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松本清張と吉永小百合のタブー 神聖にして侵すべからず

北九州市生まれの元新聞記者、前田岳郁さんという方が、北九州・若松を舞台にした映画「玄海つれづれ節」のことを、noteに書いていた。


吉永小百合主演、1986年の映画である。出目昌伸監督で、吉田兼好「徒然草」の一節を題材にしたオリジナル脚本。

わたしはその映画を見ていないのだが、地元愛と映画愛を感じる記事で、面白く読んだ。


わたしは、若松出身の作家・火野葦平にこだわって、このnoteにもいろいろ書いてきた。

前田氏の記事は、その火野葦平と、「玄海つれづれ節」の関連について触れていて、勉強になった。

映画は、随所で火野葦平へのオマージュをささげているという。

「へー、それなら見てみたい」と思った。



ただ、わたしの頭のなかで、いわゆる「認知的不協和」も生じた。

わたしは数日前に、「火野葦平と松本清張 「反共産党」と「親共産党」」という記事を書いた。


吉永小百合は、かつての松本清張に匹敵する「親共産党」の女優だ。

そして、火野葦平は「反共産党」であり、共産党から指弾された作家だ。

映画としては、興行的な理由から、地元作家・火野葦平に媚びなければならないとしても、吉永小百合の心中はどうだったのだろう、とちょっと考えてしまったのだ。


吉永小百合が、火野葦平原作の映画やドラマに出ているなら、そんなイデオロギーにはこだわらない人なのだと思うが、たぶん出ていない。

いっぽう、松本清張原作ドラマには出ている。1977年の「白い闇」、78年の「張込み」など。


映画の主演女優しかやらないイメージの吉永が、テレビドラマに出ること自体が異例のような気がする。



松本清張と吉永小百合は、どちらも共産党シンパというだけでなく、マスコミ界で一種の「神聖にして侵すべからず」になっている。

批判はタブーのようになっている。

とくに松本清張については、一般社会より、マスコミ界での人気のほうが高いのではないかと思う。

1980年代に高村薫が現れたとき、マスコミ内に「第二の松本清張か!」とある種の熱狂を呼んだのを覚えている。

松本清張の「暗黒史観」(渡部昇一)に影響を受けている記者や編集者は多いのだ。(それについては、また改めて書きたい)



吉永小百合のタブーについては、よく知られていると思う。

最近も、1月に発表された日本アカデミー賞で、吉永の主演女優賞ノミネートに批判があった。


「吉永の選出が忖度ではないかと指摘されていますね。吉永は映画に主演すれば、それがヒットしようがしまいが、評価が高かろうが低かろうが、その年はほぼ確定でアカデミー賞にノミネートされているのです」(芸能ライター)
ネット上では《この人のために最初から席1つ開けてるよね》《吉永さんをノミネートしないといけないルールがあるのかと思うほど毎回出てくる》《吉永小百合は映画出れば自動的に受賞できる》《いつまで続く吉永小百合接待賞》《無条件で賞やるのいい加減やめない?》《超絶忖度の賜物だよな》などと揶揄されています

(まいじつ 1月26日)


吉永は、今月発表されたブルーリボン賞でも主演女優賞を受賞している。


いっぽう、彼女の「平和」「9条護憲」運動もあいかわらず盛んだ。


吉永小百合の「業界人気」と、世間一般の評価とのズレは、以前から指摘されている。


「吉永小百合」「赤旗」で検索すると、いかに彼女が赤旗に頻繁に登場しているか、よくわかる。

それは映画動員のうえでも有利に働いているだろう。


わたしは、新藤兼人(1912‐2012)の晩年を思い出してしまった。

新藤兼人は100歳まで映画を撮り続けた。

かれも「反戦平和」「親共産党」の人で、その映画は、撮るたびに大絶賛されていた。

ちなみに、吉永小百合が「玄海つれづれ節」の翌年(1987年)に主演したのが、新藤兼人原作・脚本の「映画女優」である(監督は市川崑)。

晩年の車椅子の新藤兼人が、某賞の授賞式に出ているのをたまたま見たが、ほとんど「物体」と化していて、言葉は悪いが、車椅子が棺桶に見えた。


吉永小百合も、あんなふうになるのかもしれない。

新藤兼人が亡くなって、「新藤兼人平和映画祭」というのができ、吉永小百合もよく出演している。

吉永小百合が亡くなれば、たぶん「吉永小百合平和映画賞」ができて、護憲派の俳優に与えられるだろう。



話がそれてしまったが、「松本清張ドラマ」はいまも放送されているのに、火野葦平原作の映画やドラマは、久しくつくられていないと思う。

わたしとしては、以前も書いたが、名前が似ている火野正平主演で「花と龍」をつくってほしい。Vシネでもいいから。

それに吉永小百合が出てくれたら、わたしは彼女を見直したい。



<参考>



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