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【AmazonPrime】「山猫は眠らない9」 世代交代した長寿シリーズ 団塊サヨクからジュニア世代へ

<概要>

元スナイパーで新たにCIA職員となったブランドン・ベケット。ある悪徳連邦捜査官が性的人身取引組織に関わっていることを知った彼はCIAを離れ、かつて組んだ国土安全保障省の捜査官ゼロ、暗殺者のレディ・デスと協力し、堕落した捜査官の正体を暴き、犯罪組織を壊滅させようと動き出す。(Amazon公式サイトより)


<評価>団塊サヨクから遠く離れて


2022年製作、「山猫は眠らない(Sniper)」シリーズの第9弾。アマプラでタダで見られます。

前回の「山猫は眠らない8 暗殺者の終焉」が好評だったからだろう、主役のチャド・マイケル・コリンズ(ブランドン・ベケット役)に、ライアン・ロビンズ(ゼロ役)と秋元才加(レディ・デス役)が絡む、同じ構図だ。ただし、オリジナルの主役、トム・ベレンジャー(トーマス・ベケット役)はもう出ていない。

「8」はたしかに面白かった。「9」は、それには劣り、演出もアクションも間延びしているが、例によってのわかりやすいストーリーで、肩の力を抜いて楽しめる。なんといっても、秋元才加がかっこいいのがうれしい。


第1作の「山猫は眠らない」が公開されたのは1993年。

原題「Sniper」では日本人受けしないので、船戸与一の小説「山猫の夏」にちなんだ邦題がつけられたのは有名だ。

その邦題がよかったのだろう。当時は冒険小説ブーム最盛期で、「本の雑誌」の目黒孝二はじめ、冒険小説ファンがこぞってこの映画を褒めていた。

日本の冒険小説ブームは、新左翼運動に挫折した団塊世代の虚無感や倫理観をテーマにした、日本独特の文化だった。


もちろん、アメリカ映画「Sniper」と、日本の冒険小説ブームとは、本来、何の関係もない。

しかし、「Sniper」は、中南米(第三世界)で、組織のはぐれ者がストイックに自らの正義を貫くという、偶然ながら、船戸与一チックで、いかにも団塊サヨク向けの内容だったのだ。

だから、Sniper改め「山猫は眠らない」は、日本で独特な愛され方をした映画シリーズだと思う。

そのため、アメリカでは2作目以降は劇場公開されないビデオ用作品だが、日本では続編もたびたび劇場公開されている。


しかし、日本の冒険小説ブームも2000年代半ばに終息する。団塊世代が現役引退したからである。日本冒険作家クラブは2010年に解散した。

「山猫は眠らない」シリーズも同時期に変質する。2011年の「山猫は眠らない4」で、トム・ベレンジャー(1949年生まれ)の息子役として、チャド・マイケル・コリンズ(1979年生まれ)が登場し、次第に主役の座を奪っていく。

まさに団塊世代から、ジュニア世代への世代交代だった。

そして、上述のとおり、最新の「9」では、トム・ベレンジャーは完全に姿を消している。

第1作から30年で、完全世代交代した形だ。


チャド・マイケル・コリンズは、ほぼこのシリーズでしか主役を張ってない役者で、なんとも華のない人だなと思っていた。

とくに「7」までは、トム・ベレンジャーと同じ「タフ・ガイ」タイプのキャラクターをハードボイルドに演じて、個性がなく、つまらなかった。

しかし前作の「8」から、ちょっとコミカルな軽いキャラクターに変えてきた。

これが彼に合っていた。やっと「父親」の影響を脱し、自らの個性を発見したようだ。

その分、ハードボイルドなオリジナルの雰囲気は後退した。


本作「9」は、チャド、ライアン・ロビンズ、秋元才加の3人組による、「ミッション・インポッシブル」的な国際諜報ものに近くなっている。

ちなみに、本家「ミッション・インポッシブル」に副題「ローグ・ネイション」という作品があったが、本作の副題は「ローグ・ミッション」である・・・。

「スナイパー」本来の世界は、孤独なヒーロー像だが、今後は「チーム」の活躍メインなのだろう。その意味でも、団塊サヨク的世界観から遠く離れていく。

何というか、あまり華のない「ミッション・インポッシブル」的シリーズとして、これから続いていくのかもしれない。それはそれで、まただらだらと楽しませてほしい。

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