見出し画像

雪解けのとき

こんな変態みたいな記事を書いたことがあった。


これは引越してから行くようになった美容室で
担当してくれる美容師さんとの話で、
これまでの美容師とちがってそっけなく、上手くコミュニケーションがとれない彼女とのやりとりについて書いた。

つたない言葉でも私の意図を汲み取ってくれたり、丁寧な言葉がけで私を安心させてくれたりしていたこれまでの年上美容師さんと違って、
彼女の対応はそっけなく感じられた。
でもそれが刺激的で、いまは無愛想に見える彼女の笑顔を引き出せるお客さんになりたいと思ったのだった。

今振り返ると見た目がタイプだったんだと思う。
こんな変態発言をしていて大丈夫なんだろうか。
この記事が彼女の目に触れないことを願う。


時は流れてはや1年。

その後も同じ美容室に通い、
同じ美容師さんに施術をしてもらっていた。
その度、「うーん、どうも掴みきれないなぁ」と思っていた。
先月はもう美容室を変えようと思って変えた。

そこでの会話はとても楽しかったのだけど、
仕上がりはやっぱりあの人の方がよかった。
やっぱりあの美容師さんじゃなきゃダメだ。
そう思った私は今日、再びあの美容室を訪れた。

数ヶ月ぶりの美容室。
ちょっと内装が変わってたりして、身構える。
いつもは受付から担当の美容師さんだったけど、
今日は違う人が出迎えてくれた。丁寧だった。

どうやら今日は予約が立て込んでいて忙しかったらしく、席に案内された後しばらく待っていた。
緊張感が高まる。
的確に、正確に私の意図が伝わるよう、希望のカットをどう言えばいいのかじっくり考えた。

そしてついに対面の時。
「お待たせしました」と挨拶をする彼女の顔は相変わらず固いように見えた。
「あ、ここ2、3ヶ月はずっと髪を伸ばしていたんですけど、先月近くの美容室でカットとカラーをしたんです。」
自白する犯人の供述のように私まで語調が、かしこまる。
けれど私はくじけなかった。
「顔周りが重たいのが気になって。
 もっと動きをつけたいんです!!!」
向こうは私のイメージする髪型を理解するのに苦労していたようだったけど、彼女の細かく質問に私が答える形で、少しずつ意思のすり合わせをしていった。
「伸ばした後でどんな髪型をしたいのか、にもよりますね」と今後のビジョンを投げかけれて、そうかぁ…それならと思い巡らし、私は意見を述べる。
私の意見を聞いて、「それならこんなカットがいいですね」と具体的な提案を彼女がする。
そうそう!こういうのが欲しかったのよ!
満足をした私は、あとはすべてを美容師である彼女に委ねることにした。

施術中、目の前にはタブレットがある。
雑誌を買わない私にとって、美容室は情報収集の場でもある。
美容雑誌をバーーっと流しみて、へ〜今こんなのが流行ってるんだ。へ〜ベージュベースの口紅ね。たしかにおしゃれだね。なんて思いながらひとりで楽しむ。
その間、彼女は黙々とカットやカラーをする。
これが、この美容室での当たり前だった。

しかし、今日は違った。
なんと彼女の方から質問してきたのだ。
しかも「新しいお仕事は順調ですか。」という、なかなか突っ込んだ質問!びっくり。
あ、転職したこと覚えてたの?とか。
え、そんな質問しようと思うんだ、とか。
いろいろ、びっくり。
てっきり髪切ること以外は興味ないのかと思ってたよ〜。
距離を感じていた彼女が、いっきに近くなる。

そこからの展開は早かった。
私が質問に答えて、質問して。
彼女も質問に答えて、また質問して。
会話はどんどん広がっていく。
もともと同年代だから、共感できることは多かった。そうか、もっと話せることがあったのか。
そんなに身構えることはなかったのかもしれないな。
徐々に私の心も、彼女の心も、
ほぐれていく感覚がした。


彼女との関係は、美容師とそのお客さん。
ただ、それだけ。
それでも何も知らない人同士ではない。
他人ではない。

ようやく行きつけの美容室を作ることができた。
いま、私の心はとても満たされている。


この記事が参加している募集

美容ルーティーン