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『名探偵コナン』コミックス収録エピソードで打線組んでみたwww

先日宝島社より発売された年末恒例の『このミステリーがすごい!』の2024年版で、連載30周年記念として『名探偵コナン』が特集されている。
作者である青山剛昌とミステリ作家の東野圭吾の対談などが組まれ、30年近くコナンファンをやっているミステリオタクとしては見逃す手はない一冊だろう。
そんな特集記事のなか”ミステリー作家が選ぶ『名探偵コナン』ベストエピソード”として阿津川辰海と斜線堂有紀によるベスト5エピソードが紹介されている。それぞれが5話づつエピソードを出し合い、最終的に両者の意見を踏まえてベスト5を挙げるもので、お二人の嗜好やミステリ作家としての視点、趣味が反映されており、鉄板の一話やマイナーながら光る一話などが飛び出すランキングを楽しく読ませてもらった。

俺にもやらせろ。


と言うわけで、2023年12月現在単行本巻数104巻、300話以上あるエピソードから単純に番付するのも難しいし、シリーズもの、ストーリーとしての良さや、ミステリとしての面白さなど数多ある評価軸を総合すると、打線にするのが一番良いと判断したゼロ年代のインターネットオタクが好き放題に組んでみた!


1(中) 空飛ぶ密室 工藤新一最初の事件(21巻)
2(二) 県警の黒い闇(86・87巻)
3(遊) ミステリー作家失踪事件(19巻)
4(三) 闇の男爵ナイトバロン殺人事件(8巻)
5(一) 命がけの復活[約束の場所](26巻)
6(右) 隠して急いで省略(33・34巻)
7(左) 人喰い教室の怪(104巻)
8(捕) 黒の組織との再会(24巻)
9(投) ピアノソナタ「月光」殺人事件(7巻)


解説

1(中) 空飛ぶ密室 工藤新一最初の事件(21巻)

1番、新一、最初の事件と『1』ばかりが集まったエピソード。
空飛ぶ飛行機の中で起こった凶器なき殺人事件に挑むのは、公式でこれが最初の事件となる小さくなる前の工藤新一。
焦点となるのは凶器の行方と正体。空港のX線検査と現場での身体検査をすり抜けた被害者の頚椎を損傷せしめた細く鋭い金属製のモノとは……?
もはや有名すぎる凶器だが、youtuberによる検証動画でもその効果が実証されているお墨付き。
解決編サブタイトル『胸に秘めて…』のタイトル回収もお洒落!

2(二) 県警の黒い闇(86・87巻)

最新刊で長らく謎だった過去と正体が明かされた人物、黒田兵衛管理官の初登場回。
長野県川中島を観光中に遭遇した刑事連続殺人事件をコナン名物ご当地警察官の大和敢助、諸伏高明、上原由衣らと追う一作。
警察官が連続して殺されるというセンセーショナルな展開、過去の事件との関連性、大和警部が被疑者として浮上するなど、全編通して警察ミステリのような緊張感が漂っている。
まさかのバールストンギャンビットと絵面のショッキングさが良い。

3(遊) ミステリー作家失踪事件(19巻)

二か月近く失踪したままの人気ミステリ作家とその妻の行方を調査して欲しいという娘からの依頼を受けた小五郎。連載中の原稿は今も出版社に届けられているのに連絡は何故かつかない。コナンは連載中の小説から隠されたメッセージを発見する。
ミステリ作家が仕組んだ外連味溢れるはた迷惑な暗号と、その鮮やかな解法には思わず誰しもが「読める……! 読めるぞ!」となること大請負。
1/2の頂点は忘れられないキーワード。

4(三) 闇の男爵ナイトバロン殺人事件(8巻)

阿笠博士の代理で参加したミステリーツアー、隠れた主催者を見つけ出した者に与えられる景品のプログラムは新一の父親が書く小説に登場する怪人物、闇の男爵ナイトバロンの名を冠するコンピューターウイルスだった。そんな中、ツアー参加者の一人が闇の男爵ナイトバロンの仮装姿で転落死する。
正直4番を張れるエピソードは他にも多くあるだろうが、この回はコナンの中で一番好きなシーンがあるので、俺のチームだと不動の4番です。
それは蘭がかつて新一に問いかけた「犯人が親しい人だったら?」という質問に応えるシーンである。蘭は「いつもみたいにカッコつけて指摘するんでしょ」と言うが新一は「その人の無実を最後まで信じてるのだから、告発するその時はボロボロの姿だよ」と返す。これは新一が“探偵”をする意味を真に理解しているからで、他人や自分の心を傷付けることになってしまったとしても、真実を追求したい、正義をなしたいという強い意志そのものである。フーダニットの本質はヒトを”想う”優しさと思いやりであるのだ。
この探偵像はぼくが他のミステリ作品の探偵役を評価する時の大きな指針となっている。
返歌ともいえるエピソード『大阪"3つのK"事件』も合わせてご覧いただきたい。

