさしい人間であることを知らせようと努めた。

んだよ。面白い。

他にも、髪が長いと「怪しい人」と思われて吠えられるかもしれないから毎日ピッシリ髪を切って、ステッキを持ってると威嚇してると思われるからステッキもゴミ箱に捨てたんだ。そうして犬を避けるために行動してると、犬のご機嫌をとってることになって、逆にどんどん犬に懐かれるようになったんだよ。道を歩いていると、犬に好かれてしまって、

尾を振って、ぞろぞろ後ろについてくる。

ようになったんだよ。

外出する度に犬がついてくるようになったある日、一匹の黒い子犬が家の玄関まできてしまったんだよ。犬に好かれてからも、まだ犬を怖がってる主人公は、その黒い犬に噛まれないようにするために、お菓子をあげて水をあげて丁重にもてなして「軟弱外交」をしたんだ。すると黒い犬は居心地が良かったのか、住み着いてしまったんだよ。しょうがないから「ポチ」と呼ぶことにしたんだ。

ポチは主人公にしっかり懐いて、主人公が外に出ると後ろをついてきて、ご飯もよく食べて、洗濯物を噛みちぎる悪さもして健康に育っていくんだ。それでも主人公はまだ犬にビビってるから、家の中を泥だらけにした時は「こういう冗談はしないでおくれ。じつに、困るのだが。誰が君に、こんなことをしてくれとたのみましたか?」と言って、精一杯優しく、とげを出さないように言い聞かせるんだ。だけどポチはきょろりと目を動かして甘えるんだよ。

月日が経って、主人公は東京の三鷹に超良い家を見つけて、そこに引っ越すことにしたんだ。元来犬嫌いな主人公は、ポチを山梨に置いておくことにするんだよ。新居に住むことよりも、やっと犬から逃げられることに嬉しくなって引越しの日を待ち遠しく思っていたんだ。

■ポチを殺す

山梨での残り少ない日を過ごしていると、ポチが皮膚病にかかってしまい、悪臭を放つようになってしまったんだ。すると、主人公の妻は「ご近所に悪いわ。殺してください。」と言ったんだ。これまで主人公よりポチを可愛がっていた妻だったけど「男よりも冷酷で度胸がいい」側面を発揮して、すっぱりと言い放つんだよね。これまで散々犬のことを嫌っていた主人公だったけど、いざそれが現実味を帯びると躊躇して、「殺すのか」とぎょっとして言うんだよ。

それでもポチの皮膚病は悪くなるばかりだったから、とうとう主人公はポチを殺すことにするんだよ。近所の薬屋さんで薬品を買ってきて牛肉に詰めてポチに食べさせたんだ。ポチは何も知らずにムシャムシャと食べ尽くして、十分経っても、一時間たっても、なんの変化もなかったんだよ。

主人公は薬が効かなかったんだと悟って、「僕ら芸術家は、弱いものの味方のはずだ。ポチになんの罪もない。ポチを東京に連れて行こう。」と言って、この話は終わりなんだ。

■フリが効いてる

最期は感動しようと思えば感動できる部分だよね。だけどやっぱり「犬が嫌いなのに犬に好かれる」という構図が良い。小説では、もっと犬に対して過剰な憎悪が書かれてるから、フリが効いてて面白い。笑いのイロハを知ってる人の文章の書き方だよね。

もし太宰治に「暗くてとっつきにくい」イメージを持ってたら、この作品で印象が大分変わると思う。是非読んでみて。」


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