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大作曲家「吉松隆」をどうする!

日本人は「吉松隆」をどうする!

と、田原総一朗おじいちゃんみたいに、朝まで迫りたいわけですよ。

どうすると言われても・・とほとんどの国民は困惑するだろうが。


少し前、私は日本の音楽界の将来を憂いて、「作曲家を育てないとクラシック音楽に希望はない」というのを書いた。


その中で、


日本で、日本の「ジョン・アダムズ」的な存在を、業界をあげて作り出し、盛り立てていかなければならないはずだ。
そういう試みがなかったわけではないだろう。「佐村河内守」や「久石譲」がそうだったのかもしれない(?)。だが、いずれにしても成功しているとは言えない。


とか、生意気なことを言ったわけです。

そのとき「佐村河内」とか「久石」しか、頭に浮かばなかったのですが、

「そういえば、日本にはヨシマツがいた」

と、きのう、思い直したのです。


アメリカの「ジョン・アダムズ」に、日本で立ち位置的に近いのは、吉松隆かもしれない。

wikipedia「吉松隆」にある、


シェーンベルク、シュトックハウゼンやクセナキスなど、メロディや和音を否定した無調音楽を中心とする現代音楽の非音楽的傾向に反旗をひるがえし、「現代音楽撲滅運動」と「世紀末抒情主義」を提唱。


といったあたりが、ジョン・アダムズ世代の特徴・作風と同じです。



海外で広がる評価


私が吉松を思い出したきっかけは、米国のクラシック評論家、デイヴィッド・ハーウィッツが、最近たてつづけに吉松隆のCDをレビューしていたのを聞いたことでした。


ヨシマツの野心的な「鳥」シリーズ出発点「カムイチカプ交響曲」:原田慶太楼指揮、東京交響楽団のデンオン盤レビュー(クラシック音楽評論家: David Hurwitz 10月20日)

(大意)吉松はメシアンや武満と同じ「鳥」にとりつかれた作曲家。「カムイチカプ」(アイヌ語の神鳥)という名の、この交響曲第一番は多様式主義(ポリスタイリズム)で書かれ、中央のスケルツォの前後にスローな楽章を置く5楽章のアーチ構造である。「火」をあらわすスケルツォはオーケストラが狂乱して本当に素晴らしい。1、2楽章は「地」と「水」。長大なクレッシェンドを築き、最後は消えるように去る。シベリウスのタピオラを思わせる云々 「虹」をあらわす終楽章は愛らしく静謐で実に興味深い作品だ。原田慶太楼と東京交響楽団の演奏も上出来でデンオンの録音も素晴らしい。この交響曲第一番は、のちのより個性的な作品とくらべると折衷的で未熟を残すが、吉松入門としてお勧めしたい。原田が振る別の曲も聞きたいと思う。


素晴らしいヨシマツの3番と「タルカス」:原田慶太楼指揮、東京交響楽団のデンオン盤レビュー(10月15日)

(大意)吉松はポップミュージックが好きで、シャンドスでも「アトムハーツクラブ組曲」があったが、ここにはELPの「タルカス」が入っている。吉松のスタイルは拡大されたミニマリズム。繰り返しとオスティナートはポップミュージックと共通だ。無調やジャズをとてもうまく融合させている。交響曲第3番は大作で、とてもとても楽しめる。楽しい要素に満ちているのだ云々


イザイ、ヨシマツなどのレビュー
(6月21日)*シャンドスの吉松隆シリーズを取り上げ「あまり注目されてないのがけしからん」と怒っている


デイブは、

「小澤征爾が過小評価されている!」

と怒り、

「朝比奈隆が過大評価されている!」

と怒っていた。

公平で明快、かつ業界目線ではなく購買者目線を貫くので、私はむかしから彼の鑑識眼、というか鑑識耳を信頼してるんですね。

その彼は、以前から吉松を取り上げていた。ファンらしい。


彼だけが取り上げている、というだけなら大したことないけど、動画へのコメントを見ると、海外にそれなりの数の吉松ファンがいるのがうかがえます。


カムイチカプ交響曲(交響曲第一番)のレビューにたいしては――


私はこの鳥シンフォニーが好き。美しく、楽しく、そのうえ深遠で、わざとらしくない。
I really enjoyed this Bird Symphony. It was beautiful and fun, and still substantial and not gimmicky.

この曲は私のお気に入り。吉松の交響曲は、5番を除いて全部好きだけどね(5番は残念な出来)。吉松は私の大好きな作曲家だから、アメリカでもっと知られてほしい。
This is my favorite Yoshimatsu symphony, although I love all but the 5th (the recording is just atrocious). One of my favorite composers, wish he was more well known in the States.


交響曲3番/タルカスのレビューにたいしてはーー


私は吉松の大ファンだ。シャンドス盤は全部持っているし、カメラータ盤もデンオン盤も持っている。
I'm a huge fan of Yoshimatsu -- I have all the Chandos releases, a couple on Camerata, and one on a Denon import.

私は彼の交響曲4、5、6番が好きだけど、デンオン盤が廃盤のようで残念。
I love his symphonies 4 and 5. Symphony 6 is also released on the Denon label but it seems that it is out of print and that is unlucky, it’s the only recording of it.



