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CDジャケットの美学#7:pillows『GOOD DREAMS』

音楽に人生を救われた、と大げさじゃなく言える経験がありますか?

自分には、あります。

まあ、自分は基本的に感動を6割増くらい大げさに語る悪癖があるので、あまりあてにできないかもしれませんが……。

それでも、個人的感覚では間違いなく、音楽に救われてきた経験がわんさかあります。

バイトの面接に落ちたとき。

よせばいいのに元カノに振られたときの衝撃が突然ぶり返して、死にたくなったとき。

ゲームやりすぎて気づいたら明け方になってて自己嫌悪でこれまた死にたくなったとき……。

友達に余計なことを言ってしまって、自己嫌悪で以下同文。

そんなときは、クソみたいに爆音で音楽を聴いて、近所迷惑も考えずに(でも一応布団にくるまって精一杯の消音をしながら)好きな曲を聴いて歌います。

ときには、ボロボロ涙しながら。

男なんだから泣くな?ばかやろう、涙の数だけ強くなれるって昔の偉い人が言ってたぞ!たぶん。

さて、そんな窮地に(勝手に)陥った自分を何度も救ってくれた曲の一つで、間違いなく自分の人生の好きな曲ランキングトップ10には入るであろう曲があります。

これです。

もう……。歌詞以外の言葉で下手に汚せません。この曲の魅力は。

聴いてください。できればクソみたいな心持ちの時に。自己嫌悪で死にそうな時に。

もしかしたら、あなたの人生を救うかもしれない曲です。

この曲の作り主であるthe pillowsのことは、もう今さら語る必要もないくらい有名だし、自分よりマニアな人はいくらでもいるので、詳しく知りたいよーっていう人はWikiってください。

ミスチルやスピッツと同世代。そういうビッグネームの影で、着々とファンを作り上げてきたいぶし銀の巨匠(という自分の主観です)。

ていうか自分にとっては命の恩人。人生の師。とくに就活のとき死ぬほど聴いてました。ありがとうございます、おかげで自分も他人も社会もとりあえず嫌いにならずにすみました。

と、いうわけで。

今回は、そんな敬愛すべきthe pillows御大(以下ピロウズ)のアルバムジャケットの魅力を、たっぷり(当社比)分析していこうかと思います。

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アルバム情報(ざっくり)

※アルバム情報は、自分自身がアルバムについての理解を深めるための補助としてまとめているものであり、アルバムについての客観的かつ網羅的な情報を保証するものではありません。出典とかもかなり省略してます。念のため。

・アルバム名:GOOD DREAMS
・概要:the pillowsの12枚目のアルバム。
・発売日:2004年11月3日
・発売元:キングレコード
・ジャケットデザイン:TOMOVSKY

てな感じです。

しかし、12枚もアルバム出してみたいもんだなあ。

ジャケットイラストを描かれたTOMOVSKYさんは、ご自身ミュージシャンとして活動もされています。

自分の理想のイラストレーターの一人でもあります。

こんな優しさと切なさに溢れた絵、描いてみたいな。

forkとfolk

さっそくジャケットの絵を読み解いていきましょう。

まず真っ先に目が行くのは、太陽?月?の下にバリバリの存在感を出して浮かぶでっかいフォーク。

場所は砂漠でしょうか。殺風景な地平線が寂しさを醸し出しています。

そして、そのフォークの周りを取り巻く、たくさんの人々。

うーーん、まさに夢の世界を絵に書いたような、見ているとふわふわしたおかしな気分になってくる絵です。

自分、こういうシュールで切なげで、意味深な絵が大好きなんですよね。

さて、「フォークに群がる人々」はいったいなんの比喩でしょうか?

そもそも空に浮かぶフォークって……なんじゃい。フォークて。

フォーク、と群がる人々、という言葉から連想したものがあります。

もしかして、フォークの英語であるforkと、日本語だと同じ発音になる「民族、家族」という意味のfolkをかけているのだろうか?

だとすれば、この絵が意味するのは一つのアイデンティティでつながっているように見える民族とか家族とか、ひいては社会というもの(folk)は、じつは宙に浮かんだフォーク(fork)の影を見てそう勘違いしているだけなんだよ、バカみたい、という痛烈な皮肉とも取れるのかも。

この絵を作ったTOMOVSKYさんが、そんなことを考えて作ったかどうかはわからないし、たぶん違うと思いますが、そんな色々な「勘ぐり」ができてしまう、とても想像力を掻き立てるジャケットだと思います。

優しさ、切なさ、ユーモア、虚無。

シニカルだけど、温かい。そしてどことなく切ない。やるせない感じがする。

このジャケットをずっと見ていると、そんな気持ちになってきます。

そんなジャケット絵の絶妙な魅力が、ピロウズの曲づくりに通底する魅力にダイレクトにつながっていると思っています。

ピロウズの世界観って、簡潔に表すとしたら

「優しさ」「切なさ」「ユーモア」「虚無」が入り混じった感情。

だと思うんですよね。

それを理解してもらうには、実際に曲を聴いてもらうしかないと思うんですが、たとえばピロウズの代表曲、「ストレンジカメレオン」。

世間に馴染めずに卑屈になってしまった、でも限りなく優しい気持ちを秘めているモンスターの叫びを聴いているような気持ちになります。

あとは、MVが可愛くて大好きな「インスタントミュージック」とか。

ふざけているようだけど、痛烈な社会への皮肉と、それすら愛してしまうような包容力を感じます。

極めつけは、MVを見たら泣かずにはいられない「1989」。

別に無理やり曲作りに通底するものを探さなくてもいいとは思うんですが、でもやっぱり感じてしまう、ピロウズの切なくて優しい感情。

なんかね、ピロウズの音楽には、「ロックンロールしてやろうぜ!」「ぶちかましてやろうぜ!」みたいな熱だけじゃなくて(そういう部分もありますよ、もちろん)、人生の苦味とか虚無とか、それを味わった人にしか持てない優しさのようなものを感じるんですよね。

