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【グレイテスト・ショーマン】人類の祝宴から学ぶミュージカル映画の楽しみ方

 心が揺さぶられる音楽、様々な差別や他人と違う扱いを受けてきたユニークな人たちが主人公に見出され世界を震わせる!!靴屋の息子から発想一つで成り上がったショーマンが魅せる一流でなくとも世界で最高のショー。

※この投稿にはグレイテスト・ショーマンのネタバレを含みます。

 思い出すのは中学2年生、初めて出来た彼女との初デートでなんとなくで向かった映画館。何を見たかったわけでもないので洋画はかっこいいと思って提案したラ・ラ・ランド、いきなり歌って踊り出す登場人物達に全く感情移入することができず、その度に映画への集中が途切れストーリーが良く理解できなかった。挙句上映後彼女に「良く分からんかった…」と言った情けない青い黒歴史。

 「いや、大事な場面だから今は歌うなよ。」懐かしの黒歴史に限らずディズニー映画やそれ以外のミュージカル映画でも歌を日常で歌わない場所で歌いだす作品が苦手だった。映画やアニメを見る時はいつもストーリーに感情移入して見ている。ただ理外の場面で歌い出す展開の度に自分がのめり込んで見ていた映画はモニターに光を映し、音が流れているだけの映像作品になる。正直にいってミュージカル映画に楽しい記憶や面白いものというイメージはなかった。

 僕は今、名作と言われるような作品達を見ている、それらは全てが超面白い映画というわけでもなかったがそれぞれの映画に名作たる所以があった。グレイテスト・ショーマンにはどんな魅力があるのだろうか、曲が有名だということは知っていた、名作だと言われているのを知っていた、そしてラ・ラ・ランドの制作陣が作っているということも知っていた、自分にとってこの作品を見るのは自分の苦手分野と向き合うことだと思っていた。

 テレビに有線のヘッドホンを繋いで映画を開始する。最初から、最初からだった。最初の「the greatest show」が流れた時点でミュージカル映画への忌避感は無くなっていた。良すぎたのだ、音楽が。開幕の一曲目、最初の1分弱、たったそれだけの時間で音楽に心が掴まれてしまった。全部で5.6曲くらいあっただろうか曲が全て良かった、しかしそれ以上に考えるでも人に教えてもらうでもなくミュージカル映画の楽しみ方を理解出来てしまった。分からされてしまった、圧倒的な音楽性と音楽にマッチしたストーリー、そして迫力のある演出や演技に。

  ミュージカル映画は音楽が主役だったのだ、派手な映像も迫力ある演技も心揺さぶるストーリーもその全てが音楽を際立たせるための飾りなのだと。いや、映像、演出、演技、ストーリーその全てが素晴らしい音楽の要素の一つなのだと理解させられる。今まで歌は一曲一曲が完結しているものだと思っていた、しかしグレイテスト・ショーマンは音楽のさらに先にある素晴らしさを魅せてくれた、教えてくれた。

 世の中に生きづらさを覚える人とは違うユニークな人たち、人目を避け隠れるように生きてきた彼らがショーの主役としてメインを飾る。生きづらさというものは大なり小なりそれぞれにあるものだろう、しかしショーでは生きづらさを抱えていようと自分に誇りを持って主役として己を魅せる。流れていた曲は「come alive」洋楽だったから歌詞の内容は字幕からしか分からなかった、しかしそんなことはどうでも良かった、音楽が、映像が、曲の字幕が、演出が、俳優さん達の演技がそれぞれに相乗効果を持って心を揺さぶる。涙が止まらなかった。クライマックスでもないストーリー中盤で、泣くようなシーンではなかった、悲しいシーンでもなかった、しかし感情が動いてしまった、この素晴らしい映画に心を動かされてしまったのだ。

 音楽には心を動かす力がある、僕は洋楽こそあまり聞かないしpopsも聞かないが歌はよく聞く。音楽に心を動かす力があることはわかっていた、しかしミュージカル映画は凄い。音楽だけで心を揺さぶりにこない、演出家が、作家が、役者が、監督が、映画に関わる全ての人が音楽をより良くするためにベストを尽くす、音楽の力がより大きくなる。作中に心が動くのはいうまでもない、しかし映画を観た後も曲を聞くだけで映画の感動を思い出せてしまうのだ。ミュージカルに苦手意識を持っている人は多いのではないだろうか、もしミュージカル映画が苦手なら曲を楽しむためにグレイテスト・ショーマンを見て欲しい、きっと今までには苦手だったことなど忘れて最高の時間が過ごせるだろう。

 本編終わり

 ここからはストーリーについて、というよりもジェニーリンドという天才オペラ歌手を中心に考えた映画のストーリーを見ていく。ジェニーリンドと主人公は真逆だった。どちらが正しいともどちらが間違っているともなく、2人とも破滅した。

 シーンは一流の客を取り入れるために訪れたイギリス王女への謁見の場面。綺麗で派手で美しいドレスを纏っていながらもそれに負けない美貌やオーラ、佇まい、上品さを持っている一目で分かる本物のオペラ歌手、あまりの美しさあるいはその魅力に僕は目を奪われた、あるいは心を奪われた。その後のシーンもついジェニーリンドが映っていると目で追ってしまう始末だった。

 だからこそ最後は悲しいエンディングだった。欧州で一番のオペラ歌手にして数々の一流階級から認められてきた本物のオペラ歌手。NYで物珍しさで勝負していて一流階級からはバカにもされて育ってきた、そして今もペテンとバカにされている主人公にとってジェニーリンドはあまりにも自分が望んだ成功へのキーマンだったのだろう。そして婚外子として生まれどれだけの一流達に認められ満杯の拍手を受けても心が満たされない、居場所がどこにもないような気がしていたジェニーにとって自分を必要として居場所を作り続けてくれた主人公は自分が待ち望んでいた人だったのだろう。

 しかし1人はショーの成功だけを求めている、1人は愛を求めている、妻子持ちの男に。2人に与えられた選択肢は泥沼の成功か全てを投げ捨てた破滅かしかなかった。そして最後にはジェニーリンドは自分に居場所をくれた人も天才オペラ歌手としての地位も全てを失った。ジェニーリンドはただ主人公に大切にして欲しいだけだった、しかし悲しきかな主人公のその枠は最初から既にずっと埋まっていた。

 では何故ジェニーリンドだけが全てを失ったのであろうか?私が思うにジェニーリンドは最後の最後まで自分を誇ることが出来なかった、ステージに立てば常に空っぽの満杯の拍手を受けていたからだろうか、婚外子で家庭に居場所がなかったからだろうか、主人公に成り上がりのキーマンとしての役割しか与えられなかったからだろうか。
少なくとも作中に才能に溢れた天才オペラ歌手をありのままに愛してくれる人は誰もいなかった。「大事なのは仲間や家族、そして自分に、自分の仕事に誇りを持つことだ」というテーマの映画の中で、ジェニーリンドには仲間がいなかったそして家庭にも居場所がなかった。そしてジェニーリンドはグレイテスト・ショーマンを最高の映画とするための供物として全てを失った。

 誰が悪いということでもなかった、強いていうのであればジェニーリンドを自分が成り上がるための駒としてしか大切に出来なかった主人公が、人から大切にされたかったから人の大切なものを壊そうとしたジェニーリンドが、お互いに初めて求めていたものが手に入っていることに少し盲目的に酔っていたのだろう。しかしジェニーリンドというキャラクターはグレイテスト・ショーマンのテーマを際立たせた、残酷にも映画の最も大事な役割を果たした美しい天才こそこの映画のストーリーにおける最重要人物なのではないかと思っている。

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