見出し画像

【読書日記】8/27 いつか忘れられる日を思う。「ボタンちゃん /小川洋子」

ボタンちゃん
小川洋子(文),岡田千晶(絵)
PHP研究所

小説もエッセイも大好きな作家さん、小川洋子さんの絵本です。

主人公は、「ボタン」。
アンナちゃんのとっておきのブラウスの一番上にとまっている、丸いお顔の女の子です。

ある日、ボタンちゃんは、糸が切れてしまいました。
コロコロコロ・・・転がっていった先で出会ったのは。

おもちゃ箱の裏側で「ガラガラ」
洋服ダンスのうらで「よだれかけ」
ベッドの下で「ホッキョクグマのぬいぐるみ」

かつて、泣いているアンナちゃんを笑わせ、お食事を手伝い、暗い夜に寄り添ったものたち。
今は、その役目を終え、忘れ去られて泣いていました。

ボタンちゃんは、あなたのおかげで、今のアンナちゃんはとても立派に成長している、と教え、涙を拭いてあげます。

ボタンちゃんは、しばしの冒険を終えた後ママに縫い付けられて再びブラウスに。ガラガラたちは、おそうじ途中のママに見つけられ、きれいにしてもらって「思い出の箱」にしまわれました。

そして、ブラウスが小さくなりボタンちゃんも「思い出の箱」にしまわれるときがきました。
ガラガラたちと再会してボタンちゃんたちは、箱の中からアンナちゃんの無事を祈るのでした。彼らの声は、もうアンナちゃんには届きませんけれど。

思い出箱の中で。

小川さんは、小説で「だれからも顧みられず、片隅にいるもの」に静かに光をあてて描き出しますが、この絵本でもその眼差しが「忘れられたもの」に優しく注がれています。

「幼い頃の大切なものが成長と共に不要になる」という感傷的になりがちな題材の物語なのですが、それを救っているのは、ボタンちゃんの人となりです。

このボタンちゃん、糸が切れてブラウスから離れていくとき、大ピンチなのですが「わたし、ころがるのにちょうどいい形をしているんだわ」とその状況を楽しむなかなかのつわものなのです。

そして、ボタンちゃんが再びブラウスに戻ったとき「もう会えないかと思ったわ」と泣いて喜ぶ親友のボタンホールちゃんに対して「探検の間、ボタンちゃんは、本当はボタンホールちゃんのことをほんの少しわすれていました」という、けろっとしたところもあるのです。

ボタンちゃんは、探検の間に、いずれ自分も忘れられる側にある、ということを悟り、それをアンナちゃんの成長の証、として喜んで受け止める強さを身につけたのだろうな、と思います。

誰しもが、幼い頃より、その時々で大事だったものを置いて成長してきました。
ずっと覚えていて長く大切にしているものもあれば、意識すらせずにとっくに忘れてしまったものもあるでしょう。
「人」だけでなく、たくさん、たくさんの「物」たちに助けられて支えられて育ってきたという事実を思うとき、自分もきちんと自分を愛してあげないといけないな、と思います。

さて、子供たちも、いずれ巣立ち、自分の人生を歩み始めたら、私のことも普段は、あまり思い出さなくなっていくのでしょう。

ボタンちゃんたちのように、子供たちの無事を、日々のしあわせを遠くから静かに祈る日が来るのだなあ、と思うと、何かと腹の立つことも多い子供たちですがもう少しおおらかに接してあげられる・・・かもしれません。

この記事が参加している募集

子どもの成長記録