その、入り混じった感情が曲を通して自分とリンクした時に、もう途方も無い感動を得るんですよね。

もう涙ボロボロですよ。

1989のMV見て何回号泣したかわかりませんよ、ホント。

またね、映像やらアートワークやらキャラクターやらが可愛くて切なくて好き。

ピロウズには公式キャラクターとしてバスターくんっていうのがいるんですけど、その子がMVとかにもしょっちゅう登場するんです。

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ピロウズをとりまくすべての作品やキャラクターに命があって、彼らがピロウズの作り出した世界を駆け回って、泣いたり笑ったりする。

そういう物語を楽しめるのも、ピロウズの魅力だと思います。

このジャケットも、彼らの世界で息づく「どこかの誰か」が経験していることなんでしょうね。

CDという小説の表紙絵を見るワクワク

ああー、また好きなバンド紹介になってしまった……。

本筋に戻りましょう。

ジャケットイラストを描かれたTOMOVSKYさんは、これ以外にほかのピロウズ作品のイラストも何枚か手掛けているんですが、どれもイラストの奥の物語や意味を色々想像できる魅力が隠されています。

とくに『その未来は今』のジャケット絵が、途方もなく好き。

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こういう世界観を持った絵には、

「この絵の奥で、どんな物語が繰り広げられるんだろうか?」

という想像力を掻き立ててくれる刺激があります。

言うなれば、ピロウズが歌い上げる世界で繰り広げられる小説の表紙絵を見ているような、そんなワクワクする気持ちになります。

そう。

良いCDジャケットには「物語性」を感じます。

小説のように、絵の向こう、写真のむこうの世界で繰り広げられる物語を感じ取れるんです。

そう考えると、CD買うのってお得ですよねえ。

音楽買ったら、小説も一緒についてくるのと同じなんですから。

まあ、「良いCD、良いジャケット」であることが最低条件なんですけど。

何度も手に取りたくなるジャケット

良いCD、良いジャケットって一体なんでしょうね。

なにを良いと思うかは完全に個人的な感覚なので、別に定義する必要もないと思うんですが、個人的にはその一つの判断基準が「壁に飾れるかどうか」だと思うんですよ。

音楽だけを聴きたいなら、いまやストリーミングサービスでCD買うより圧倒的にコスパ良く聴けてしまうわけです。

そんな時代におけるCDの価値ってなによ、と言われたら、もう圧倒的に

「モノとしての価値」

ってところにあると思うんですよね。

ダウンロードした曲だけでは感情移入できない。自分だけのモノとしてCDを手元に置いておきたい。

そんな需要に応えるのが、これからのCDの役割だと思うんです。

面白いのは、そう考えるとジャケットの価値がこれまで以上に大きくなるということです。

だって、手元にいつまでも置いておくなら、手にとって見た時に眼福となるようなモノを買いたいじゃないですか。

つまり、ジャケットの美しさが直接CDの価値につながっていくわけです。

もはや、ポスターやイラスト集のような「曲と一緒に見て、より曲の世界観を深めてくれるようなビジュアル表現」がCDの代わりに販売される日も近いかもしれません。

あるいは、芸術作品としての完成度の高いLPなんかが物販の主流になっていくのかもしれません。

いずれにせよ、CDジャケットの役割や可能性は、もはやCDという枠を超えて今まで以上に面白い領域に入っていくのだと思います。

CDは衰退していくんじゃありません。新たな形に脱皮していくだけです。

ビバ・CDジャケット

「CDジャケットの美学」シリーズが、もう結構前から

「グラフィックデザインの勉強としてのCDジャケット研究」

というよりは、

「CDジャケットとそれにまつわるアーティストやその曲の魅力をとにかく言語化しておきたい。あわよくば一人でも多くの誰かに知ってもらいたい。」

というモチベーションに変わってきてます。

ていうかデザインの専門的な部分はまだまだ着眼点が少なくて、無理やり語ろうとすると薄っぺらくなってしまうんだもの。

それならまだ、自分の素直な感動や魅力を言語化したほうが価値あるだろう、と。

だろう、と!(いったい誰に主張しているんだ、自分は)

ということで開き直って、CDジャケットがきっかけになるものならなんだって喋ることにします。

ていうか書いてるうちに気づいてきたんですよね。

CDジャケット単体で話せることなんて、何もねえ。

CDジャケットをよくよく見ると、その裏にあるいろんな物語(曲やアーティストや社会情勢や見る人のバックグラウンドや……)につながっていることに気づくんです。

これ、ちょっとした感動もんですよ。

一枚の四角い絵から、なんと様々な物語が出てくることか。

だからCDジャケット研究はやめらんねえのです。

なので、今日も今日とてマイペースにCDジャケットを見続けるのでありました。

こんな自分でもサポートしていただけるなら、より質の高いイラストや文章などのコンテンツを作るためのインプットに当てさせていただきます。