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蝉のいるとこ

夏になりたてな日のはずなのに、
梅雨の名残なんて微塵も感じさせない
真っ青な空が広がる。

正午の暑さに対する苛立ちを
一蹴されているようだ。

ぬるいと涼しいの間よりかは
ぬるめ寄りの風を作って
自転車を走らせる。

風がほほを撫でる感覚はよくわからないが
頬骨と目の回りに
風を受けているのは感じる。

1日の中で1番暑い時間帯に
外にいる理由は簡単で、
お昼を外食にしていたから。

せっかくの休日だからと
家から2キロ弱離れたラーメン屋まで
自転車を走らせたのだ。

食べ過ぎたかなと思いながら
家路につく。

車の行き交いが多い大通りから道をはずれ
スマホのナビが示すままに
住宅地をぬって走る。

時折くぐる
青々とした密集木々は
蝉の合唱と木漏れ日をくれる。

音と明暗の変化が
暑いなとしか感じていなかった頭に
単発の街路樹ではない木々のある場所の存在を
認識させる。

こんなとこに公園あるんだ。

自分の家の近くでは
そんなに蝉が五月蠅くないのに
いるとこには集まっているんだな、と
ぼんやり思う。

家に着くと
駐輪場に蝉が落ちていた。
脚が開いているので、ほやほやの瀕死だ。

もしかしたら
蝉たちは緑の多いさっきの公園のような場所で
集まって恋を成就させ、

役目を終えたら
(もしくは未達成でも死期が近付いたら)
仲間の目の届かない場所を
最期に目指すのかもしれない。

それとも検討違いな場所で婚活をした
なれの果てなのか。

どっちにしろ死ぬなら
こんな駐輪場のコンクリの上じゃなくて
分解される土の上にしてほしい。

いきなり動いたら嫌だなと思いながら
避けて通り過ぎる。

次の日、脚は閉じていたが
土のあるとこまで移動させる気には
ならなかった。

まだなりたての夏は
あと何匹の
落ちた蝉を見せるのだろうか。

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