スクリーンショット_2018-09-05_21

BC33「今は『未来の夜明け前』、浦沢直樹と小室哲哉が語る『21世紀のオトナたち』」

2015年の2月にOAしたTBSテレビ『オトナの!』のゲストでお越しいただいたのは、音楽プロデューサーの小室哲哉さんと漫画家の浦沢直樹さん。

この二人の共演と、そしてそこで話された『20世紀少年』にまつわるお話があまりにも衝撃的でニュースになったほどでした。今回はそんな二人の出演時のお話です。
最初にそのニュースの記事から。これは第1夜の放送翌日マイナビニュースであがった記事で、その後各社に配信されました。目にした方も多いのではないでしょうか?

****************************************
小室哲哉と『20世紀少年』の驚きの関係が明らかに -「すげぇ!!」と反響

音楽プロデューサーの小室哲哉と漫画家の浦沢直樹が、11日深夜に放送されたTBS系トーク番組『オトナの!』(毎週水曜25:46~26:16)で共演し、浦沢の代表作『20世紀少年』の秘話を明かした。
「ふわ~って変な気持ちになる。自分のことが書いてある」。『20世紀少年』を読むとそんな感覚に陥ったという小室は、妻・KEIKOの助言もあり、浦沢に熱烈なファンレターを送ってその思いを告白。その返事で、小室と浦沢は同じ第四中学校出身で浦沢は1つ下の後輩だという事実を、浦沢から教えられたという。『20世紀少年』は「府中のあの頃の世界観を書いた」と浦沢が語る、まさにその同じ空間に、小室もいたのだ。
手紙のやりとりの直後に食事会を開催し、『20世紀少年』話で盛り上がったという2人。第1巻の冒頭で、主人公がお昼の時間に、放送部の人に頼んでT.REXの「20th Century Boy」を流す場面があるが、これは浦沢の実話で、小室が在籍していた放送部にお願いしてかけてもらったという。「これをかけたらえらいことになるぞ!」と怒られる覚悟の浦沢だったが、予想は外れ周囲は無反応。「何も起きなかった、革命にはならなかった」という漫画の展開は、実話だったのだ。
また、昼の放送をきっかけに、井上陽水のアルバム『陽水II センチメンタル』を買ったという浦沢だが、それを流していたのは小室だったという事実も食事会で明らかに。さらに浦沢は、小室が語った大金持ちでレコードを買いまくっていた中学時代の友人とのエピソードも披露。「『府中第四中学校でT.REXを理解しているのは俺と小室くらいだよな。でもさ、今日昼休みにT.REXかかったよな。あれだれがかけたんだろう』って言いながら放課後帰ったのを思い出したって(小室が)言ったんですよ。あれ、浦沢君がかけた日だって」。
「これすごい話じゃないです?」と大興奮の浦沢は、「そんな感じの話をTwitterで雑にする」と、小室の適当ぶりも指摘。「浦沢君は僕と一緒に放送部だったとか言うんですよ。僕は陸上部!」と訂正し、「そのくだり、いいとこじゃないですか。それを台無しにしちゃってる」と冗談交じりに話した。そして、「『20世紀少年』は、だれも聞いてなかったという話から始まったけど、結局トモダチが聞いてたって。実際は、小室哲哉が覚えてたって話なんですよ」とあらためて奇跡的なつながりを熱く語った。
この秘話に、Twitterでも「20世紀少年の話、とんでもねぇ話だろ」「面白すぎる」「すげぇ!!20世紀少年が実話を元に作られてたなんて知らなかった そこに小室哲哉がいたのも知らなかった!」などと驚きの声が上がっている。(マイナビニュース2015年2月12日)

****************************************

・・・というような、奇跡的なお話があったのでした。この話を僕も最初に浦沢さんからお聞きした時は、本当に本当に驚愕でした。
そもそも、ご出演が決まったのは小室哲哉さんの方が先でした。小室さんは以前から番組を観ていただいていて、ぜひご出演したいとの話が昨年11月にあったのです。もう二つ返事でOKです。というかもともと出演していただきたいけど、むしろ大物すぎて出演していただけないのでは、と思っていたくらいでした。