5(一) 命がけの復活[約束の場所](26巻)

たま~にある一時的にコナンが新一に戻るエピソードのひとつ。
高校生の分際で、親のカードを持ち出し蘭と高級レストランでのディナーデートに出かける新一。同じビル内ではゲーム会社のパーティーが行われており、その会社の社長がエレベーター内で射殺されるという事件が発生する。事件を嗅ぎつけた新一は蘭を残し現場へと向かう。
この回なんと倒叙です。
ロジック派のぼくは”照明の落とされた廊下では開いたエレベーターの光がないとピアスの色を判別できない”という詰め筋があまりにも鮮やかすぎて大好きな詰みの一手。
なお耳元でサプレッサー付きとはいえ銃をブッ放しているのに気づかない問題は不問とする。

6(右) 隠して急いで省略(33・34巻)

おそらく多くの人がタイトルだけではどんなエピソードだったかピンとこないだろう。しかし、
ダイイングメッセージ□○×△の事件
と言えば、結末を知っている人はもう真犯人の名前すら頭に浮かんでいるはずだ。
とある企業の横領事件を調査していた探偵が刺され、死ぬ間際に記したダイイングメッセージは□○×△。横領犯であり探偵を殺した人物は社員58名の中にいる。
クイーンの『アメリカ銃の謎』のように大人数の中からたった一人の容疑者を絞り込んでいくミステリが好きです。
日本語ならではの仕掛けと、メッセージの奇矯さが見事なマリアージュを見せる一作。

7(左) 人喰い教室の怪(104巻)

最新刊より期待の新人がまさかのスタメン入り。
コナン達が通う小学校は授業参観日、一喜一憂する生徒たち。そんな授業参観直前の昼休み中、教室の外の花壇で急に火の手が上がる。火はすぐに消し止められたが、誰がどのようにして火を着けたのだろうか? 隣のクラスの転校生が話す幽霊譚が関わっているのだろうか? 残された昼休みの時間内に真相を追うコナン。
非常にレベルの高い日常の謎をやってのけた一作。トリック自体は単純なものだが、すべて小学校の中で用意できるものであり舞台設定の妙が光る。
また、贅沢にもHow Why Whoの3つのdone itを扱っており、鮮やかなロジックでそれらを導き出すのもお洒落。意外な動機、意外な犯人モノとしてもお見事。

8(捕) 黒の組織との再会(24巻)

偶然街で出くわしたジンの愛車に仕掛けた盗聴器から、とある暗殺計画を聞き出したコナン達は正体がバレる危険を犯しながら、計画を阻止しようと現場となるホテルへ乗り込む。そんな中、同行する灰原が組織のメンバーのピスコに拉致されてしまう。
「犯人が親しい人だったら?」のシーンがコナンで一番好きなシーンだとしたら、二番目に好きなシーンは今年の劇場版でもセルフオマージュされた

「知ってるか? そいつをかけると絶対に正体がバレないクラーク・ケントもびっくりの優れものなんだぜ?」
「あら、じゃあ眼鏡をとったあなたはスーパーマン?」

これしかあり得ない。
キザすぎてキザすぎて仕方がないんだけど、なんでこんなに格好良いんだ……。
危機的状況なのにこんなに機知に富んだ軽口を叩き合う二人が本当にお洒落……。
コナン単推しなのにさすがにコ哀派になびいてしまいそうになる破壊力がある。劇場版『黒鉄の魚影』の海中から浮上するときの思い出ボム演出もズルかったですね!

9(投) ピアノソナタ「月光」殺人事件(7巻)

もはや説明不要。
コナンは推理力を底上げするために
『泣かない』
『推理で人を追い詰めて死なせない』
という縛りを自らに課しているのだけど、その縛りのひとつが破られた唯一の回。
4番のところでも散々述べたが、新一=コナンは『ヒトがヒトを助ける理由に論理的な思考はいらない』という善人の中の善人です。たとえ相手が殺人犯であろうと、生きて罪を償わせることが探偵としての矜持と描かれています。その為、その矜持を果たせなかったこの回はことさらに象徴的なエピソードでありシリーズとして語るには絶対に外せないエースポジションと言えるでしょう。


まとめ

こうして振り返ってみると

1 消えた凶器
2 バールストンギャンビット
3 暗号
4 探偵論
5 倒叙
6 ダイイングメッセージ
7 日常の謎
8 キャラクター像
9 シリーズ像

ミステリとしても創作物としても各種テーマがバランス良く、なかなかの打線が組めたかなと思います。

異論は認める。

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