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【読書日記】 2/23 雅な都のお猫様。「千年の黙/森谷明子」

千年の黙 異本源氏物語
 森谷明子 著  東京創元社


今日は天皇誕生日なので、宮中を舞台とした猫本を。

第一部「上にさぶらふ御猫」
 中宮定子が出産のための宿下がりに連れて出た猫(命婦)が姿を消した。
 猫を可愛がっていた一条帝を慮って捜索が続くうち、左大臣道長邸から入内間近の彰子の猫もいなくなったという。
 道長の派閥に属する藤原宣孝も猫の探索に奔走するものの困り果てて、聡明な妻に相談する。
 妻の名は香子。教養の高さは折り紙付きで今は、物語などを書いていて、道長から彰子付きの女房にとしきりと誘いの文を送られている。すなわち後の紫式部。
さて、紫式部の謎解きは如何に。猫の命婦は何処にいる?

猫のいなくなった牛車に残されていた菊の花びら。
中宮の宿下がり先の近くで起こった襲撃事件。
紫式部の文箱から無くなった書付
紫式部の女童・あてきが連れてきたぶすくれた顔のでっぷりとした猫は態度が大きい。

謎の出来事と、落陽の中宮定子と今を時めく左大臣道長を取り巻く宮中の人々の思惑が交錯し、史実(日記に記されていることなど)と源氏物語の中のエピソードなどが重なり合って一つの物語を作り上げています

第一部のエピソードの後、さらに、紫式部は物語の執筆に注力します。
そして源氏物語の幻の巻、光の君と藤壺の逢瀬を描く「かかやく日の宮」の原稿は、なぜ紛失したのか、日本文学史上最大級の謎を描く第二部「かかやく日の宮」。源氏物語では題名だけの源氏の死を示唆する「雲隠れ」の顛末を描く第三部「雲隠」。

紫式部と愛娘・賢子、あてき(小少将)、中宮彰子、左大臣道長らが絡み合って「源氏物語」が成立して、人々の間に広まっていく。その過程の物語をさもありなん、と楽しみました。

歴史ものは同じ人物がどんな風に描かれるのか、人物造形かを読み比べるのも楽しみのひとつです。
本作の彰子は、しなやかに強く、明るく私は好きです。
特に次の台詞には、彼女の境遇を思うと重みがあります。

正面切って反対を唱えなくても、自分の意思を通す道は必ずある。

千年の黙より中宮彰子のことば

現代でも様々な事情で思うに任せない立場に立たされることはいくらでもあること、しかし、その中でも自分の意思を持ち続けること、その道を模索することをあきらめない。そうありたい、と思うのです。

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