見出し画像

【読書日記】9/5 詩と香水。追悼・福原義春氏「道しるべをさがして」

資生堂名誉会長・福原義春氏の訃報を聞きました。
資生堂の社長・会長として経営に携わり、同時に企業による文化支援活動を推進し、初代企業メセナ協議会会長を務めました。

なぜ企業が文化に貢献するべきなのか。企業は経済活動のために環境に負荷を与え、資源を消費する。同時に、文化を支える人材を労働力として収奪してしまう。
だからこそ、文化で次世代に還元することに意味があるのだ。

「メセナのみらい」より。私の知っている一番分かりやすいメセナの定義。

「道しるべをさがして(朝日新聞出版)」は、福原氏の社会・経済・文化・自然、よろずのことを綴ったエッセイ集です。
名経営者としての手腕が垣間見えるかと思えば、趣味の写真や蘭の栽培への熱い眼差しやナメクジやドクダミなど一般的に表舞台に出にくいものにも注目する好奇心や観察眼。そして何より読書家としての視点。

どの章も学びの種にあふれているのですが、「文化資本の経営」の章で、「人、物、金」に続く第四の経営資源として「文化」を挙げているところは、現代の企業に必須の考え方だと思います。

創業以来の経営判断はもちろん、小さい例では来客の迎え方や会計の仕組み一つをとっても会社により正しいとされる作法が違う。企業ごとの事業活動の営為の記憶が、有形無形の企業文化となる。企業文化は単なるストックではなく、金庫に大事に積み上げたままでは使えない。それを生かすことで、次の時代の資本となり、利潤を生むのだ。
 文化資本は、過去の遺物ではない。事業の継続と社内外の求心力の中心にあり、新しいモノをつくり、コトを起こす創造性に通じる。その源泉は、継承されてきた文化資本を、地域活動など市民生活を通じて獲得した文化性と重ね合わせ、次世代の価値創造を試みる社員の人間力だ。その連続により企業は社会性を備え、経営品質を高めながら拡大再生産のサイクルをまわし、経済的にも発展できる。

文化資本の経営より

企業は、社会の中で自然環境の中でどうあるべきか、目まぐるしい混沌の時代に「道しるべ」となるものはなにかということを深く考えさせられるのです。

芸術・文化を愛し支援する経済人、ひとつの憧れの姿でした。
ご冥福をお祈りします。

さて、福原氏は現代詩の造詣も深く、第35回まで続いた「現代詩花椿賞」の創設にも尽力しました。
「現代詩花椿賞」の受賞者に贈呈される特製香水瓶は、一点ものだったそうです。

「ことばを拾い、編み出して詩を作るのは、香水を創るのによく似ているのかもしれない」

資生堂企業文化誌「花椿」より

詩、というものをなんと美しく言い表しているのだろう、と思います。
残念ながら「現代詩花椿賞」は終了していますが、ウェブ「花椿」で毎月の詩が公開されています。

「ことばは力、文字は魔術」ということばも遺した福原氏をしのび、詩集をひもとこうとおもうのです。


この記事が参加している募集

ビジネス書が好き