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気になる子

中学校の教員をしていて、気になる子が毎年何人かいます。悪い意味ではなく、「この子、面白いなあ」という子です。

自分が受け持った部活動の中に一人そういう生徒がいました。

学習がとにかく苦手です。授業を受けている様子を見ると、作業が遅く、みんながすでに終わっていることを一生懸命やっていて、その作業が終わったころにはすでに別の活動が始まっている・・・。また覚えることも苦手で、基礎学力を高めるために行っている漢字テスト・計算テスト・英単語テストなどのテストでは合格できずに再テスト・再々テストを受けていました。

授業では教師からの問いかけに答えられず場面緘黙の状態になります。学習の様子を見るためにノートやプリントを見せてもらいたくても、かくして見せようとしません。間違いを指摘されるのが恥ずかしいのかもしれません。できないことで自分の自尊心が傷つけられ、おなかが痛いので保健室に行くということもありました。再テストのために居残り学習をしてきて、部活動に遅れてきたときも、「どうして遅れたの?」と聞いても、黙ったままです。

すごく表情の暗い子だなあというのが最初の印象です。

何らかの特性をもっているため、とにかく学習を苦手としており、そのために2次障害(場面緘黙や体調不良)を引き起こしている様子でした。学年の先生方も「どうしたらいいだろうなあ」「どう関わっていけばいいだろうな」と支援の方法を考えあぐねているようでした。

あまり運動神経が良い方とは言えず、部活動でも力をなかなか発揮できず、劣等感をもっていました。


しかし、秋ぐらいから部活動で変化が現れました。自分が担当している部活動は卓球なのですが、このスポーツはバスケットボールや野球などと違い、運動神経がなくてもある程度上手になれるスポーツだと思います。体育で1や2の生徒が県で活躍できる選手になることもあるスポーツです。ある程度の反射神経があれば大丈夫です。上記の「面白い生徒」も運動が苦手な生徒でしたが、あるところで何かコツのようなものをつかんだのでしょう。校内リーグでぽつぽつ勝ち始めます。そうすると面白くなってきて、1年生の中では一番になりたいと考え、自分でYouTubeを見て研究をしたり、監督の先生にどうやったらいいですかと自分から質問しに来たりすることを始めました。

自分で目標を決め、どんなことを頑張ったらよいか周りにアドバイスを求めたり、自分で研究し始め、努力を始めたわけです。学級担任の先生から、「あの子、私との交換日記の中で、『いま、〇〇という技術を身に付けるためにYouTubeを見て研究しています!』って書いてたんですよ!」と教えてもらうこともありました。それだけ努力するわけですから、校内リーグで負けると、とても落ち込みます。そして、また決意を新たに頑張るわけです。

この生徒は変わり始めました。長かった髪をバッサリ切り、ショートヘアになり運動しやすい髪形になりました。勉強は相変わらずできませんし、場面緘黙は何度かありますが、できなかったことを笑って受け止められるようになりました。「今日部活動なんで遅くなったの?」と尋ねても、「今日再テストだったんですよ~」と笑って答えられるようになっていました。

ついにその生徒は同じ学年の校内リーグで、経験者を除いて1位になることができました。その時のうれしそうな顔は忘れることができません。短期間で人ってこんなに変われるのだなあと驚いたものです。



「自分は授業で同じようなことを経験させることができているだろうか」と、その生徒を思い出すたびに、考えさせられます。

その生徒は自分で目標を設定し、その目標を達成するために何をするべきか自分なりに考えたり、他の人の意見を参考にして、その活動を振り返り、自分は「上手になったのか」ということを絶えず振り返ったからこそ、校内リーグで上位になったわけです。そして、それがその子の授業態度や生活にもよい変化をもたらしたのです。

まさに、自由進度学習を自分で進め、自己調整力を発揮した例なのだと思います。

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