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裁判所に「一票の格差」問題をとりあげさせた人は偉大???

東京ももうすっかり夏ですね!!!
みなさんはどんな夏にしたいですか???
今日は、前回書いた「一票の格差」について、それを裁判所にとりあげてもらうにはどうしたら良いのかについて少し書いてみようと思います。

1 違憲立法審査権って何だ???
 違憲立法審査権という言葉は、中学校や高校の現代社会等の授業で聞いたことがあるという人もいると思います。
 違憲立法審査権とは、憲法が裁判所に認めた、ある法律が憲法に適合しているか違反しているかを判断する権能のことです。裁判所によって憲法に違反していると判断された法律(合憲部分と違憲部分が分けられる場合には違憲部分のみ)は、無効となります。
 法律を廃止することも、消極的な意味での立法行為です(消極的立法)。そして、立法行為は国会の専権ですので、法律を廃止することも国会の専権に属する行為になります。これは三権分立という考え方に基づく役割分担です。そして、裁判所が法律を無効とすることも消極的立法の性格を有しますので、裁判所が違憲判断をすることは例外的なことではあります。
 憲法が、三権分立の考え方からすると例外的な違憲立法審査権を裁判所に付与した趣旨は、民主主義国家において多数決からもれた少数者の人権を保障するためです。民主主義国家においては多数派の意見が優先され、少数派の意見がないがしろにされてきた歴史があります。そうならないように、国民から選出されていない裁判所に憲法の番人としての役割を担わせているのです(国民から選出されていると、選出してくれた人に有利な政策判断をしがちになってしまいます)。

2 一票の格差と違憲立法審査権ってどんな関係???
 一票の格差の問題は、違憲立法審査権との関係で言えば、公職選挙法で定める「選挙区と議員定数の定め(議員定数配分規定)」が、憲法14条1項の平等主義に反するのではないかという問題です。議員定数配分規定が憲法に違反すると裁判所が判断すれば、その規定は無効となるのが原則です。

3 付随的違憲審査制って何だ???
 この言葉も聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。これは、具体的に国民が権利を害されたと主張して訴えた裁判の中で、その審理に付随して、判決をするのに(結論を出すのに)必要な範囲で裁判所が違憲立法審査権を行使し、法律の憲法適合性を判断するという仕組みです。憲法はこの付随的違憲審査制を採用しているので、裁判所が具体的な事案を離れて法律の憲法適合性判断をすることはできません。

4 一票の格差訴訟と付随的違憲審査制の関係は???
 どれだけ大きな一票の格差が生じても、それは公職選挙法の議員定数配分規定が憲法に反するだけで、国民一人ひとりの具体的な権利や利益が害されることにはならないと考えられています。そのため、一票の格差訴訟は、付随的違憲審査制を採用する現行憲法のもとでは、憲法適合性判断の対象にはならないようにも思えます。
 しかし、例外的に、一定の要件の下で法律が認めた場合には、国民の具体的権利の侵害が問題となっていなくても、裁判所が法律の憲法適合性判断をすることも憲法上許されると解釈されています。
 そうすると、一票の格差訴訟もそれを争う制度が法律上用意されていれば付随的違憲審査制の例外として訴えを起こすことができることになります。

5 一票の格差訴訟と公職選挙法の選挙無効訴訟
 そして、公職選挙法は、選挙無効訴訟を用意しています。これは、投票や開票に不正があった場合等に選挙を無効にすることを求めて高等裁判所に訴えを起こすことができるとするものです。
 しかし、一票の格差訴訟は、公職選挙法に違反した選挙の効力を問題にする訴訟ではなく、公職選挙法の規定自体が憲法に違反しているかどうかを問題とし、違憲の公職選挙法の規定に基づいて実施された選挙の効力を争う訴訟です。そうすると、この問題を果たして公職選挙法の選挙無効訴訟で扱うことができるのかという疑問が生じます。公職選挙法の選挙無効訴訟の制度は、公職選挙法自体が違憲の場合の選挙の効力についてなんら規定・想定していないものと言えるからです。
 この問題に関して最高裁判所の大法廷は、この制度が現行法上選挙の適否を争うことのできる唯一の訴訟であること及び国民の基本的権利を害する国家行為を是正する途はできるだけ開かれるべきことから、公職選挙法の選挙無効訴訟の中で、公職選挙法自体が憲法違反で無効であることを選挙の無効原因として主張することが許される、と言っています。

6 一票の格差問題を是正することは困難???
 このように、手続上も、一票の格差を裁判所にとりあげてもらうことも一筋縄では行かないところがありました。また、一票の格差自体が平等権との関係で問題をはらむものという本案の議論(前回のお話)自体も、なかなか難しい議論です。
 一票の格差問題に取り組まれている弁護士の先生方や研究者の方々は、これらの論点を一つ一つ乗り越え、裁判所を説得させながら、目標に近づく努力をされています。簡単なことではなかったことは容易に想像ができます。本当に偉大なことだと思います。

7 一票の格差問題のその他の問題点
 今回触れることができませんでしたが、この一票の格差訴訟の議論は、最高裁判所がどの様な判断枠組みで公職選挙法の議員定数配分規定の憲法適合性判断を行っているのか、違憲状態と判断された後にその適用が問題となる事情判決の法理等、非常に興味深い論点をたくさん含んでいます。
 興味のある方は、是非、最高裁判所の判例の原文や基本書をお読みになってみてください。
 最高裁判所の判例は、最高裁判所のホームページの判例検索ページから探して読むことができます。例えば、「昭和51年5月14日」の最高裁判所の大法廷判決を読んでみると非常に参考になると思います。

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