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「人って変わらないじゃないですか」といった女子高生に「人って変わるよ」と言いたい

1か月ほど前にホームパーティがあり、たくさんの家族が家に来ました。その中に、息子と赤ちゃんの頃からの幼馴染の女の子がいました。今はもう高校生です。

パーティーが本格的に始まる前、キッチンで私が料理をしていると、突然女の子が話しかけてきました。

高校で友人関係のトラブルがあり、そのことについて誰かに聞いてほしかったんだと思います。そこから30分ぐらい自分の高校生活の悩みを話し始めました。

信じていた友人の裏切り、謝罪の末、一度は許したもののまた同じことを繰り返すクラスメイト、なんとか事態を収めたくて、被害者である本人に我慢を強要する大人たち・・・など、いろいろなことを話してくれました。その中で、その女の子が話した言葉が自分の中にすごく引っ掛かりました。

「人って変わらないじゃないですか」

この言葉は、女の子が一度は信じてみようと思った人たちが、また自分のことを裏切ったことに対して、なんとか「自分を納得させよう」、「自分の中で消化しよう」と思って出てきた言葉だと思います。

その時の私は「人って変わると思うけどなあ」と言いたかったものの、その女の子が言った言葉を否定せず受け止めないと、と思い、その言葉をぐっと我慢しました。

その後パーティーが始まったので、話はそこで終わりましたが、この女の子が言った「人って変わらないじゃないですか」という言葉が、私の心の中にずっと引っかかっていました。

その時、その場面、では変わることはできないかもしれないけど、反省を繰り返しながら、いつか人は良い方向に変わると信じて過ごしていきたい、人を信じて生きていきたい。その方がよい人生を送ることができると思う、ということを、その女の子に伝えられればと思っていました。



さて、先日今年度の授業がすべて終わりました。中学3年生を担当していましたが、中学2年生を1クラスだけ担当していましたので、卒業式から修了式までの2週間、その授業だけが楽しみでした。

教科書はすべて終わっていたので、1年間のまとめの活動として、自分が行きたい、紹介したい世界遺産を一つ選び、英語で紹介するという活動を行いました。完成した英文はALTに直しを入れてもらい、Padletに打ち込み、お互いに読みあって、良い作品には「いいね」を押してもらうという活動です。ある事情で、他の2年生のクラスも2週間教えることになったので、そのクラスの生徒に、このPadletに打ち込んだ世界遺産の紹介英文を読んでもらい、「いいね」を押してもらったり、なぜ「いいね」を押したのかコメントを書いてもらったりしました。

生徒が作った世界遺産マップです

ある男子生徒がいます。ちょっと特質をもった生徒で、全体に伝えた指示を自分のことだと捉えることや字を書くことが苦手だったり、授業中によく寝たりします。英語の授業は言語活動が多いので比較的寝ませんが、他教科ではよく寝る噂を聞きます。

周りも、しょうがねえやつだなあ、勉強できないやつだなあという認識です。

しかし、この男の子、この世界遺産を紹介する活動になぜか意欲を持って取り組み始めます。何がスイッチを入れたのか分かりません。ある世界遺産を取り上げ、なぜそれが素晴らしいのか、問題点は何か、行きたいという自分の思いを50語近くの英文で書き上げました。

他のクラスにPadletに打ち込まれた作文を読ませたとき、意外だなあ、すごいなあと感嘆の声が上がったのが、その男子生徒の作文でした。もちろん英語ができないという生徒というハードルの低い状態から英文を読んだせいもあるでしょうが、英文として何か人を引き付けるものがあったのでしょう。「いいね」獲得数第2位という結果でした。

最後の授業で、その生徒が自分の世界遺産の紹介英文が「いいね」獲得数2位だということを知らされたとき、思わずガッツポーズが出ました。周りの生徒も「すげえなあ」「やったじゃん」と声を掛けていました。

周りの生徒はこう思ったでしょう。「人って変わるんだな」




英語の授業の目的は何でしょうか。英語ができることなのでしょうか。もちろんそういった実利的な目的もあるでしょう。しかし、私は英語の授業の目的は自己実現や承認欲求を満たすことにもあると思います。自分のことを知ってほしい、自分がこれを好きだということを知ってほしい、自分自身のことを知りたいという欲求は誰にでもあります。英語はその欲求を満たすのに適した教科だと考えています。

この男子中学生にとって、この世界遺産を紹介する活動は、自分の好きなものを周りの生徒に知ってほしいという欲求を満たすものだったのでしょう。だからこそ男の子はこんなにもこの活動に夢中になったのだと思います。

そして、この男の子は周りの生徒の考え方もちょっとだけ変えたかもしれません。「人って変われる」と。

児童・生徒・学生にとって、「授業」という時間は、人生においてそれなりの割合を占めます。その授業で「人って変われる」「人って素晴らしい」という経験をさせること、「だらしない、できないと思ってたやつが、実は環境が整えば、才能を発揮することが往々にしてある」と気付かせることが、これからの人生にどれぐらい役に立つかは想像に難くありません。



前述した女の子がこういう瞬間にもっともっと立ち合えていたら、「人って変わらないじゃないですか」と言わなかったかもしれないなあ・・・と、職員室で異動のための片づけ作業をしながら考えていました。


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