小室さんサイドとお話していて、「どなたとご一緒に出演したいですか?」とお聞きしたら、あがった名前がなんと、漫画家の浦沢直樹さん!その時点では同じ中学の先輩後輩だなんて僕らも当然知りませんでした。ただ『MASTER キートン』や『パイナップルARMY』、『MONSTER』、『PLUTO』、『20世紀少年』、『BILLY BAT』などが大好きで、特に僕は浪人時代に『MASTER キートン』を読んで、その影響をもろ受けて大学時代に歴史を専攻しちゃったほどのファンです。もうこれまたいつかぜひお会いしたかった尊敬する漫画家さんで、機会があったらご出演をお願いしようと密かにうかがっていたのです。そんな天才の二人が、まさかご一緒にご出演していただけるなんてそもそもそれこそ奇跡です!

スケジュールを調整して、今年の新年1発目の収録に決まり、放送は2月になりました。
そして、事前取材です。まずお伺いしたのが、浦沢直樹さん!

ご自宅兼スタジオでお会い出来る、それも12月24日のクリスマスイブにお伺いすることになりました!

なんという聖夜なのだ!

僕は大興奮です。

浪人時代の僕に言ったら、興奮して勉強も手につかなかったでしょう(笑)。

僕はそれこそ1989年に買った『MASTERキートン』の第1巻と最近20年ぶりに復活して発売されたばかりの『MASTERキートンReマスター』を携えて、訪問したのでした。

ご自宅の応接間で、早速取材開始です。

最初にお聞きしたのは、

「小室哲哉さんとは、どういうきっかけでお知り合いになったのですか?」

すると小室さんとは同じ中学の1学年違いの後輩先輩であること。しかしそんな事実は知らずに、お二人の交流は『20世紀少年』を読んだ小室さんからの熱烈な分厚いファンレターから始まったこと等々、まさにOAの第1夜で語られた奇跡的なお話から始まって、次から次へと『20世紀少年』にまつわる驚愕の事実がどんどん浦沢さんのお口から出てくるのです。そして最後まで聞いて、僕は絶句してしまいました。
「なんだ!?このすごい話は!!・・・フィクションと実話が錯綜してる!!・・・ってことは結局“ともだち”は小室哲哉ってことじゃないか!!!」
僕はもう即答です。

「これをぜひテレビでお話ししてください!」


浦沢さんも即答です。

「はい!だって小室さん、こんなすごい話をいつもTwitterで雑につぶやくから、いい加減に世間に伝わっているんです(笑)」
いやもう、ありえない!絶対ありえない!こんなすごいお話が、まだちゃんと語られていないだなんて。それが『オトナの!』で聴けるなんて、もうなんという奇跡なのだ。

そして制作スタジオも見学させていただけました。そこで、昨年NHKで放送された『漫勉』という浦沢さんがご出演した番組の話題になりました。

僕も当然OA時に見ていて、浦沢さんはじめ、『沈黙の艦隊』などの大ヒット作を持つかわぐちかいじさんと「天才柳沢教授の生活」などで知られ、これまでメディアにはほぼ登場してこなかった山下和美さんの、漫画を描くところの映像が放送されていてすごい番組だな!と思っていました。その感想を浦沢さんにぶつけると、なんと企画の発案自体が浦沢さんご自身で、浦沢さんがお二人に声をかけ、キャスティングし、撮影の段階でも浦沢さんがカメラ位置を指示したりとこまかく演出なさっているのです。
「漫画家が普段どのように漫画を描いてるかって、実はほとんど映像に残っていない。僕は幼少期見た番組で手塚治虫さんが描いている映像を見たことがあって、それが漫画家を志すきっかけになっている。なので今の日本の稀代の漫画家たちがその創作過程を映像にして世に出すことは未来の漫画にとって大事なことなのではないだろうか?」
そんな浦沢さんの想いがこの『漫勉』という番組を生んだのだそうです。その手塚治虫さんの過去映像も、この『漫勉』に出てくるのですが、僕もOAで見た時驚愕したのでした。確かに写真等で手塚治虫さんが作画しているところの画像は見たことがありますが、実際動いている手塚治虫さんは見たことがありません。実際に見てみると、すごくリズミカルに身体を揺らしながら作画されているのです。
そこから“浦沢さんご自身はどうやって漫画をゼロから産み出すのか?”というお話を伺うことができました。これまたすごいお話でした。「絶対収録でお話しください!」って、これまた即決です。

