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【読書日記】7/12 ごきげんいかが。「樋口一葉の手紙教室/森まゆみ」

樋口一葉の手紙教室 「通俗書簡文」を読む
森まゆみ 著 ちくま文庫

暑中見舞いの季節となりました。
七月の異称「文月」のふみ、という読みにちなんで7月23日はふみの日、特別な切手も発売されます。
情報手段の発達で手紙を書く機会も減りましたが、ことばに心を添えておくる力は手紙ならではと思います。
とはいえ、文面に悩むのもまた事実。それは昔も今もかわりません。

樋口一葉が書いた手紙実用文例集である「通俗書簡文」。ここでいう「通俗」とは「わかりやすい」とか「一般的で誰にでも」というほどの意味のようです。
この手紙文例集の一部を紹介しながら著者の森まゆみさんが背景や当時の習俗の解説を加えたのが本書。
以前、「かすてら文学コレクション」を読んだときに、樋口一葉の項で「春雨ふる日友に」と題した手紙実例について知りました。

ただの手紙文例なのにまるで掌編小説のような趣に興味を惹かれてもっと読みたい、と思っていたらおあつらえ向きの本書があったのです。

季節ごとの挨拶文はもちろんですが、「猫の子をもらいにやる文」とか「書物の借用を願う文」、「友の驕奢をいさむる文」、「人の家の盆栽を子のそこないつるに(お詫びの文)」など様々な状況に応じた文例が紹介されています。
想定された状況がドラマティック過ぎて、「実用」として参考になったのか疑問なところも無きにしも非ずですが、楽しく読めます。

ありふれた時候のあいさつ、暑中見舞いも一葉女史の手にかかると一味違います。

今日は寒暖計九十度を越し申候、いかが御しのぎいらせられ候や。
手洗いの水も湯と沸き候て、草木の色も思いなしか枯れしぼめるようの御暑けさ、氷の柱たてたらばとのみ思いわたられ申候(後略)

樋口一葉 通俗書簡文 暑中見舞い

候文なので一見わかりにくく感じますが、声に出してみるとその調べがなめらかで、お暑いですね、と労わる思いが語り掛けられているように伝わってきます。

今日も雷を聞きましたが、友達への「雷見舞いの文」も臨場感にあふれています

先刻雨ぐも空をおおいて出し時は、きのうも空しゅう過ぎたりし夕立の今やかかると頼もしく、久しゅう照りつづきて寒暖計は百度にも近うならんとするを、引かえ涼しゅう成ぬべしと窓によりつつ打ちながめ居りしが、冷たき風に木の葉さわぎてそそやと雨戸くりだす間もなく、天の川をさかさまにせしようなる降出しさま、それはいと心地よく胸ひらくよう覚え居候いしかど、雨戸のひまよりきらめき入る電光(いなずま)の眼をいるよう成しに合わせて轟き出たるかみなりのすさまじさ、常より気づよくほこり顔なる仲働きさえ桑原となえ出申候。(後略)

樋口一葉 通俗書簡文 雷見舞い

日照り続きで今日も暑いから、一雨くればよいのに、と外を眺めていたら、さあっと冷たい風が吹いて木の葉を揺らしたかと思うと、天の川をさかさまにひっくり返したような雨が、雨戸を閉める間もなくざあっと振り出しました。
それは爽快だけれど、雷光が激しくて、すさまじいとどろき、普段気が強い仲働きすらくわばらくわばら、とおまじないを唱えるほどです

というところでしょうか。

こんな素敵な暑中見舞い、雷見舞いをさらさらっと書いてみたいなあ、と「手紙美人」へのあこがれが募るのです。

一葉女史によれば、手紙を気安く書けるようにするためには、文字を書き慣れることが大切で、日記を書くとよい、といいますので、noteを書くのも練習になる、でしょうか。

今日も大雨災害の報を聞きます。美文とは程遠いですが、お見舞い申し上げます。