日本での吉松の認知


いっぽう、日本で、吉松隆はどのように扱われているだろう。

もちろん、有名だし、評価もされている。

だけど、日本の音楽界は、「佐村河内」や「久石」ほども、彼を推したことがあるのか、と疑問に思う。

同世代の盟友で、亡くなった西村朗とくらべても、扱いが軽かった気がする。

そして、どこかの時点で文句なく「売れた」、ブレイクした、という印象もない。


最近は、YouTubeのクラシック有名チャンネルに登場し、それなりの視聴回数をかせいでいた。人気はあるのだと思う。


【保存版】作曲家・吉松隆が語るクラシックの魅力と作曲家になった経緯/名曲 カムイチカプ交響曲・サイバーバード協奏曲・鳥は静かに・プレイアデス舞曲集・タルカス等(厳選クラシックちゃんねる / Classical Music Guide 2月10日)


でも、なんというか、「保守本流」に好かれてないっぽい。


これは、かつての村上春樹を連想させる。

国内では芥川賞をとれなかった村上は、海外で評価を上げて、いまやノーベル賞候補の常連にまでなった。

でも、同年代で、先に芥川賞をとり、芥川賞選考委員になった創価学会作家の宮本輝は、絶対に村上を評価しなかった。

一般読者には好かれていたが、長らく村上は日本の文壇本流からハブられていた。


あるいは、日本に居場所がなかった小澤征爾の例もある。


吉松自身、上のYouTubeのインタビューで、

「40年間、作曲家をやってきて、書いた曲で賞を貰ったり、肩書が付いたものって、1個もないのね。なんか、やっぱりそうとう恨まれているのかな、と。独学で好き勝手やってるからね」


と言っている(動画9:00あたり)。

やっぱり、吉松のキャリア(芸大卒ではなく慶応中退とか)が、「本流」からはずれるからだろうか。

芸大卒で尾高賞をとった西村とはちがって、差別されたのだろうか。

楽壇のボス、日本音楽コンクール筋とか、吉田秀和賞受賞者近辺とか、その方面の「子分」にならず、ゴマをすらず、独立しているからだろうか。


吉松の現状


最近、吉松があまり話題にならないのは、新作発表が2015年の「Bird Step」(作品番号116)で止まっており、年譜によれば2018年、65歳で「母の介護」のため引きこもったこともある。


それでも、上のようにインタビューに応じているし、ホームページには最近の日常を記していて、世間から引退したわけではないだろう。

ただ、最近の文章を読んで、彼もすっかり丸くなったなあ、という気はする。

むかしは、もう少し既成楽壇に攻撃的な文章を書いていて、私は好きだった。

「内田光子と吉松隆は、口を開かなければ日本でもっと評価される」

みたいな声も聞いた気がする。誰かの「子分」ではないから、業界的な忖度をしない。まあ、それでさらに「恨まれた」のかもしれない。

そういえば、吉松隆って、田部京子と結婚したんじゃなかったっけ・・なんかそう思い込んでたけど、ネットで検索しても出てこなかった。


「竹」の次は「松」


海外での評価の広がりを記したが、それでも、たとえばサイモン・ラトルが取り上げるとか、そういうところまではいっていない。

日本人指揮者でも、藤岡幸夫とか、原田慶太楼とか、好んで振る指揮者は限られている気がする。

上のハーウィッツが取り上げている新譜、原田が指揮した「タルカス/交響曲3番」盤も、日本でどれほど話題になっただろうか。


原田慶太楼指揮「タルカス」


ハーウィッツみたいな情熱で、吉松を世界に売り込む日本人評論家もいなさそうだ。


でも、そうしているうちに、村上春樹みたいに外国でメキメキ売れてきたらどうするのだろう。

日本人、面目丸つぶれではなかろうか。

いまのうちに、日本人は吉松をなんとかすべきではないか。

村上春樹より若いとはいえ、吉松ももう70歳だ。顔は80歳の宮崎駿と見分けがつかなくなっている。

「武満」のあとの、世界的な日本人コンポーザーとして、国をあげて「吉松」を推そう。

「竹」のあとは「松」ということで。

おそ松さまでした・・


余談


で、私自身は吉松隆の音楽をどう思っているかだが。

私がどう思ってるかなんか、関係ないでしょう。

まあ、「サイバーバード協奏曲」は好きで音盤を買ったけど、それ以外は・・あんまり知らない。

プログレ好きとして、「タルカス」は期待して聴いたけど、もうひとつかな・・。

面白いし、心地いいけど・・。

なにより、あのメンヘラというか、オタクというか、メルヘンちっくな曲名が嫌いでさあ。

「朱鷺によせる哀歌」とか、「天馬効果」とか、「プレイアデス舞曲集」とか。ライトノベルかっ!と思う。日本語センスが恥ずかしくて、感性的に耐えられない。

でも、それは私が日本人だからで、外国語に訳すとエキゾチックでいいのかもしれないな。

この機会にもう少し聴いてみようと思う。

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