さらに現在の漫画の出版事情から未来の漫画へと話が及びました。まずは電子書籍の話です。浦沢さんは自分の作品を現在は電子書籍化していません。その理由は「デバイスがまだ漫画を読めるだけ進化していないから」だそうです。

紙の雑誌のように一枚一枚めくれて、見開きで読めるようにデバイスが進化すれば、ほどなく電子化するかもしれないと、浦沢さんはデバイスの進化を待っているらしいのです。そしてそこから最近の0円でスマホで漫画が読めるというビジネスモデルの話に及びました。この0円モデルを積極的に進めているのは、講談社時代には『宇宙兄弟』や『ドラゴン桜』を手がけ、現在はコルクという出版エージェント会社の代表をやっている、最近マスコミでよく目にすることも多い時代の寵児・佐渡島庸平さんです。僕はこの天才編集者・佐渡島さんとはかねてからの知り合いで、その“0円モデル”の話になったのでした。

浦沢さんはこう言いました。

「佐渡島さんにも先日お会いしたけど、僕はこの0円で漫画が読めるってのは、正直危惧します。だって例えば音楽でいうと、若い頃2500円でアルバムCD買うのって結構大金ですよね。でもいざなけなしの2500円持ってわざわざお店に行って、あるアルバムCD買ってみて、実際聞いたらそんなによくなくて失敗したってがっかりすることよくあったじゃない?でも2500円も使ってるから、悔しいから何回も聞いてみるじゃない?するとそのうち結構いいかも!ってなんか自分の中の新たな扉が開かれる瞬間があるよね!僕はそれが“作品と出会う”ってことだと思うし、“失敗にお金を投じる”という経験が“人生”であって、0円で聴けたり読めるとなると、その失敗の経験ができなくなっちゃうんじゃないかな。」
浦沢さんのお話を聞いて僕は鳥肌が立ちました。佐渡島さんには悪いけど僕も正直もっともだと思いました。なのでこれまた浦沢さんに伝えました。ぜひ浦沢さんが考える“漫画の未来”を『オトナの!』で存分に語ってほしいと。

そして、最後に最後に、持参した浪人時代に買った『MASTERキートン』第1巻にサインをしていただきました!!!ものの1分で目の前には主人公のキートン先生が!!!もう感激で死んでしまいそうです。なんていうクリスマスプレゼントなのだ!
サインの写真アップしときます。すいません、これはもうはっきり言って・・・自慢です!

そして年が明けて、今度は小室哲哉さんのプライベートスタジオを訪れ、取材を行いました。
浦沢さんから聞いたお話を小室さんにお伝えすると、笑いながら

「一つだけ条件があります、僕のダメな部分をぜひ放送でカットしないでください!」

最高です!小室さん!!“ダメな部分をカットしてくれ!”はテレビを作ってきて過去に何回か経験しましたが(ちなみに『オトナの!』のゲスト出演者ではそんなこと言ってきた方は皆無ですが)、“ダメな部分をカットしないでくれ!”は小室さんが初めての経験です。
そしてどんなお話がしたいか小室さんに尋ねると、

「過去の話より未来の話をしたい」

ほー!これまたおもしろい!!

数々のヒット曲を生み出した名音楽プロデューサーが考える未来ってどんな未来なのだろうか?僕は質問したのでした。

「今はCDが売れない音楽不況の時代って言われていますよね?小室さんはどう考えますか?」
すると、小室さんは答えました。

「その原因は“音質”の劣化です。そもそもアナログのレコードが、音質的には最高で、だってアナログだから音域の際限がない。しかしその後カセット、CD、MD、配信、ダウンロード、ストリーミングとなってどんどんデジタルで圧縮されて音質が悪くなっていってる。だけど映像は、ハイビジョンからデジタルHD、そして4K、さらに8Kとどんどん良くなっているし、コンサートだってライブだって年々進化していってるのに、音楽だけがどんどん質を落としていってる」

