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『芸人と俳人』又吉直樹×堀本祐樹 「俳句のハードルが下がる」

このnoteは、本の内容をまだその本を読んでない人に対してカッコよく語っている設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『芸人と俳人』又吉直樹×堀本祐樹

【又吉直樹の作品を語る上でのポイント】

①言葉選びに注目する

②過剰なセンチメンタルさを指摘する

の2点です。

①に関して、又吉は『火花』が有名ですが、小説だけでなくエッセイ、俳句も書いています。その言葉選びが繊細で上手で、更に笑いの要素もあるので敵なしです。

②に関して、又吉さんの作品は、彼のセンチメンタルさが色濃く出てます。何をするにも人の目を過剰に意識して、人の目を意識する自分すら意識しているという、二重にも三重にもぐるぐるに巻かれた自意識から発される言葉が魅力的です。

○以下会話

■参考書ではない入門書

 「俳句が好きになれる本か。そうだな、そしたら又吉直樹と堀本祐樹の『芸人と俳人』がオススメかな。これは、芸人の又吉直樹が、俳人の堀本祐樹に弟子入りして、俳句を教えてもらう企画を書籍化したものなんだ。対談形式で進んでいく俳句の講義は2年間にも渡っていて、俳句初心者の又吉さんが複数人で俳句を詠み合う句会に参加するまで成長するんだ。それがぎゅっと凝縮されて書籍化されているから、読み応え抜群なんだよ。

又吉さんは芸人でありながら芥川賞作家だから、俳句を詠む素養も人よりはあるんだろうけど、講義が始まった最初は「俳句は創作のルールとか季語とか『上手いこと言わないといけない雰囲気』があるから何か怖い印象がある」と語るくらいで、僕ら素人と同じ目線で講義を受けていくんだよ。

この本を読んでいて「難しいな」と感じるところは又吉さんも「難しい」と言ってくれて、ひとつひとつ丁寧に俳句の詠み方を学べるんだ。一般的な参考書のような堅苦しい印象もないし、ちょっと俳句に興味がある人の俳句の入門書として最適なんだよ。

■又吉さんの立ち位置が良い

まずこの本の良いところは又吉さんが俳句に恐れを感じてるところなんだ。一般人からしたら、俳句ってなんだか難しくてよくわからなくて別に理解できなくても私生活に支障はない存在だよね。でも同時に、僕らが普段使ってる日本語が使われていて、無限の世界が広がっているらしい俳句を完全に無視することは、少しの寂しさがあるよね。

又吉さんもこの感覚をもっているんだ。「勝手なイメージですけど、俳句を作る人って、仙人の領域の存在みたいな気がするんです。言葉と体が完全にフィットしているでしょう」と言って、高尚な俳句に対して恐れを抱いてるところが共感できるんだ。ちょっとした興味は持ってるけど、変に積極的ではない姿勢が読んでいて安心できるんだよ。

この俳句の講義の聞き手役が又吉さんじゃなかったら、この本も途中でしんどくなってたと思う。この本は又吉さんが『火花』で芥川賞を受賞する前に出てる本なんだ。「俳句の本を作ろう」と企画して又吉さんに話を持っていった担当者の腕が光るよね。

■俳句とお笑い

又吉さんは意外にも一発ギャグをたくさん持っている、いわゆるギャガーなんだけど、芸人になりたての頃は一発ギャグが苦手だったらしいんだ。コントとか漫才とか自分の笑いを表現できる方法があるのに、ひと言で蹴りをつけなきゃいけない厳しい環境をわざわざ選ぶ一発ギャグをやる意味がわからなかったんだよ。物ボケにも同じ感覚を持っていたんだ。

だけど若手芸人には一発ギャグも物ボケもやる機会が山ほどあって、どうしようか悩んでいたんだよ。そんな時に俳句と出会って、一発ギャグや物ボケにも俳句の考え方が当てはまるんじゃないかって考えたんだ。つまり俳句は短い言葉で全ては語らずに自分の世界を見せて読み取ってもらうもので、その手法が一発ギャグや物ボケに使えるって考えたんだよね。

そこから又吉さんは「一発ギャグと物ボケでは、一切説明しないぞ」と吹っ切れて、物ボケだったら、その物を何かに見立てて状況を説明するのではなくて、その物と自分が属している世界の一部を切り取ってみせるというやり方を始めたんだ。

確かに又吉さんの一発ギャグは、他の芸人さんとは違うんだよね。5秒間くらい垂直にジャンプをし続けて「僕はおそらく、殺されるだろう」と言ったり、無表情で腕を上下に振りながら「国家にとってよからぬ思想を持っています」と言ったり、暗いけれど面白いんだよ。こうやって文字にしてしまったら折角の面白さも台無しなんだけどね。

■俳句はルールがあるから楽しい

俳句は自分の感性を言葉に表現する一種の芸術だから、音楽や絵画と同じ並びにあるけど、絵画や音楽と違って、俳句には文字数とか季語とか一定のルールがあるから、感じるままに楽しむことはできないんだ。そのルールがハードルとなって、「俳句は難しい」と感じてしまうよね。

でもルールがあるからこそ良いとも考えられるんだ。例えば、以前日本で開催されたラグビーW杯を観た時、「ルールが分かってたらもっと楽しめたのにな」って僕は思ったんだ。ルールを知ってたら、選手たちの駆け引きとか、何が起こっているかが的確に分かるよね。つまりスポーツでも俳句でも、独自のルールはそれを鑑賞するハードルにもなるけれど、理解できたら一層楽しむことができる頼もしい味方でもあるんだ。

それと同時にルールがあることでその競技に実際に参加しやすくなるよね。ルールにさえ則ってプレーをすれば、上手い下手は置いといて、その競技に参加して汗を流すことができるんだ。

つまり、音楽や絵画のように明確なルールがない(本当はあるのかもしれないけれど)自由奔放な芸術よりも、一定のルールがある俳句の方が、自分で詠むのも、人の俳句を鑑賞するのも、より一層楽しめると思うんだ。

俳句に少しでも興味があったら、この本がオススメだよ。この本を読み終わった時、俳句という閉ざされた世界が、自分に向かって開かれるよ。」

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