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睨むな

毎週月曜の11:30から、”たてしなさんの進捗確認”という煩わしい予定が組み込まれているのだけど、そもそも仕事がないから進捗しようがない。上司がPCの隙間から顔を伸ばし、どうします?と問うてきたので、特に何もありません、と応じた。不毛なルーティンは来週も続く。

左隣の席のお姉さんは漫画のように、ごきゅごきゅ、と喉を鳴らし水やらコーヒーやらを飲む。当初は何事かと思ったが、不思議と慣れた。しかし右隣のおじさんの”俺”という一人称には未だに慣れない。

”俺”は人を選ぶと思う。

脚本を書くと色んな人から批評を受ける。それは貴重で大切な時間であるけれど、同時にとても辛くて悔しい時間。

じっと下をみて耐え偲ぶ・・・なんて事はなく。私は人ではないような目で時々睨む。そうして目の前の同志を睨みつけながら(御免なさい)、この感じ懐かしい、と思った。学生の頃は負けたくないことが沢山あったから(成績、体重、縄張り争い、理由なき反抗)、よくこうやって相手に挑んでいた。だけど社会に出て日和見を習得してからは、はりぼての笑顔を振り撒き、口上手く滑らかな関係を築いてきた。凹凸などまるで無いかのように。

そんな日常だから。私は自分の中の異常な闘争心と気性の荒さをすっかり忘れていた。

そうだ、私は元来こういう人間だったわと唐突に思い出した土曜。開けてしまったパンドラの箱だが、なまった頭では飼いならす事ができない。

14:00からの会議。部屋に日差しが差し込み、春を感じた。

能面顔の上司が金曜日、午後休を貰うそう。聞けば東京マラソンのゼッケンを取りにいくのだとか。

風が吹けば空高く舞いそうな程ほっそりしたその身体で42.195kmかと、感慨深かった。

私は本来の荒い自分と再会してるし、上司は東京を走るし、親友は結婚するし、イモトは南極の山を制覇する。

人生よもやまだなぁと思った。







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