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【読書日記】5/4 みどりの日に「イマージュの狩人」になろう。蟻は3か8か?「博物誌/ルナール」

博物誌
ルナール (著) 辻 昶 (訳) 岩波文庫

5月4日はみどりの日。
戸外のそぞろ歩きにちょうど良い、薫風にのって草木のにおいや鳥や虫の音などが届く、万物の命の輝きの季節です。

そんなみどりの日に、ルナールの「博物誌」。フランスの田園地帯で出会う生き物たちの様子を観察し、的確に、洒落たことばで描き出しています。
「へび」や「ちょう」有名で、よく引用されています。

へび 
長すぎる。

ルナール 博物誌

ちょう
 このふたつ折りのラブレターは、花の所番地を探している。

ルナール 博物誌

ルナールは「物の姿(イマージュ)の狩人」として、朝早くとび起きて外へと出かけて「物の姿」を狩り集めるさまを記しています。
「目が網の代わりになって、物の姿がひとりでにひっかかってくる。」と。
道の姿、河の姿、麦畑、うまごやし、ひばりやごしきひわ。林の中の木々、そして入日。
そうして集めた「物の姿」を反芻して楽しむ。

とうとう、頭の中を物の姿でいっぱいにして家にもどると、部屋の明かりを消す。そして、寝つく前の長いあいだ、手に入れた姿をひとつひとつ数えて楽しんでいる。

ルナール 博物誌「物の姿(イマージュ)の狩人」

こうして手に入れた「物の姿」をどのように表現するか、簡潔に、的確に、と工夫し続けた様子が巻末に添えられた辻 昶氏の解説に記されています。

私も地方都市に住み、この時期にたくさんの動植物を見ているのに、それを描写できるかというとあやふやになってしまいます。しっかりとは見ていないのだなあ、と思います。

そして、ルナールさんのあり

あり
どれもこれも、3という数字に似ている。
そして、いること!いること!
333333333333・・・・・匹、無限な数まで。

ルナール博物誌

ありの形って確かに数字の3みたいです。
これを特に面白い、と思ったのは、先日与謝野晶子の詩集を読んでいたから。
晶子さんはありを「8」にたとえていました。

 蟻の歌(少年雑誌のために)  与謝野晶子
蟻よ、蟻よ、
黒い沢山の蟻よ、
お前さん達の行列を見ると、
8、8、8、8、
8、8、8、8……
幾万と並んだ
8の字の生きた鎖が動く。
(後略)

与謝野晶子 「蟻の歌」

こちらも、なるほど!ですよね。
ルナール氏は、ありを真横からみて、晶子さんは、真上からみたのかなあ、と。

ありは、これからの季節、少し油断をすると家の中で行列を作っていることがあって慌ててしまいますが、今度はまずゆっくりと観察してみたいと思います。

野山だけでなく庭にも沢山の生き物がいます。
「庭の中で」はすきやつるはしなどの道具、ひまわりやばらなどの花、アスパラガスやじゃがいもなどの野菜がそれぞれつぶやいています。
洒落や皮肉も聞いていて読んでいて楽しい一編です。

庭の中で(抜粋)
花―きょうはお日様が照るかしら?
ひまわりーだいじょうぶさ、ぼくがその気になりさえすりゃあね。
如雨露―おっと待った!ぼくがその気になればね、雨降りになるよ。おまけに先のはすぐちを取りでもしたら、どしゃ降りってとこだよ。

ルナール 博物誌「庭の中で」より抜粋

私も、庭に出て「物の姿(イマージュ)」を狩り集めてみたくなりました。