そんな状況がもたらす音楽の未来は果たしてどうなるのか?
すると小室さんから返ってきた答えは

「僕は今の音楽状況を全然悲観していない。まもなく新しい技術が産み出されるとまた音楽は飛躍的に発展しますよ。」

小室さん曰く、今は与えられたデバイスに合わせて、音楽の質を合わせているが、3Dプリンター的な技術がもっと発達すると、僕らリスナーの側で聞くデバイスを選べるようになるらしいのです。そしてそんな技術がもうすぐ目の前にあるらしいのです。そしてさらに小室さんは付け加えました。
「今はその技術の夜明けを待っている状態なだけで、今は“未来の夜明け前”なんだよ!」
僕はドキッとしました「夜明け前!」
「もうまもなく夜明けが来るんだよ。なので僕は今その夜明けをワクワクしながら待っています!」

小室さんはニコニコしながらそう答えたのでした!
今は“未来の夜明け前”。僕はその言葉を聞いて鳥肌が立ちました。
今は“未来の夜明け前”。なんて素晴らしい言葉なんだろう。浦沢さんも漫画の電子化で、次のデバイスの進化を待っているとおっしゃっていました。この二人の天才は、ドキドキしながら未来を待っていて、そして今の夜明け前を、ワクワクしながら楽しんでいるのです!!

収録当日、いとうせいこうさんとユースケ・サンタマリアさんを交えて、お二人は中学時代のエピソードから楽しくおかしくお話され、本当に奇跡の収録になりました。そしてお二人がどうやって作品を生み出すか?は“オトナの0”というテーマで語られ、小室さんの名曲『寒い夜だから』や『CAN YOU CELEBRATE?』の作詞・作曲方法が語られ、浦沢さんからは漫画のストーリーが生まれる瞬間をお話いただきました。

本当に必見のお話です。さらになんと、浦沢さんはご自身がお使いのGペンを当日持ってきてくださって、皆でGペンを使って漫画を描いたりもしました。本当に本当に最高の収録回です。放送は3回に分かれてOAされました。

そしてこの収録が終わって、じつは後日談があります。

その後程なくして、僕は編集者・佐渡島庸平さんと食事する機会が訪れたのでした。僕は浦沢さんに言われた0円モデルに対する危惧を、佐渡島さんに伝えたのです。そうしたら佐渡島さんからはなんとこう返ってきたのです。
「かつては、20世紀は、“お金”が最も価値のある資本主義経済でした。そういう意味では浦沢さんのおっしゃったことは全くその通りです。ですが、IT革命が起こり、いろんな情報が氾濫する中で、これからの未来は、まさにこれからの21世紀は、“時間”が最も価値がある資本主義に変わって行くのではないでしょうか?」
これはどういう意味でしょうか?
今までは、“どれだけ売れたか?”そして“いくら儲かったか?”がもっとも大事なことでした。しかし、これからは一人一人が、“自分の時間を何をするために使ったか?”そして“その時間がその人にとってどんな経験になったのか?”という尺度が新たな価値を生むのではないかということなのです。僕は天才・佐渡島庸平の言葉に三たび鳥肌が立ちました。
浦沢さんの例えからそのまま続ければ、つまりこういうことです。

2500円のお金を失敗に投資したという経験が、今までは2500円という“お金”の価値で判断されてきましたが、これからは1日24時間の中で、どう自分の人生に反映されたか?という“時間”の価値が尺度になるということです。

そう考えるならば、浦沢直樹の言っていることも真理であり、また佐渡島庸平が進めている0円モデルも矛盾しないことになります。

そしてその未来は、小室哲哉の言うように、まさにすぐ目の前までやってきていて、僕らはそんんな新しい夜明けをドキドキワクワクしながら、今か今かと待っているのです。

今は・・・“未来の夜明け前”。

僕らもそんな未来の夜明けを楽しんじゃいましょう!!
読んでいただきありがとうございました!

[水道橋博士のメルマ旬報 vol.56 2015年2月25日発行「オトナの!キャスティング日誌」より一部改定]

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?