【読書日記】1/6 武家社会の弱点。『武士の家計簿/磯田道史』

武士の家計簿「加賀藩御算用者」の幕末維新
 著者 磯田道史 新潮新書

「大名倒産 /浅田次郎 著」を読んでいて、藩主を始め重役が金は賤しいものだから、話も聞きたがらない、とか、帳簿が年貢の収入も借入金も無償の納め金もすべて一緒くたに収入にしているどんぶり勘定な帳簿である、とか、描写が『武士の家計簿」』を彷彿させるなあ、と思っていたら、下巻の解説で磯田道史氏と対談していました。
そこで久々に再読。
 磯田氏が「金沢藩士猪山家文書」という武家文書に遺されていた「家計簿」から幕末の激動期を生きた一家の姿を導き出していくのが本書です。
 磯田氏は、なかなか武家の帳簿が見つからないのは、散逸したのではなく、そもそも存在しなかったのではないか、と推察します。
そして、以下のようなことを指摘しています。

「江戸時代の武士社会は行政組織として一つの弱点をもっていた。というのも行政に不可欠な「算術」の出来る人材がいつも不足しがちであったのである。武士とくに上級武士は算術を賤しいものと考える傾向があり、算術に熱心ではなかった。(中略)ソロバン勘定などは「徳」を失わせる小人の技であると考えられていたからである。」

武士の家計簿

 私にはこの視点は新鮮でした。
 武士が経済的に困窮し幕府も疲弊していったのは歴史でも習いましたが、財政的な実態を把握していないのでは立て直しようもないし、黒船が来ずとも遠からず倒れていたのだろうな、と。
そして、現在でも「お金のことはわからない」ということを美徳と考えている人を時折みかけますが、こういうところに根があるのか、と腑に落ちました。

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