【詩歌の栞】9/29 中秋の名月「同じ月を見ている/谷山浩子」
中秋の名月です。
夕方のうろこ雲は やわらかな朱色に染まり、やがてその姿は暗がりにひそみ、しばらくして静かにまるいまるい月があらわれました。
夜も更けて部屋のまどから中空に浮かぶ月を眺めます。
自然と浮かんでくる歌。
谷山浩子さんの「同じ月を見ている」
NHKラジオ深夜便の2012年の「深夜便のうた」として谷山浩子さんが作詞作曲した歌です。(私は、中学生の頃(昭和末期)から谷山浩子さんのファンなので、語りだすと長いのですが、それはまたいずれ)
インタビューによると「同じ月を見ている」のテーマは谷山浩子さんの歌に繰り返し登場する「知らない、会ったことのないひとりの人と、違う場所で、あるものを通しての交流」ということだそうです。
家族や恋人、友人が離れていても同じ月を見ている、というのではなく、今、この月を見ている直接的には知らない人に思いを馳せる、ということ。
「同じ月を見ている」ということは、今、まさに同じときに同じ地球上で生きて共にあるというご縁。
そのご縁を大切だと思える人が増えれば、この世界はもう少し優しくなるのかもしれません。
今夜、月を見上げた皆様が元気でありますように。
さて、「同じ月を見る」というテーマで私の記憶に残る一句があります。
俳人の福永耕二の業績をしのぶ小学校から高校までの児童生徒を対象とした俳句大会なのですが、時々鮮やかな印象をのこす句に出会えます。
この句も十年以上前の句なのですが不思議と記憶にあるのです。
同じ月を見る。
ひとだけでなく、地球にいるすべての生きとし生けるものが同じ月を見る
それは、今現在生きているものと同じ月を見るという水平の縁
過去にいきていたものが見た同じ月を今、自分が見ているという垂直の縁
数多の縁が重なってこの月を見上げている
日中の暑さの残り香が肌に物憂くまつわりつき、虫の声がかすかにひびき 少し感傷的になるそんな夜です